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概要

形 forme 306号

自己が見えてくる厳しさと向き合ってほしい中学時代の三年間、子どもたちは大きく成長します。大きめの制服で、目をキョロキョロさせながら入学した、三年前の幼かった子どもたちは、いつの間にか私の背丈を越えていきます。身体もですが、卒業式の一人一人の頼もしい表情に現れる精神的な成長が、卒業という別れの儀式を揺るがざるものにしているかのようです。三年生の日常は、それまでとは違う、大きな変化を見せてくれるように思います。生まれて初めて、自己の適性に沿って進路選択を迫られる十五歳ということもあってか、明らかに二年生とは、自己の責任観や客観性、そうした内面に違いが生じます。教師には「育み」という意味で喜ばしいですが、個々の生徒にとっては、厳しい面も含みます。厳しいけれど、私は美術の教師として、特に自画像を描くとき、子どもたちに自己が見えてくる厳しさと向き合ってほしいのです。逃げようがない現実の自分と抱いた夢との葛藤は、自画像を描くという学習を通して、「生きる」厳しさを学ばせ、大きく彼らを成長させます。ある時、いつまでたっても自分を表現できない生徒がいました。友達は彩色を始めたのに、彼は下書きのアイデアと格闘しています。いつしか鉛筆の擦れた色で画面の一部が真っ黒になるころ、さすがのワトソン紙も鉛筆と消しゴムの摩擦で音をあげ始めました。未完となった彼の自画像、しかしそこに描かれた目は、しっかりと前を向きこちらを見すえていました。彼が二年生のときには描けなかった世界が、そこに確かに存在したのです。静かな対峙の後に、夢をつかめる成長した自分がみえてくることを伝えたいものです。特集中学校三年間の美術で伝えたいこと2・3下掲載の生徒の自画像「変えたい」。自画像は自己を深く見つめる三年生に取り組んでほしくて、より三年生向きの2・3下に掲載しています。11 | 306 | forme