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概要

形 forme 306号

大橋功おおはし・いさお岡山大学・大学院教授。実践美術教育学会会長、日本美術教育学会事務局長なども務める。大阪市立中学校で教えた後、佛教大学、東京未来大学を経て現職。それぞれの発達段階における子ども理解に根ざした学習指導のありかたについて研究している。村上尚徳むらかみ・ひさのりIPU・環太平洋大学教授。岡山市立中学校教諭、岡山県教育庁指導課指導主事を経て文部科学省教科調査官、及び国立教育政策研究所教育課程調査官。平成二十年の中学校美術、高等学校芸術(美術・工芸)の学習指導要領作成を担当した後、現職。キュラムを考えてよい、ということです。しかし子どもが美に出会い、学びを深めていくということを考えると、やはり順序性はあると思います。村上指導案で生徒観や題材観を書くように、まず生徒の実態をとらえて、題材を考えますよね。例えば自画像。二年生になったばかりの時期に描くのと、受験期の葛藤を抱えた三年生に描くのでは、やはり違いますね。大橋自画像で背景を工夫させるなどすると、本当にいろいろな表現が出てきますよね。三年生になって、自分がこうありたいとか、自己実現への強い欲求が芽生えてきた時に応えられる場をどうやって提供できるかというと、まさに美術だと思うんですね。そこを保障することによって、やっぱり中学生にとって美術って大事なんだねと。村上美術の学習は、生徒の心や知的な理解力の成長と深く関連しているので、教科書が学年を意識した題材配列になっていることが重要です。特に、三年生まで美術が必修教科であることを考えると、三年生に必要な美術、三年生にならないと十分理解できないこと、身につきにくいことを押さえて指導することが大切です。私自身の体験でもありますが、小学校の修学旅行で京都に行って仏像を見ても、あまり面白くない、どちらかというと退屈でした(笑)。それがある程度年齢がいってから見た時に、金箔もはげてきれいではない仏像から、何か美しさを感じました。人間は心も成長していくし、考え方も成長していく。ある程度年齢がいかないと理解できないものはあると思うんですね。仏像を含む日本美術については、国立教育政策研究所がアンケートを行っていて、それを見ても三年生にならないと分からない美意識や価値観があると思います。各学年二千人ほどを対象にしたアンケートで、日本の美術文化を理解することが「好きか」「できたか」という質問に、肯定的に答えた生徒は二年生が四〇%あまりだったのが、三年生では半数を越えるのです。文化と言う時に、一つの作品だけ見ても分からない。ある国のある時代の複数の作品を見て、そこから共通の美意識や精神を感じ取って、初めて文化は分かるんですよね。そういうことが分かるようになる年齢が中学三年生なのだと思います。また、目に見えるきれいさだけでなく、見えない美しさも感じ取れるようになり、それを大事な価値として追求しようとする。これが三年生の「美の探求」だと考えます。大橋私からは彫刻の題材を例にお話しますと、一年生でストレートに対象をとらえます。量感でとらえて量感で表す、立体的な表現の基礎です。そして二・三上で動きの表現。さらに抽象彫刻をやりたいとなった時、先ほどの仏像の話とつながると思いますが、抽象的な美をさらに理解して表現するには、三年生がベスト。だから下に載せているわけです。教科書は子どもにとって分かりやすいことも必要だけれど、先生にとっても三年間の学びの流れの中での位置づけが見えてくるということも大切ですね。だから二・三年上で二年生向き、下に三年生向きの題材を多めに配列しています。どの段階でどの題材をやるかの目安にもなると思います。村上美術で感性が豊かになると言いますが、ただ見る、描くだけでは不十分です。描くこと、つくること、見ることを通して、「あ、こういう視点でとらえること、考えることができるんだな」といろいろな視点に気づくことで初めて、子どもの中にアンテナが立っていくんですね。一年生で立つアンテナもあれば、三年生でないとなかなか立てられないアンテナもある。それが、生活の中の造形や美術に豊かにかかわる力を育てるという、中学三年間で美術を学ぶ理由にもなるのだと思います。著者対談飛躍「美術2・3上」掲載家族のやさしさ「美術2・3下」掲載フルーツパイ「美術1」掲載forme | 306 | 14