ブックタイトル形 forme 312号
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形 forme 312号
見た時の興味や気分によっては描いた当時とは違ったものに見えてしまうが、それがねらいの一つだ。新たに見えてきた風景が心の中にあるものを呼び覚まして、別のスケッチが生まれたり、作品のきっかけになったりする。 そのようにスケッチを繰り返しながら、どんな素材を使ってどんな表現手法をとれば、現実の世界にアウトプットできるかを無意識のうちに考えている。同じモチーフを何度かスケッチすると頭の中に完成形が思い浮かぶ。「実現できないものは描かない、描いたからには実現できる」という自分なりのルールもあるという。 二〇〇四年に発表した「キャベツの器」は、グラフィックデザイナーの原研哉さんに展覧会への出品を誘われてつくった作品。「HAPTIC(触覚を刺激する)」というテーマを念頭に置いて過去のスケッチをめくると、触発されて浮かんできたアイデアはノート一冊分になった。その中で原さんが気に入ってくれたのがキャベツの器だった。「でもこれは難しいよね?」と言う原さんに、「できないものは描かないようにしています。次の打ち合わせまでにつくってきます」と答えた鈴木さん。実際に形にして持って行ったところ、非常に驚かれたという。図工・美術の授業を自分を見つける場に 鈴木さんのこのような「想像」観をもとに、図工・美術の授業の可能性について尋ねてみた。「決められた時間の中で『楽しい世界を想像して絵を描こう』と言われたら、僕でも何も思いつきません。そこに想像が入り込む余地はなく、むしろ想像を追い出すような時間になるのではないでしょうか」 社会には、時間内に目的に沿って意図的に何かをつくり上げなければいけない場面が多々ある。それを上手にこなすためには、自分の感性に響くものも響かないものもえり好みせず、多くの情報の中から取捨選択して適切に組み立てる力が必要だ。極めて重要な力ではあるが、それが図工・美術の授業で磨くべき力であるとしたら寂しい、と鈴木さんは漏らす。「思わず生まれた心のつぶやき、耐えきれない自分といったものに目を向けない限り、おもしろい作品にはならないと思います。図工や美術が、体の中から聞こえてくるものに気づくきっかけとなるといいのですが」 感性に任せて作品をつくった子どもは、そこに自身の想像が含まれていることを自覚していないだろう。しかし、その作品に対して周囲の子どもや教員が「こんなの僕には描けないよ」「私はこの作品を見てこんなふうに感じる」と思い思いの言葉を発する場があれば、作者である子どもは、自分の中に眠っていた想像を自覚するかもしれない。「だから大事なのは、授業外の時間の過ごし方なのかもしれません」と指摘する。想像がわく、ふとした瞬間は、「絵を描こう」「粘土でつくろう」と決めてから現れるのではない。だから生活の中でその瞬間に出会ったときに、キャッチするための感度を高めておく必要がある。鈴木さんは常にノートを持ち歩き、スケッチとして描き付けることによって感度を高めてきた。「人によっては文章にすること、誰かに話すことなどがスケッチの代わりになるかもしれない。子どもたちが無意識のうちにわいてくる声に気づき、内なる自分に目を向けるきっかけを増やすことができれば、それが創作意欲の源泉を掘り起こすことにつながるのではないでしょうか」鈴木康広 すずき・やすひろ一九七九年静岡県生まれ。東京造形大学卒業。見慣れたものや現象を独自の視点で捉え、世界の見方を広げる作品を次々と発表。代表作に《まばたきの葉》《空気の人》など。想像のチカラ特集「キャベツの器」はキャベツの葉の婉曲した形状を皿に見立てた作品。本物のキャベツの葉を型どり、紙粘土で成形。皿を組み合わせると結球したキャベツになる。 Cabbage Bowls for TAKEO PAPER SHOW 2004 "HAPTIC"11 | 312 | forme