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概要

形 forme 308号

識するのではなく、菓銘とのつながりで見た目を楽しむものだと思います。例えば「遠桜」は、あん玉にそぼろあんをつけてつくるきんとんです。紅に白のそぼろが点在しているさまを見、「遠桜」という菓銘を聞くと、遠くの山に点々と咲く桜が想像できる。お菓子の色かたちを見て、菓銘を聞いて、そのイメージを連想するわけです。―色の表現の工夫が大切になりますね。中山色も、一口に紅と言っても、「遠桜」の紅は薄めに、「岩根のつつじ」に使うそぼろは、つつじの花を意識して濃いめになど、違いがあります。それからお菓子を切ったとき、中にあんが入っていることも魅力ですね。生地とあんの配色により、切り口の印象も違ってきます。例えば「雪餅」だとまわりは白で中が黄色、雪明りを思わせます。うつろいを楽しむ―色の取り合わせによっても、連想の広がり方が変わるのですね。中山「春隣」も色から連想を楽しめるお菓子です。黒いそぼろのきんとんに、黄色いそぼろがちょんとついている。「春隣」という菓銘は冬の季語ですが、春が近づいていることを意味していますので、黄色からは、福寿草の花などが連想されますね。―ある一つの季節を表すというより、季節の変化を表しているのですね。中山二十四節気や七十二候という言葉が思い出されます、季節のうつろいを表した和菓子は多いです。例えば、緑、黄、赤に色分けした楓形のお菓子は、徐々に紅葉していくさまを思わせます。それから「初秋」や「初時雨」など、菓銘に「初」という言葉がついたものも、季節の変わり目を感じさせてくれますね。―菓銘を聞くと連想が広がるということを考えると、菓銘はとても大切ですね。菓銘のつけ方の工夫はありますか。中山植物の異名を使うということもあります。朝顔を「鏡草」、牡丹を「花の王」と言うなど、優雅な言葉の響きを楽しめます。日本語再発見という感じですね。昔の人はそうした遊び心をもっていたのでしょうね。今の楽しみ方としては、自分で銘を考えてみてもいいですね。お店では「初蛍」の銘で売っているけれど、自分だったら「蛍川」や「蛍狩り」にしたいなどと語ったり、旅先で見た紅葉を思い出したり、話題を広げられるのが和菓子の楽しみ方でしょう。―楽しむためのきっかけとして、和菓子の造形や菓銘が工夫されているのだと感じます。そのためにも、季節感を盛り込むのでしょうか。中山季節の風物というのは、日本人の誰もが親しみを感じるし、共通の話題になりますね。日本は四季の移り変わりが繊細で、文学や絵画の題材にな「藤の棚」「識のみち」「雲井の桜」「春もよう」「紅梅染」「照紅葉」forme | 308 | 10