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概要

形 forme 312号

わき出たものを見て自分の内面を知る ユニークな視点で日常を切り取った立体作品、映像作品で私たちの感性を揺さぶる鈴木康広さん。そこには豊かな想像力が働いているように感じるが、作家である鈴木さんは、想像という行為をどのように捉えているのだろうか。「考えたくなくても心や頭に浮かんでしまう、体の内側からおのずとわいてくる。そういった動きが、僕にとっての想像です」 例えば「楽しいことを想像して」と言われて生み出したイメージは、意図的につくり上げたものだ。これは鈴木さんにとって想像ではなく「考え」に近く、意図せずしてあふれ出てくるものが、想像。だからそれは楽しいものとは限らず、むしろつらさを伴うことの方が多い。世の中に戦争をモチーフにした芸術作品が多いのは、凄惨さが多くの人に想像をもたらしたからだと鈴木さんは推測する。 睡眠中に見る夢は、想像が表出したものの一つだという。「その人の中にあるものが、無意識に立ち現れた結果だと思います。夢という形以外にも、ジェスチャー、鼻歌、スキップなどの身体表現として想像が表出する人もいるかもしれません。意識できない領域に自然と反応することに人間の体の豊かさを感じます。逆に言うと想像は、自分がここに心を動かされていたんだ、と気づかせてくれる。想像に意識を向けるということは、自分を観察することでもあると思います」想像が想像を呼び作品へと昇華 想像が不意に浮かんでくるものである以上、時間が経つと忘れてしまう。鈴木さんは、スケッチとしてノートに描き留めることによってそれを防ぐ。大学時代から描き溜めたノートは、現在およそ三百冊。これをアトリエに置き、ランダムに見返して、思い浮かんだことを作品の着想とするケースが多い。「スケッチを描くときは、未来の自分に向けて手紙を書くような気持ちです。見返すときは、『今日のために描いたんだ』と思いながら、過去の自分の断片と向き合います」 楕円が二つ並んでいるだけ、といったシンプルで抽象的なスケッチも多く、想像とは抑えきれない切実なもの〝ふとした瞬間?をとらえて東京大学先端科学技術研究センター 1 号館ギャラリー Text: Yusuke Koyama (ONSONO) forme | 312 | 10