ブックタイトル形 forme 319号
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形 forme 319号
1 年2 年3 年このお花なんだか好き!こう見ると・・・どちらもそれぞれ美しい!3年間の発達の段階に合わせた指導がより重視されるように。 わずか3年間で身体にも心にも劇的な変化が起こる中学生。その発達の段階に合わせて授業を行うことの重要性が、今回の学習指導要領に明記されました。美術は、単に絵を描いたりものをつくったりする教科ではなく、人間の心や知性の発達と大きくかかわり、価値観や概念が形成されたり変化したりする中で成立している教科です。このような心や知性の発達を考慮して、その年代にならないとできない美術教育を意識して行っていく必要があります。 特に、中学3年生の頃は、直接目に見えるものだけではなく、その本質的なものなどへの意識が深まる時期でもあり、金箔がはがれた仏像を見て、「きれいではないが、美しい」といった価値観が分かるようになる時期です。この年代に、本当によいものや美しいものを自分の目と手と心で確認し、大人に向けての確かな価値観を構築していくことが極めて重要です。一人一人の先生方が、中学3年生まで美術が必修教科であることの意味を考えながら授業を行うことが必要であり、そのためには3学年それぞれの発達の段階に合わせた教科書も大切なのです。ここをチェック学習指導要領IPU・環太平洋大学副学長次世代教育学部教授村上 尚徳(むらかみ ひさのり)第2 各学年の目標及び内容〔第2学年及び第3学年〕3 内容の取扱い(1)第2学年及び第3学年では,第1学年において身に付けた資質・能力を柔軟に活用して,表現及び鑑賞に関する資質・能力をより豊かに高めることを基本とし,第2学年と第3学年の発達の特性を考慮して内容の選択や一題材に充てる時間数などについて十分検討すること。Interview 03特集中1・中2・中3でこんなに違う!成長過程でこんなに違う 子どもたちは小学校高学年頃から言語の運用能力が飛躍的に向上し、論理的な思考力が高まるのに反比例して、絵への興味が薄れていくんですね。中学生もその延長線上にあり、この時期は絵に対して興味を抱く子どもはほんの一握りだということを前提として考える必要があります。 したがって、苦手意識をもって中学に入ってきた生徒に対し、「自由に描きなさい」というのは何の意味もありません。そこで、絵を描くことに対する動機付けを工夫する必要があります。 例えば、風景を描く場合、一年生では、造形的な問題よりも感情的な要素を重視し、各自思い入れが強い対象を選ばせるようにすると効果的です。 二年生では、造形的な視点に着目させることによって、知的好奇心を刺激することが考えられます。同じ風景でも、広がりやらも、美術や造形の世界に親しみ、関心を抱けるようにすることが大切です。美術教育の目的は、生涯を通じて美術や造形の世界に関心を抱き、造形的な感覚や判断力を自らの生活に活用できる資質・能力を身に付けることだからです。 私たちの周囲には、形や色彩を伴わないものは存在しません。そうしたイメージを組み立てる力や読み解く力を、すべての生横浜市立中学校教諭を経て、群馬大学教授、明治学院大学教授を歴任。専門は図画工作・美術科教育。著書に『思春期の美術教育』(日本文教出版)など多数。学年の発達特性に即した美術の学びが生きる力に群馬大学 名誉教授新井 哲夫(あらい てつお)奥行きなどの空間の美しさという点に着目させ、自分が感じ取った空間の美しさを表現することを課題とします。同時に、体験を通して、〈表現=再現(模写)〉ではないことにも、気付かせたいものです。 さらに、三年生では、これまでの学習経験を踏まえて、自分でテーマを決め、材料や技法を工夫して、主体的に表現できるようになることが理想ですが、実際はそこまで到達できる生徒は少ないでしょう。しかし、それでよいと思います。絵を描くことは苦手であっても、絵画作品を見て、表現されている内容や造形的な美しさを感じ取り、表現上の工夫を読み取りながら、作品を深く味わえるようになれば、それは絵画というものに主体的にかかわる力を身に付けたことになると思います。 その意味でも、一年生から表現活動と関連付けながら、鑑賞活動を積み重ねることが大切になってきます。従来、表現活動が苦手な生徒は、美術全体を苦手だと思い込んでしまう例がしばしば見られました。とても残念なことです。美術の授業でしか学べないこと これまで絵について述べましたが、もちろん美術の授業では、彫刻もデザインも工芸についても学びます。いずれの分野でも、表現や制作だけでなく、鑑賞や批評の側面か⑨ forme No.319 小 中 高 forme No.319 ⑧徒が実体験を通して身に付ける場は、美術の授業以外にはありません。 美術の授業には正解はないと言われますが、正解がない中で、よりよい答えを追求することは、複雑な現実社会を生きる人間に求められる生き方そのものです。 本当の意味での生きる力を鍛える教科が美術だと思っています。