ブックタイトル形 forme 309号
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形 forme 309号
のひとつである『お絵かきタウン』は、子どもたちが描く乗り物や建築物がスキャナーで読み取られ、壁に展開された「未来の町」を形作っていくというアート作品だ。「上手い絵も良い絵だと思う。上手いということも他人が喜ぶ要素かもしれない。でも、動きで人の目を引く車をみんなが描いても、格好よく見えないわけですよ。誰かが家やビルを描いているから、車も素敵に見える。他人の絵がより良く見えるような絵も、もしかしたら良い絵と呼べるのかもしれない」テストや受験などで均一的な能力が重視され、日々子どもたちは個人的な作業に追われている。だからこそ「共創」の体験から、個性を活かしながら他者と関係することの豊かさを発見してもらいたい。共創とは、共同と創造の意味を込めた造語で、彼らのスタンスを象徴した言葉でもある。現代社会は複雑化し、それに伴いクリエイティブな仕事もチーム制作にならざるを得ない。子どもたちも、社会に出ればチームでの成果を出すことを求められることになるのだ。この作品においても、猪子が現代社会を冷静に見極める視線があり、創作の根底には現代の価値観への懐疑がある。だが、作品には文明批判を先鋭化したような表現を選ばない。自らの実体験を元に、集団でもの作りをする喜びを子どもたちに優しく伝えているわけだ。彼らの作品は、最先端の技術を扱いながらもギミックに頼らず、知らぬ間に見る者の肌に馴染んでいるようなアナログ的な柔らかさがある。それは、鑑賞者との双方向性における成果や、自然をモチーフにすることが多いという理由だけではないように思う。これまで画家はひとりでキャンバスに向かい、ひとりで描いた。だが、デジタルを扱うこれからのアートは、単独では成立し得ない。彼らの作品から感じる柔らかさは、チーム制作にあるのではないだろうか。一癖も二癖もある専門家たちがミーティングを繰り返しながら、ひとつのミッションのために切磋琢磨する中から生まれてきたひとつの個性。過去の芸術家は作品に、いわば「独断」という棘を盛り込むことでその個性を作ってきた。チームラボのそれは、角が研磨された、柔和な曲線で美しく仕上げられた球体のような印象がある。メンバーの様々な見地を集約し、創作する。猪子は、そこに絶対的な信頼を持っている。チームが成す新しい芸術。チームラボは、これまでの芸術家像を覆す存在なのかもしれない。ならば、猪子が二百年前の若冲作品を新しさを持って受け止めたように、チームラボという球体が未来に投げられ、そこにいる人間がどうキャッチするのか。彼らの作品は、そんな想像をめぐらせてしまうほどの懐の深さがある。猪子寿之いのことしゆき一九七七年、徳島県生まれ東大工学部卒業と同時、チームラボ創業。同社代表として、プログラマーやCGアニメーターら情報社会の特定分野の専門家四百人を牽引。日本の古典絵画や子どもたちの知育などを題材に、スケールの大きなデジタルアートを発信し続けている。1126,929,347Nirvana[カラー/6分20秒]201325 | 309 | forme