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概要

形 Forme 311号

サーチする人、圧倒的な過疎をテーマに増えていく廃校を舞台に作品をつくる人など、広い地域の中で多様な作品が次々と生まれました。ここでは地域における学校の役割についてお話ししたいと思います。それは「学校とは地域の灯台である」ということ。かつて日本ではお寺が地域の人々を結ぶ場でありました。欧米なら教会がそれにあたるでしょう。お寺の役割はやがて学校へと受け継がれます。そこには子どもが集い、季節の節目ごとにイベントがあって、人が集うキーステーションとして機能していたのです。しかし、過疎化は地域から学校を奪います。物理的に学校がなくなってしまうと、地域の心の寄り場がなくなってしまうのです。ですから、キーステーションとしての機能を失った廃校をいかに回復させるかは芸術祭のひとつの課題でした。初期から廃校を使ったプロジェクトを重ねてきましたが、とりわけ人気があるのが旧真田小学校を使った「鉢&田島征三絵本と木の実の美術館」です。田島征三さんは著名な絵本作家で、校舎全体を使って立体絵本をつくり上げました。絵本のストーリーは、廃校で他校に移った最後の在校生であるユウキ、ユカ、ケンタの三人が学校に戻ってくると、そこに住み着くお化けが学校の思い出を吐き出して学校がよみがえるというものです。校舎中には、物語世界が現実に現れたかのように、さまざまな立体物で埋め尽くされています。制作を卒業生たちが手伝い、会期中にはコンサートなどのイベントが開催され、会期終了後の今現在も日々多くの人が集う場所になっています。また、旧奴ぬながわ奈川小学校を舞台に新しい学校「奴奈川キャンパス」も、大地の芸術祭の代表的な活動のひとつです。ここは、多様な人たちと食・生活・遊び・踊りを学びながら、先人が残してくれた田んぼをできるだけ引き受け、おいしいお米をつくる学校です。私は学生のころ、主要五科目が嫌いでしたので(笑)、「奴奈川キャンパス」で教えるのは、美術、音楽、体育、家庭科が中心です。「珍しいキノコ舞踊団」を先生にダンスを習ったり、監督やトレーナーをしっかりとつけた女子サッカーチームをつくったりと多彩な活動を行っています。芸術祭の会期だけでなく、年間を通じて、地域のことや美術、音楽で遊べる場所となっているのです。美術を〝遊んで?ほしい「奴奈川キャンパス」では、「遊ぶ」ということを重要視しています。実利に直結しない「遊び」は、無意味なことと思われがちですが、実はそこで得られるものは大きい。赤ん坊が「遊び」のなかでたった二年間のうちに言葉を覚えてしまうのに対し、私たちは六年間英語を「学ん」でも言葉を習得することはできませんね。「遊び」のなかには、たくさんの情報が詰まっている証左です。学校で学べることのなかで、美術ほど「遊び」に直結するものはありません。私たちが子どもの頃は、美術の時間はとても自由で、遊べる時間だと喜んだものです。その他の多くの科目はひとつの正解を出すことをよしとするのが通常です。でも私は、小学校三、四年生で算数につまづく方がまともだと思うんですよ(笑)。学校では「四分の一足す四分の一は二分の一」と教えますね。先生はりんごで説明してくれるでしょう。私は要領がいい子どもだったから理解できましたけど、青い大きなりんごと赤い小さなりんごを具体的に想像した子どもは、その二つを足すことができない。はたして、それは間違っているのでしょうか。具体性の世界にいる子どもの感性を、無理やり抽象的な概念に押し込めてしまうことはとても窮屈です。私は、美術とは今生きている七十三億の人の生理のあらわれだと考えています。だから、美術は「人と異なっていることが許される」という思想的基盤の上に立っている。その意味で、美術はもはや美術館だけで見るものではなく、誰からから一方的に教わるものではありません。教育制度の現状を見ていると、地方の芸術祭に美術の授業で行くことは難しいかもしれません。でも、遠足の時間を使って来る学校もありますし、芸術祭に参加したいという要望も非常に多い。重要なのは、美術とのかかわりかたです。「学び」は、主体的に楽しんで取り組めば「遊び」となり、豊かな人生を送るために不可欠なことを教えてくれます。美術のあり方が大きく変わってきた今だからこそ、美術を介して、先生にも生徒にも遊ぶように学んでもらいたいと思います。北川フラムきたがわ・ふらむ一九四六年新潟県生まれ。アートディレクター。東京藝術大学卒業。「大地の芸術祭越後妻有アートトリエンナーレ」「瀬戸内国際芸術祭」などの総合ディレクターを務める。主な著書に『美術は地域をひらく大地の芸術祭10の思想』(現代企画室)、『ひらく美術』(筑摩書房)、『直島から瀬戸内国際芸術祭へ―美術が地域を変えた』(福武總一郎共著/現代企画室)ほか。二〇一七年には「北アルプス国際芸術祭2017」(長野県大町市/六月四日?七月三十日)、「奥能登国際芸術祭2017」(石川県珠洲市/九月三日?十月二十二日)で総合ディレクターを務める。ハッピーバカキノコダンスin奴奈川キャンパス2015珍しいキノコ舞踊団photo: Hiroshi Hatori日常と芸術と教育特集17 | 311 | forme