ブックタイトル形 forme 310号
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形 forme 310号
浮かぶでしょう。作者の植田正治は、まさに曲芸師のようなバランスの達人でした。ブカブカのスーツを着ている男がその人で、登場人物はみな彼の家族。ブーツの傾きや夫人の指先に、植田の厳しさを感じます。ただし、配置や構成の妙に気をとられると大事なことを見落とします。植田の発明は、その配置を生かすための、下地づくりにこそありました。何がこの写真を奇妙で愉快に見せているのか。それは必ずしも堅いポーズや衣装や小道具でなく、スカッと抜けた背景でしょう。植田はあえて、砂浜と雲ひとつない晴天を選んでいます。こうすると、何が写ってもわざとらしく見える、もしくは、写真らしく00000見えるのです。なぜなら真っ白い特殊な背景は、証明写真や広告写真で、舞台や画用紙のように人や物だけを際立たせるためにごく当り前に使われてきたのですから。この背景を植田は力ちからわざ業で現実世界に持ち出しました。そこで差異が生じ、おばけ空間が現れたのです。植田の写真は、だから仕組みは心霊写真そのものです。植田にとって写真とは、手を加えた別の世界を、世界の中に再び組み込むことでした。「真を写す」という字とは裏腹に、彼は写真こそ非現実を捕まえるのにふさわしい芸術であると考えたのです。軽い心霊写真なら、私たちもふだん撮っていますよね。わざとらしさという非現実を呼び出す合言葉によって。そう、「はい、チーズ!」って。成相肇なりあい・はじめ東京ステーションギャラリー学芸員。一九七九年生まれ。府中市美術館学芸員を経て、二〇一二年から現職。主な企画展に「石子順造的世界」、「ディスカバー、ディスカバー・ジャパン」など。パパとママとコドモたち[写真/31.1×37.3cm]1949植田正治[1913 ? 2000]19 | 310 | forme