ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play
  • Available on the Windows Store

概要

形 forme 306号

之先ず見る儿目儿第九回赤富士の背後に見えるもの「兵どもあまた具して山へ登りけるよりなむ、その山を『ふじの山』とは名付けける」日本最古の物語とも言われる「竹取物語」の最後に登場するのをはじめ、日本のさまざまな芸術にインスピレーションを与えてきた富士山。美術も例外ではなく、葛飾北斎の手がけた「冨嶽三十六景」の《凱風快晴》は誰もが一度は目にしたことがあるだろう。私たち「アダチ版画研究所」は浮世絵の伝統木版技術を継承し、復刻版を制作している。そこでこの浮世絵の魅力を、どのように制作されているのかという視点から考えてみた。浮世絵は江戸時代、庶民に人気の役者や名所などを描き、主に木版画で大量に出版された、今でいうポスターなどの商業印刷である。版元が企画を立て、絵師、彫師、摺師が分業で専門技術を駆使し、制作されていた。北斎は絵師として、商業印刷ゆえの条件の中でいかんなく才能を発揮している。例えば制作コストを抑えるために、浮世絵の版木は五枚前後、摺りも十回から二十回が多い。これを《凱風快晴》は版木が三枚、摺りの回数も七回と極端に少ない。これは一枚の版木でも、画面に複雑な効果を与えることができる摺師の技術を最大限に生かそうという、絵師北斎の計算である。「冨嶽三十六景」の多くの作品に使われる摺りの技術に、色のグラデーションを出す「ぼかし」がある。《凱「冨嶽三十六景」より凱風快晴(部分)[多版多色木版・紙/25.7×37.5cm]1831以降葛飾北斎[1760 ? 1849]東京国立博物館蔵「美術2・3上」P.28-29掲載forme | 306 | 18