ブックタイトル形 forme 308号
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形 forme 308号
はないか。そこで、過去の後悔や判断に悩んだことにも思いを馳せているのではないか。心から嬉しいと感じた出来事を、迷った末に自分の中だけに押しとどめてしまったこと。誰かに伝えたかったが、結局はそれが些細なことだと諦めてしまったこと……そんな言葉にできない感覚。彼女は、感覚の負の面に、他人が頷ける普遍性があるのを知っているのではないか。彼女の絵の前に立った時、言葉が出なかったのは、人生の陰影が垣間見えたからだと思う。無類の色彩感覚でわたしたちを魅了する絵の深層には、曽谷の中で納得してきたさまざまな感覚、いわば、生きた証のようなものが刻まれている。“感覚を表現する”ということは、片手間の余技などではなく、自分が日々を生きる中で感じてきた一瞬一瞬を肯定したいという強い意志の現れなのだろう。彼女の姿勢を学びたいと思う。わたしたちは、気づくとパソコンやスマホをネットにつなげ、未来のことばかり予想している。自分を省みる時間が極端に少ない。生活に手ごたえを感じられないのは、信頼できる思考回路を持てていないからだと思う。ならば、彼女のように、その瞬間その瞬間に自分が全身で感覚した情報を直視してみればいい。それはメディアから得られる情報よりも、実ははるかに複雑で重層的であり、そのなかにはもちろん、心地いいだけではないものもある。しかしその中から実感できる感覚を探すことは、これからの人生を前進させる回路をつくることになるはずだ。彼女が感覚にこだわる理由は、日常に沸き起こる数多ある感覚から、ひとつでも多くの実感を見つけたいという欲求が強いからだろう。彼女にとっては、実感を伴う充実した人生に導いてくれる最良の方法が、絵を描くということなのだ。そのシンプルだが奥の深い作業を彼女は今日も続けている。曽谷朝絵そやあさえ二〇〇六年東京藝術大学大学院博士後期課程美術研究科にて博士(美術)取得。絵画、インスタレーション、映像などを制作。二〇〇一年「昭和シェル石油現代美術賞」グランプリ、二〇〇二年「VOCA展二〇〇二」VOCA賞、二〇一三年「横浜文化賞文化・芸術奨励賞」、「神奈川文化未来賞」他、受賞多数。主な個展に、二〇一〇年『鳴る色』SHISEIDOGALLERY/東京、二〇一三年『宙色(sorairo)』水戸芸術館/茨城、二〇一五年『虹』AkiGallery/台北、などがある。平成二五年度文化庁新進芸術家海外研修員としてNYのISCPにて滞在制作。http://www.morning-picture.comBathtub[油彩、キャンヴァス/164×226cm]2001第一生命保険株式会社蔵25 | 308 | forme