ブックタイトル形 forme 312号
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形 forme 312号
という将棋ソフトが、将棋の歴史の中でも誰も思いつかなかった「3七銀」という新しい手を生み出したという。このため松原先生は、少なくとも将棋や囲碁といった世界では、コンピュータが想像性を発揮していると言ってよいのではないかと指摘する。 一方で現在のAIは、ルールや何らかの条件下など、一定の枠の中で一番よい答えを早く見つけることには長けているが、人間のように、その枠を超えて、可能性や成果を広げることはできないという。「私が人間はすごいなと思うのは、そのような『枠をはみ出す』という行為を、かなり小さい子供でもできるということです。たとえば子供は二、三歳でも、自分の近くに楽しい遊び場がないと、もっと面白い場所を探そうとしますね。これは、現在のAIにはできません。やらせたいとは思っているのですが、とても難しいことなのです」既存の枠をはみ出そうとする科学者にも必須の想像力 AI研究をはじめとしたサイエンスの世界は、一見、想像力とは対称的な、理知的で計算されつくした雰囲気をイメージしがちだ。しかし松原先生は、想像力の無いところには、サイエンスの進歩もないという。「太古、人間は生き延びるために、食料が尽きそうになれば、海の向こうへ乗り出し、山を越えて見たことのない場所へ向かったことでしょう。冒険の結果、幸運に恵まれた一部の人々は、よりよい環境で生を全うすることができました。このように、枠をはみ出したり、枠を乗り越えたりしようという意識の原動力が想像力であり、私たち科学者にも必須の能力です。それは、好奇心と言い換えることもできるでしょう」 誰も見たことのない世界を、自分が世の中で一番最初に見たい。それができなくても、誰かが初めて見た世界の、そのよさを理解できることの喜びというのが、科学に携わる人たちの思いなのだと松原先生は話す。「私たちは、人間という存在を理解したいからAIを研究しています。ヒトという生き物を理解するための道具として、AIをつくっているのです」思いつきを否定しないことが子供たちの想像力を育む AI研究の第一人者として、大学教育にも携わっている立場から、教育者として若い人たちの想像力を育てるためにはどうすればよいのかを尋ねた。「教育に携わる方は、生徒が思いついたことに対して、ポジティブな反応をしていただきたいですね。その思いつきがよければもちろんですが、そうでなくても、思いついたことそのものを評価してほしいのです。最近の子供たちは、思いつくという経験や行為が減っているのではないでしょうか? よい事を思い付くというのは、まず何かを思い付いた後のことです。たくさんの事を思い付く習慣をつけさせ、それを否定しないということが、想像力の涵養に大切なのだと思います」松原 仁 まつばら・ひとし一九五九年東京都生まれ。東京大学大学院博士課程修了。二〇〇〇年より公立はこだて未来大学システム情報科学部教授。著書に『鉄腕アトムは実現できるか―ロボカップが切り拓く未来』(河出書房新社)、「ロボットの情報学-2050 年ワールドカップ、人間に勝つ!?」(NTT出版)ほか。想像のチカラ特集「3 七銀」 2013 年に行われた将棋の第71 期名人戦。ポナンザの棋譜を研究していた森内俊之名人は、ポナンザの新手「3 七銀」を用いることで羽生善治三冠に勝利した。09 | 312 | forme