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概要

形 forme 312号

 小さな紙が教室の片隅に積まれています。その佇まいが誘うのでしょうか。「これ使っていい?」などと言いながら子どもは紙を手に取り、おもいおもいの絵を描き始めたりします。それは、周囲の環境と感応しながら自らの可能性を開いていく姿と言えます。 ものにはその特徴から人の行為を触発する作用があります。絵を描く子どもと用紙の間にもそうした関係が見られます。 小さな紙であれば細部に集中して描き、豆本や絵手紙にするかもしれません。手にとって動かしながら好みの見え方を探して台紙に貼ったり、何枚か見比べて集めたお気に入りを友達と交換して遊んだりするかもしれません。大きな紙や長い紙であればスケール感に誘われて移動して描いたり、方向性に誘われて下から上へと成長する花や横へ連なる街、絵巻物や秘密の地図を描いたりするかもしれません。 紙の材質も子どもの行為を誘います。薄い紙や和紙なら、ふわりふわりとたなびかせて軽く柔らかな気分を感じつつ、絵を光に透かしたり、色のにじみを試したりするかもしれません。ダンボールなら硬さを頼りに力強い描き方を、色紙なら地色と描画材の色の描き重ねを、ザラザラやスベスベといった表面の肌触りならマチエールを楽しむ描き方を……。 紙をはじめ、材料が誘う行為は、子ども自らが感じ、指向した「したくなること、できること」と言えます。造形を通して子どもが動きだす活動のヒント、生きて働く学びの芽はこうしたところにも隠れています。描画用紙の誘い編文名達英詔北海道教育大学 教授イラストLuis Mendoforme | 312 | 06