ブックタイトル形 forme 312号
- ページ
- 18/28
このページは 形 forme 312号 の電子ブックに掲載されている18ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。
このページは 形 forme 312号 の電子ブックに掲載されている18ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。
形 forme 312号
その四 科学館そぞろみ部の発足から一年、商店街、植物園、城など異なる顔をもつ場所を歩きながら、自由気ままに観察を続けてきた。造形的なまなざしで周囲を眺めてみると改めてたくさんの小さな発見がある。今回のターゲットは冬休みの子どもたちで賑わう科学館。ギネス世界記録にも認定されているプラネタリウムを擁する名古屋市科学館(愛知県名古屋市)にやってきた。そぞろみポイント 一 球体のある街 アメンボをデザインしたマンホールに気をとられ、足元を見ながらそぞろ歩く一行。ふと見上げると、建物の陰から巨大な球体が少しずつ姿を現してくる。金属光沢のあるその構造物は宇宙船のような圧倒的な存在感を醸し出す。真下に来ると、両脇の建物にすっぽりと挟まれて少し窮屈そう。もちろん、これは単なる装飾ではない。プラネタリウムを上映するための必然的な形体である。半球型のものも含めて、科学館建築がつくりだす特異な風景は入る前からワクワク感を高める。一歩足を踏み入れると、受付の背面を埋め尽くす数字や記号。〝2H2O ? 2H2 + O2?や〝NA = 6.022 × 1023?などが理科の教科書のように所狭しと並んでいる。とは言え堅苦しい「勉強」という印象は受けない。この先に広がるワンダーランドへのプロローグ。そぞろみポイント 二 科学を魅せるインスタレーション コインロッカーもひとつずつ元素記号がふられていて遊び心たっぷり。一一三番目は既にニホニウム(Nh)に対応済みだ。たまたま空いていたフッ素(F)に荷物を入れていざ展示室へ。理工館の二階から三階にかけての吹き抜けを使った「水のひろば」は、くるくる回る水車や張り巡らされたチューブ、上下に動くチェーンが織りなすダイナミックな展インスタレーション示装置。さしずめ水の流れをモチーフにしたアッサンブラージュといったところだろうか。しかもただ見るだけではなく参加型になっている。自転車をこいだりポンプを押したり、他にもボタン一つで竜巻が発生する「竜巻ラボ」もある。言葉で説明しようとすると難しいことでも直感的に伝えるための空間づくり。何気なく置かれたハニカム構造の椅子にも何らかの意味があるのではと勘繰ってしまう。そぞろみポイント 三 見えないものも見えてくる 科学館が扱っているのは身の周りのあらゆる事象。その中には視覚的に把握できないものも少なくない。風、音、光……それらを目に見えるかたちに置き換える工夫にも注目したい。風船を使えば風の流れが見えてくる。テーブルの上の砂は音に反応して波形を描く。音声の振動を可視化する機械を使えば自分の声をスケッチできる。カメラごしにリモコンを覗くと見えない光が浮かび上がる。赤R緑G青Bの光の三原色が映しだすカラフルな影絵で遊べるコーナー。回転盤を回せば次々と色が変化する偏光板はキネティック・アートの仕組みにも使えそう。一方で、見えているのに気づいていない科学の世界もある。往路で見かけた道端のマンホールも科学技術の産物として展示されていた。名古屋城のプラモデル、天日にがり、鉛筆……日常に溢れるものを別の視点からとらえ直すプロセスはそぞろみ部にも通じる。プラネタリウムで紹介されていた「宵の明星」を西の空に眺めながらそんなことを考えた。部長 市川寛也 いちかわひろや(テキスト担当)筑波大学芸術系助教。妖怪研究家。一九八七年生まれ。まちを歩きながら何かがいそうな場所を探し出し、その土地に固有の物語をつくる「妖怪採集」を各地で実践している。副部長 danny だにー(イラスト担当)イラストレーター。一九八七年生まれ。京都精華大学卒業後、イラストレーターとして、書籍、web、広告などの媒体で活動中。色鉛筆で自然や日常の風景を描く。forme | 312 | 18