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概要

形 forme 308号

とおっしゃってくださることもあります。一般的には、お菓子のデザインが具象的であれば菓銘は抽象的にします。例えば、植物の異名や和歌から取り、言葉の響きを楽しむことができます。お客様の中でお菓子―菓銘―知識が結びつくことによって、大きな景観を連想できるものになります。逆にお菓子が抽象的であれば菓銘は具象的にすることで、見立てを楽しみ、イメージをすることができます。そして、複数のお菓子を詰め合わせにして提供する場合、全体で一つの世界観を構成します。近景を表したものと遠景を表したものを並べることで、お菓子としてさらなる広がりが出ます。時間の流れを表現することもあります。そのほか色の淡い・濃い、形の丸い・四角いといったバランスに配慮して、一つの季節やテーマを多面的に味わってもらえるように工夫しています。インプットの積み重ねがデザインセンスを磨く和菓子は特に季節感を大事にするので、四季の移ろいには敏感でありたいと思っています。過去には、十二か月それぞれの季語や花と花言葉、行事などをノートに書き出してみたこともありました。今でも季節を感じる風景や動植物を見かけたら、よくスケッチしています。秋の夕日のグラデーションは、空にどう溶け込んでいるか。すすきは風にどのように穂を揺らせているか。萩の花や葉の付き方は。何となくイメージできていたつもりでも、描くことによって、わかっていなかった部分が見えてきます。細部を知っているほど、そぎ落としたデザインにした後、「そのものらしさ」が強調される気がします。また「きんとん」のように、色とその組み合わせにより花鳥風月、情趣を表すこともあるので、和菓子のスケールの大きさは計り知れません。本や美術館で、古今東西の美術品に触れることも刺激になりますね。浮世絵の金魚がこんなに生き生きとした姿に見えるのはなぜなのかとか、日本と西洋の文様にはそれぞれどんな特徴があるのかとか、インプットした情報をきっかけに考えたことが、次のデザインのヒントになることもあります。季節を捉える視点の違いに面白さを感じてほしい和菓子には数百年の歴史があるので、一般的に使われるモチーフ、それを引き立たせる形や色、表現するための技法などに、ある程度の「定石」があります。黄緑色と言えば、草木が芽吹いてきた様子を表す色で、他の和菓子屋さんでもだいたい春先に使われます。ぼかし、絞り、ヘラ入れといった技法も基本的なものはあり、それぞれが技術を身につけるため、日々努力をします。ひと通りの知識や技術を身に付けるために必要な期間は、およそ十年でしょうか。職人として新たなお菓子の感覚を凝縮して特集アイデアスケッチから実際につくられたオリジナル和菓子。右:花吹雪左:花菖蒲13 | 308 | forme