ブックタイトル形 forme 312号
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形 forme 312号
1126,976,264室町バイブレーション(2016 年個展DM のための原画)[紙・鉛筆・ペン・水彩/ 28.8 × 19.2cm]2016 Courtesy Mizuma Art Galleryれは娯楽です。貼れば安心なんですよ。世界がすべて可視情報で埋まっていくわけですから。不可知のものがあったら、不可知というシールすら貼っておきたい。それ以上見なくていいですからね」 彼が表現手法の異なる複数の作品で構成するのは、それらの奥にある、自分が本当にやりたいと思っていることを想像して欲しいという合図なのだ。では、絵の前に立った自分は、何を見ていたのかと考える。すでに知る情報で安易に解釈していなかったか。作品自体を虚心坦懐に見ただろうか。そして、キャンバスの奥を想像できたか。 山口は、下描きに最大限の時間を掛ける。仕上がらなければ、途中経過まで見せる。結局、絵の中には答えはないということなのかもしれない。そこには、答えを求めた痕跡がある。なぜなら、彼はキャンバスに写し得ないものを探し、描くからだ。それは、風景に写実性だけを求めなかった先人と同じ。山口は、先人から技術だけではなく、その姿勢を学びとったのだ。彼がいう素数には、他の借り物ではない独自の表現を探求するという作家のあるべき姿への共感と矜持が含まれているのだと思う。 彼は、作家になったいまも古典絵画の前に繰り返し足を運んでいる。そこでは、近世だけではない日本の近代洋画の前にも立っているという。敬遠していた作品を、室町の絵師に見出した素数で割ることができるのか試しているのだ。自分が知らぬ間に付けていたレッテルを剥がす――人間が必然的に持ってしまう先入観に抵抗しながら、作家として新たな表現の可能性を見出そうしているのだと思う。その結果が、異なる表現手法で現れる。一見クールに見える作品の奥にある作者の熱。それを想像しつつも、わたしたちはあらゆる思い込みを排除して作品を見たいと思う。一度貼ったレッテルがあれば、想像力で破る。わたしたちはいわば自由に解釈するという素数を持てばいいのだと思う。なぜなら、目の前にあるそれは、あらゆる可能性を疑わない作者が現在進行形で探し求めている、過去には存在しなかった絵なのだから。山口晃 やまぐちあきら一九六九年、東京生まれ、群馬県桐生市に育つ。96年東京芸術大学大学院美術研究科絵画専攻(油画)修士課程修了。二〇一三年自著『ヘンな日本美術史』で第十二回小林秀雄賞受賞。鳥瞰図・合戦図などの絵画のみならず立体、漫画、インスタレーションなど表現方法は多岐にわたる。25 | 312 | forme