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概要

形 forme 310号

その二植物園そぞろみ部とは、そぞろ歩きながら身のまわりのあれやこれやを観察し、暮らしのなかで出合ういろいろな場面を造形的にとらえ直す部活動である。今回の舞台は植物園。前回の商店街とは打って変わって自然物に囲まれた場所だが、改めてじっくり向き合ってみるとどのような「形」を見つけられるだろう。花粉が飛び交う中、日本最古とも言われる小石川植物園(東京都文京区)にやってきた。そぞろみポイント一植物園らしい仕組みに注目植物園に入ってはみたものの、花見に来たわけではない。七分咲きのソメイヨシノを横目に奥へと進むわれわれの目の前に現れたのは「シダ園」という案内板。遺跡のような石柱の間を抜ければ半地下になった空間は薄暗く、じめっとしている。すり鉢状の空間には名前の書かれたキャプションとともに世界各地のシダ植物がずらり。中学校の理科の教科書を思い出す。中にはさりげなく絶滅危惧と書かれた「アマミデンダ」などもあった(初耳)。こうした貴重な植物を守ろうとする使命感が自ずとその環境を形成してきたのであろう。光の当たり方、適度な湿気、今回は改修中で入れなかったガラス張りの温室も、日本の気候に合わない熱帯植物を育てるための大きな装置である。その期待に応えるように空間を覆い尽くして繁茂する木々にみなぎる生命力。そこはまさに生きているミュージアム。ここに植物園が単なる公園ではない所以がある。そぞろみポイント二形と色とネーミングとは言え、植物園にある全ての植物にキャプションがついているわけではない。時には風や虫に運ばれて意図せざる植物が生えてくることもあるのだろう。足もとに視線を落とすと、名前も知らない草や花。そんな時は、図鑑を開いて調べてみるのもいいが、まずはその形をよく観察してオリジナルの名前を考えてみるのもそぞろみ流。小さな門松のような植物はクジャクが羽を広げた形にも見える。あるいはカッパドキアのように地面からつきだした木の根っこ。どんな名前を付けようか。そんな時には園内で栽培されている品種改良された椿が参考になるかもしれない。「光源氏」「金魚葉椿」「紅千鳥」「黒椿」……色や形によって呼び名が異なる。傍らでは子どもたちが地面に落ちた椿の落ち花を集めて地面に彩り豊かな模様を描いていた。ここはお花屋さんで花弁はお金の見立てらしい。一口に植物園と言ってもそれぞれの楽しみ方がある。そぞろみポイント三帰り道にも要注意!?たとえ植物のことをよく知らなくても大丈夫。一行もたまたま出会ったご老人から、春先に花が咲くのはバラ科の植物だと教えてもらった。日頃はあまり意識することもなかったが、確かにサクラもウメもバラ科だ。こうして一周廻れば、少しずつ植物を見る目も肥えてくる。園内で祀られているお稲荷さんの境内に生えているシダにもすぐ気付く。場所の雰囲気とよく似合っているが、これは野生なのだろうか。だんだん展示とそうでないものの境界があいまいになってきた。植物園を出て帰路につく途中でも、まわりの植物をついつい目で追ってしまう。街路樹や歩道の花壇、路地園芸など、あちらこちらに小さな植物園。そこにはどんな人の手が加わっているのだろうかと想像してみる。おちおち「花より団子」とも言っていられない。部長市川寛也いちかわひろや(テキスト担当)筑波大学芸術系助教。妖怪研究家。一九八七年生まれ。まちを歩きながら何かがいそうな場所を探し出し、その土地に固有の物語をつくる「妖怪採集」を各地で実践している。副部長dannyだにー(イラスト担当)イラストレーター。一九八七年生まれ。京都精華大学卒業後、イラストレーターとして、書籍、web、広告などの媒体で活動中。色鉛筆で自然や日常の風景を描く。forme | 310 | 24