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概要

形 forme 307号

作業におのずと批評性が出てくるのではないかということだ。都市が好きだからというだけでは十年続かない。そこには、対象を見続けることで作家の眼というものが生まれているはずだ。彼ほどの審美眼のある人間なら、作品の中にもっと社会に対する主張を込めたいという感情が沸いてもおかしくはない。「基本的には自分で写真をセレクトし、どう批評されるか分からないですけど、ある『意味』に持って行こうとしているとは思うんです。でもその塩梅は、受け取る側の人それぞれだと思うんです」やはり、伝えたいことは胸の中にある。それを、声高に語っていないのだ。だから、写真が受け手に自然に入り込んで来る。あの煙突は菓子のようだ、などと形容しながら感情移入できる。どのようにも解釈できる自由さが、大きな魅力なのだ。翻ってみれば、カメラを上空から構える理由は、作り手が主張しすぎない距離感を保っているからなのだろう。だが、新作『industry』を観て、大きく印象が変わった。モチーフは、今までも撮っていた川崎の製鉄所。もちろん、手法はアオリと空撮。だが、従来と雰囲気が違う。煙突のある工場が逆光気味に捉えられている。夕景であるのか画面は暗く、恐怖感さえ漂う。柔らかさは影を潜めた。撮影時の気象条件もあるのかもしれない。でも、一目で分かる変化がある。ヘリを低空飛行させたのか、対象への距離が近いことだ。何かに形容することができない。自分が知らなかった現実をありのままに見せられている、そんな印象だった。いわば、受け取る側の勝手な解釈を拒絶するような作家の強い意志があるように感じた。これはもしかしたら、学生時代に彼が郊外の写真作品に接した時に覚えた感覚に近いのかもしれない。同じテーマでやり続けるということが、この作家を変えたのではないか。外から見れば、作家は大きな変化のない日々を送っているように見える。だがその内では、自分でも知り得なかった自分に日々出会い、作家としての自分を更新し続ける建設的な作業をしているはずだ。その不断の努力が、十年分の血肉となった。これまでは、主が表情を崩さないためにそれが外に出ることがなかったが、もはや吹き出さざるを得なくなっているのではないか。それを見届けたいと思う。作家の日常のすべては、これからも作品という生きる足跡となってわたしたちの前に現れるのだから。本城直季ほんじょうなおき一九七八年、東京都生まれ。東京工芸大学芸術学部写真学科、同大学院修了。都市をミニチュアのように撮影した写真集『small planet』で木村伊兵衛賞。雑誌・広告のみならずVOCA等、現代美術展でも活躍。メトロポリタン美術館等パブリックコレクション多数。1127,082,81925 | 307 | forme