ブックタイトル形 forme 320号
- ページ
- 4/32
このページは 形 forme 320号 の電子ブックに掲載されている4ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。
このページは 形 forme 320号 の電子ブックに掲載されている4ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。
形 forme 320号
IPU・環太平洋大学副学長次世代教育学部教授村上 尚徳(むらかみ ひさのり)特集カリキュラム・マネジメントの核となる「美術」授業、人、社会のつながりをつくることがカギ美術科が秘めた 大きな可能性 新しい学習指導要領では、大きな改革がなされました。子どもたちが未来を生きていくために必要な力を三つの柱に整理し、それらを育むために何をするかという資質・能力ベースの考え方になったのです。そして、この改革によって急務となったのが、教育の質を向上させ、学びの効果を最大限発揮させるための「カリキュラム・マネジメント」の確立です。 カリキュラム・マネジメントの基本となるのは、教科ごとの授業内容です。しかし、実社会は教科別には構成されていません。そのような社会に対応するためには、教科等横断的な視点から授業のつながりを考える。また、家庭や地域社会などと教育の目標を共有することで連携・協働する人のつながりをつくり出す。といった幅広い組織運営のもと、教科等の学びをさらに豊かなものにしていく必要があります。 幅広く組織運営をしていくには、子どもたちが安定した気持ちで学習に取り組めるようにするための生徒指導は欠かせませんし、多様な状況にある子どもたちを組織的に支えるインクルーシブ教育や、小中学校間のつながりを意識した教育活動の工夫も必要になります。 そうなると、こうした教育活動を実践する教職員が安心して、必要な教育活動に時間と労力を注ぐことができるように、会議や行事、部活動の在り方などを抜本的に整理していく働き方改革もまた、組織運営の点で欠かすことのできない要素です。 大切なのは、子どもたちが未来を生きていくのに必要となる力を育むために、主体的・対話的で深い学びがなぜ必要なのかという視点から学習指導の改善を行うことです。そして、学習指導と生徒指導の融合的な関係性をしっかりと捉え、子どもの自己肯定感を高められるカリキュラムを学校の特長や課題に合わせながら設定することで、子どもたちを自発的に自分づくりができるような学びに向かわせていくことだと思います。 子どもたちが自発的に自分づくりができる学び。それを今までずっと実践してきた教科が美術ではないでしょうか。 Society5.0という新しい社会概念や、SDGsに象徴される国際的な課題解決の時代。予測不能な社会を生きる子どもたちが、他者とともに乗り越えていけるための基盤的能力として、学習指導要領の中で特に重要とされているのが、・問題発見・課題解決能力・情報活用能力・言語能力といった三つの能力です。これらは、幼児期から小学校までのさまざまな経験を基にして中学校三年間という発達の段階に即した授業・人・社会とのつながりを生かして、教科等横断的に自己を成長させる中で育成を目指す能力です。 そして美術科において子どもたちは、絵や彫刻などの自己表現、デザインや工芸などの適応表現、それぞれに関わる鑑賞を組み合わせた幅広い授業の中で、形や色彩を深く味わい、造形的な視点を洗練させながら、他者との関わりの中で自分を見つめることができます。そこで展開される美術の学びは、たくさんの正解を蓄積するための硬く形式的なものではなく、多面的・多角的に最適解・納得解を模索することです。子どもたちは、形や色彩を駆使するチャレンジの過程で「知識や技能」を更新したり、イメージとの多様な関わりの中で自他の考えを交流させながら「発想や構想する力」を高めたりすることを通して、未来を生きる基盤を形成していくのです。 美術の学びでは主題を探究する過程で失敗を繰り返しながら試行錯誤したり、課題解決に向けて現実に合わせて何度も計画を修正したりしたことを振り返り、自分の学びを客観視することができるようになります。さらに、困難を乗り越える柔軟性や粘り強さ、他者に対する優しさも育まれていくのだと思います。 美術の先生の使命は、そうした時間と空間をつくり、心が震えるきっかけを子どもたちに提供してあげることではないでしょうか。 美術の強みとなるのが、教科等横断的な連携が実践しやすいことです。美術は、実際に手や身体を動かしながら表現する学びの中で、他教科での学びをも子どもの中で統合し、形に表すことができる教科です。例えば、美術作品の鑑賞において自分の思いを言葉や文章で表現したり、また他者の考えを読み解いたりする活動は、国語の学びとの深いつながりがあります。さらに伝統文化を題材にした学習は、道徳との連携によって、より深い学びを創出できるなど、他教科の学びを生かしながら双方の教科の特性を生かすことができます。 今、カリキュラム・マネジメントに求められているのは、学校全体で育てようとしている子どもの力と教科目標の重なりを考えて題材をつくり、単元を開発していくことです。それは、美術の先生たちにこそ、必要なことではないでしょうか。さまざまな連携に積極的に取り組むことによって、子どもたちが感性を育み、深い学びが実現できるような場を是非つくってほしいと思います。 教科を結ぶ核となる美術の学びこれからの時代に生きる美術科の可能性中学校学習指導要領 第1章 総則 (平成29年告示)実際の教育現場でどのような取り組みが行われているのか、見ていきましょう。 新しい学習指導要領では、各教科の学習を核とし、他教科と関連付けたり、生活や社会と結び付けたりしながら、学校教育の改善・充実の好循環を生み出す「カリキュラム・マネジメント」の実現が求められています。そうした「カリキュラム・マネジメント」の成果を十分生かすためには、個々の生徒に対して、主体的に学習に取り組む態度も含めた学びに向かう力等を培うことを併せて行う必要があります。そこでは継続的に粘り強く取り組むことだけではなく、自らの学習状況を把握し、学習の進め方について試行錯誤するなど、学習を調整しながら改善していくことが重要です。 美術科は、他教科との関連や社会や文化との関連を図った学習に取り組みやすく、また、発想・構想したことや技能を働かせたことなどが作品として可視化されるため、学びの成果を振り返り自己改善しやすい教科であると言えます。ここをチェックカリキュラム・マネジメントの中で美術の強みを生かすには、どのようにすればいいのでしょうか。新学習指導要領を基に横浜市のカリキュラム・マネジメント要領作成に携わった松原先生に伺いました。横浜国立大学大学院教育学研究科高度教職実践専攻(教職大学院)教授松原 雅俊まつばらまさとし2019年3月まで、横浜市教育委員会事務局にて教職員育成課長、教育課程推進室室長など歴任。現在、横浜国立大学教授、附属横浜中学校長を兼任。⑤ forme No.320 小 中 高 forme No.320 ④