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概要

形 forme 307号

●THANKS38早いもので中学校美術教諭として三十八年間の歳月が流れました。多くの人たちの支えのおかげで勤めあげることができ満足感でいっぱいです。大人でも子どもでもない感性豊かな中学生が大好きでした。国際美術教育学会で、地域産木を生かした制作を発表したことが特に印象に残っています。京都教育大学在学中に、文部省派遣生として、エコール・デ・ボザール大学に留学し、芸術の息づくパリの街で、感性を養えたことは一生の宝です。その思いを生徒たちに伝えたいという一念で、退職まで頑張れたように思います。自らも制作し、教職と画業を両立する中で、教師と生徒という関係を越えた、表現する者として、創造する喜びや自己肯定感の重要性を自らの体験を基に、語ることができたと思います。三十五年を経てパリの個展に来て下さった恩師ZAVARO先生はじめ、お世話になった先生方を通して、師弟愛の素晴らしさを知り、私も生徒に同じように接していければと思いました。七月には京都文化博物館で、三十八年間の思いの詰まった、自らと生徒の作品を展示したいと考えています。今後も時と場所を越えて自己表現できる絵画の世界を追求し続けたいと思います。京都府久御山町立久御山中学校教諭小原睦代●若き日大人になった教え子たちは、当時の私の美術の授業をどう感じてくれているのだろうか。美術の授業時間数が二時間確保されていた頃は、基礎・基本をしっかりと教えることができ、また教材も偏らないように組み立てることができました。アイデア下書きの点検には時間を割き、次の作業で困らないように再提出・再々提出は当たり前。今振り返れば厳しい指導だったと思います。「美術の授業のよいところは」と生徒にアンケートを取ったことがあります。多くの生徒が「制作を通して、自分の世界に入り込める自由な時間が好き」と答えました。実際、美術の授業だけ受けていた生徒もいました。時間・空間・仲間という「間」がない時代と言われて久しいですが、美術の授業は「間」が保障されていたということでしょうか。生徒が心を込めて必死で完成させた作品は、不思議とどんなに学校が荒れていても、壊されたり破られたりすることはありませんでした。私は、授業を受けるか受けないか分からない生徒の材料や資料を、毎時間机の上に準備して待っていました。その情報は、他の生徒を通じて伝わっていたようで、卒業の折りに「先生は俺らのことを無視せんかったなぁ」と私に言って、巣立っていきました。私の美術の授業が卒業後少しでも何らかの形で役立ってくれていれば、一美術教師としてとても幸せに思います。兵庫県たつの市立香島小学校教頭栗川千賀子●あの時の授業の思い出から十数年前、元気のよい生徒たちがいた学校での授業のことです。授業中「おい、教えろっ」と怒鳴るような声がしました。いつも態度が悪く手をやいていた生徒でした。周囲の友だちが黙々と制作に打ち込む姿を見て自分もやってみたいと思ったのでしょう。私は「ちょっと、何その言い方」と言いつつ、心の中では「しめしめ」とほくそ笑み、時間をかけて指導しました。その後も言葉は悪いが、私が言ったことを聞きながら一生懸命に制作し、うまく出来ると笑顔を見せていました。その時、どんな生徒も学びたい気持ちがあることを強く感じると共に、とても嬉しかったことを憶えています。やる気や興味をもたせるため題材や素材の工夫、道具の扱い方、導入や指導方法と毎年生徒の実態を考えながら試行を繰り返し、実践を重ねているところです。自分自身が初めて扱う素材もあり、試作品をつくって失敗から気付くこともあれば、生徒が予想外の失敗をすることもあるため、臨機応変に対応できる力を教師がもっていなければいけないと感じています。様々な生徒たちとかかわる中でいつもあの出来事を忘れず一人でも多くの生徒が美術の楽しさを感じてほしいと思いながら……。宮城県塩竈市立第一中学校氏家志保美●ともに学ぶ図工・美術の先生と子どもが、ともにつくりだす学びの日々。forme | 307 | 26