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概要

形 forme 309号

日本の古典絵画は、遠近法で描かれた西洋絵画に比べ、平面的で奥行きに乏しいといわれる。猪子はそこに疑問を持った。日本の絵画には、日本人独自の論理変換があるだけで優劣をつける必要はないのではないか。遠近法を基に構築されたベルサイユ宮殿の庭園は一点を中心に奥行きが感じられ、「前後の動線」で捉えられる。見る人が横に動くと中心から外れるので、風景は歪む。一方で借景という概念もある日本の枯山水庭園は、風景が手前から奥にレイヤー状で構成されている。見る人が横に動いても、風景は歪まない。すなわち、日本では「横の動線」を軸に風景を見ていただけではないのか。猪子は、この空間認識の論理構造を「超主観空間」と呼び、古典を引用したデジタルアートを次々と発表。コンピュータ上の三次元空間に立体世界を構築し、それを日本美術的な平面に落とし込む手法を確立していった。結成以来、十五年間、彼らは作品ごとにプロジェクトチームを作り、アイデアの捻出と表現の実験を繰り返してきた。それを推進できた源には、日々進化するデジタル技術に挑戦し、自ら設定したハードルを超えることで作品を成立させてきた自信と、歴史に残る画家たちのように、誰も発見し得なかった視点から世界を捉え直したいという強い動機があった。「人間の周囲に起こっている現象は、よくわからないことが多い。でも科学者が、ある現象から簡単な法則を発見することで世界を認識する量が増えたわけです。それと同じように、画家たちがまだ見えていなかった世界の、その見え方を提示することによって我々は世界がより見えるようになったとも言える。江戸の絵師が、雨を線で表現するまでは、人類は雨を描けなかったし、雨というものを強く認識できていなかったわけです」世界の新たな認識を提示できるのは、科学者も芸術家も同じだ。だが、ミクロの世界や宇宙の発見に忙しい現代の科学よりも、目に見える作品に変換できる美術に惹きつけられている。人が何を見て美しいと感じるのか……人間にとって身近でありながらもいまだ解明していない、そんな疑問を追求していきたい。インタビューの間、猪子の口からは、歴史、未来、文化といった言葉が頻繁に飛びだした。歴史を大局から見る視点、そして時代が変化する先を見ようとする視線は、彼のどこに由来するのだろうか。「僕らは、社会や学校で『人間はこうだ』と教わるわけですよね。正義とはこうだ、道徳とはこうだと。でもそう言われても、いつも自分は、本当かなと懐疑的だった。だから、歴史を紐解いたわけです。すると、正義や道徳といった価値観が時代により変わっているのが分かる。今日現在みんながそうだと信じていることでも、本当のところはどうか分からない」現代で常識とされていることの多くは歴史の中で変化し、人間にとって本質的でないことばかりだ。ならば、人間の本質とはこうなのだということを、近代以前の人びとの視点を借りながら、新たな文化的価値がある作品として打ちだしてみたい。その思考の流れを客観的に見れば、猪子が歴史を遡ったのは、自分が生きている時代に対する疑念が大きな部分を占めていたことが分かる。チームラボは、いま子どもたちにも向けたアートを発信している。そforme | 309 | 24