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概要

形 Forme 311号

を探し始めます。それぞれの「ハウス」を見つけた子どもは、配られたバッグに虫眼鏡と三つのキットを丁寧にしまいながら満足そうにしています。まるで小さな冒険旅行から戻って来たみたいです。最後にアナットから今自分たちも「ホーム」をテーマとして作品制作しているので、完成したらぜひ見に来てほしいと告げられワークショップは終了となりました。さて今回のワークショップで子どもたちに一体何が起こっていたのでしょうか?アナットは、ホームへ至る道の目印を描くときに記憶を巡らせるよう指示していました。子どもたちは、モノを見ながら描くのではないとわかると途端にのびのびと描き始めました。それぞれのキットづくりも特に具体的な機能を果たす道具ではないので、楽しく取り組むことができたようです。つまり子どもたちは、必要以上の制約を感じることなく、驚くほど自由にイマジネーションの世界を膨らませていったのです。そして、リアルな地図が出てきたときに一気に現実の世界へ引き戻されましたが、このことによって子どもたちの心の中で、イマジネーションの世界とリアルな世界がつながりました。まさにこの瞬間に、ワークショップのテーマである、それぞれにとっての「ホーム」について思いを巡らすきっかけが生じたのだと考えられるのです。確かに全ての子どもが深く思いを巡らしたとは言えないかもしれませんが、それぞれのレベルでテーマと向き合っていたことは間違いないでしょう。このように現代美術に携わるアーティストの作品やワークショップは、唯一の答えにたどり着くのではなく、それぞれの立場やレベルに応じてテーマについて考えさせるようなアプローチを取ります。そのため来場者やワークショップの参加者は、自然と能動的にかかわるようになり、主体的な思考力が育まれていくのです。このような現象は、アートを通じた「アクティブ・ラーニング」ということができるかもしれません。「さいたまトリエンナーレ2016」ではこの他にも、多様なアーティストによる作品やワークショップなどの取り組みを展開しています。次項ではいくつかの作品を取り上げながらその魅力を読み解くとともに、子どもたちの鑑賞や表現活動のなかで活用する場合のポイントについてお話していきたいと思います。石上城行いわがみ・しろゆき一九六八年東京都生まれ。埼玉大学准教授。東京藝術大学卒業。島根大学などで教鞭を取り、二〇〇九年より現職。美術館や地域社会と連携したアートプロジェクトやワークショップを数多く手がける。さいたまトリエンナーレ2016実行委員。※1アナット・リトウィンマシャ・ズスマン本トリエンナーレの企画「ホームベース・プロジェクト(国際的移動型滞在創作活動)」に参加しているアーティスト。滞在先の空き家を「ホーム」と見立てて、リサーチを含む創作活動を展開することで、芸術の役割を発展させることを目的としている。アナット・リトウィンはその発案者。※2MOMASの扉埼玉県立近代美術館が実施している子ども向け教育普及事業。毎週土曜日の午後に多様なプログラムを展開している。実施他体制としては教育担当の美術館職員を中心に、埼玉大学の学生が地域連携授業(ミュージアムコラボレーション)の一環として指導補助に携わっている。日常と芸術と教育特集photo: Kazue Kawase(YUKAI)11 | 311 | forme