ブックタイトル形 Forme 311号
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形 Forme 311号
その三城そぞろみ部とは、そぞろ歩きながら身のまわりのあれやこれやを観察し、暮らしのなかで出合ういろいろな場面を造形的にとらえ直す部活動である。今回のテーマは城。歴史ロマンを感じられる場所として海外からの観光客にも人気のスポットだ。真夏の日差しの中、世界文化遺産にも登録されている姫路城(兵庫県姫路市)を歩きながら特徴的な「形」を探してみた。そぞろみポイント一ひしめくキャラクター城にはたくさんのマークがあふれている。お堀の先で出迎える門には表札代わりの大きな紋章。軒下の瓦の小さな円にも一つひとつに造作されている。これらは城の主を知る手掛かりにもなるわけだが、ひとまずその形態を味わうのがそぞろみ部。属性に応じて分類してみた。・草タイプ葉っぱや花を具体的に模したものから同じ形を組み合わせて抽象化したものまで、最も多くの種類が見つかった。・虫タイプ一種類限定だが出現率は高い。近くで見ると表情は意外にもユーモラス。長く伸びた口先(吻)の表現にも注目。・水タイプ水玉で構成された巴紋に加えて、隙間を埋めるような波型のモチーフ。木造建築なので、何はさておき火気厳禁。他にも姫路城ならではのお菊の井戸には姿の見えないゴーストタイプ。随所に隠れたキャラクターを探すのも城歩きの楽しみである。そぞろみポイント二戦略的な空間づくりすぐそこに見えているのに、なかなか中には入れない。狭い道、ヘアピンカーブに上り坂、次々と仕掛けが襲い掛かる。白い壁に穿たれたのぞき窓は敵を迎え撃つための戦略的な形態だ。〇△□のフレームの内側から覗けば、風景がそれぞれの形に切り取られてターゲットに狙いを定めやすい。もちろん、今はそこから攻撃される心配もないので安心して鑑賞できる。遠くから眺めれば波打つ瓦の影と相俟って抽象絵画のようだ。まさにシュプレマティスム的造形感覚。進むたびに変化する門の形も要注意。「はの門」を支える柱は木の彫り跡が残る素朴な仕上がり。石垣の間にすっぽりとおさまるようにつくられた「ほの門」にはご丁寧に「頭上注意」の案内板。現代に逆行するバリアフルなデザインがお城らしさを物語る。そぞろみポイント三機能を超えた形の妙ようやく天守に到着。外とは一転して薄暗く、どちらかというと単調だ。そんな中、廊下の壁沿いに手の平より少し大きい板状の構造物が規則正しく並んでいる。縦に十段、真ん中が少しくぼんでいるが、どうやら刀などの武具をかけるためのものらしい。少し上に目をやると、横木から竹ひご状のものが点々と突き出している。話を聞けば、こちらは火縄銃用とのこと。引っ張ればすぐに出動できる。今となってはそうした使われ方をすることもなく、純粋な造形物として空間にリズムをもたらしている。回廊をまわりながら上階へ向かうと、少しずつ視界も開けてきた。先ほど歩いた道を見下ろすと、折り重なる屋根瓦がなす稜線が美しい。建造当初の目的は失われても形はそのまま残り続けるが、それらに向けられるまなざしは時代とともに変わっていく。目立たぬように茶色に塗られた配管や木目調の防火設備も、いずれはそんな歴史の一部になっていくのかもしれない。部長市川寛也いちかわひろや(テキスト担当)筑波大学芸術系助教。妖怪研究家。一九八七年生まれ。まちを歩きながら何かがいそうな場所を探し出し、その土地に固有の物語をつくる「妖怪採集」を各地で実践している。副部長dannyだにー(イラスト担当)イラストレーター。一九八七年生まれ。京都精華大学卒業後、イラストレーターとして、書籍、web、広告などの媒体で活動中。色鉛筆で自然や日常の風景を描く。forme | 311 | 24