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概要

形 forme 320号

 始める前は「自分にファシリテートができるのだろうか」ととても不安でした。しかし、よく聞き・対話するという朝鑑賞の活動を通して、口下手な私が、うまく話せるようになってきたと実感しています。「答えがないものを扱う恐怖」もなくなり、「答えがないからこそ面白い!」と感じるようになってきたことも収穫です。 もう一つ、大きな変化だと感じるのが、生徒の発言を待てるようになったところ。事前の研修で「子どもは黙っている間に考えている」と聞いて、沈黙を恐れる気持ちがなくなりました。これによって、発言が少ない子の言葉を聞く機会が増えたように思います。朝鑑賞は、生徒だけでなく教員が大きく変わる、とてもよい活動です。これからも長く続けていきたいと思っています。な楽しい学校をつくりたい』『教員のファシリテート力や生徒の思考力をアップさせたい』という二つの目的で、先生全員が関わることができる朝の一〇分間に活動を行うことにしました。活動を始めて少し経つと、気軽に発言できる雰囲気ができあがり、生徒たちがどんどん意見を言えるように。生徒と先生の距離がぐんと近づきました。また、教員が教科横断的に研修を行ったことで、教員間の意思疎通も円滑になったと感じます。対話を通した鑑賞の方法などを学びながら、みんなで試行錯誤しつつ活動をつくりあげたところがよかったのでしょう。苦労もありましたが、一体感が生まれ、学校全体の雰囲気が驚くほどよくなりました。結果として、学力テストにも反映されてきていると感じています」(沼田校長) 生徒、先生が、ともに対話力と思考力を磨き、一つになって成長していく―。美術の学びには、学校全体を変える力があると言えそうです。 金曜日の朝。各教室に絵画が運び込まれ、それを見た生徒たちからは歓声があがります。先生の「どのように感じる?」という問いかけから、人物の表情、背景、色合いなどさまざまな事柄に注目し、気付いたことや感じたことを生徒たちは口々に述べていきます。「決して生徒の意見を否定することなく、自由に安心して発言できるような場をつくることがポイント。」 こう語るのは、三ヶ島中学校に朝の自分の意見を自由に言える。さまざまな視点から作品や物事を捉えられるようになった。朝鑑賞以外でも他人の意見に耳を傾けるようになりました。美術鑑賞(朝鑑賞)の時間を採り入れた沼田芳行校長先生。社会科教師だったこともあり、持続可能なコミュニティづくりや、対話などに関心があったそう。「一つの絵をみんなで見て感想を言い合うことで、さまざまな見方・価値観があることを知り、互いを認め合うきっかけにもなっている。これは美術だからこそ実現できることだと思います」と、手応えを話します。 朝鑑賞は二〇一六年度にスタートしました。毎週一回、金曜日の朝の一〇分間、全学年、全クラス一斉に美術作品の鑑賞を行います。鑑賞する作品は、近隣の美大や芸術総合高校と提携し、作品を借り受けて定期的に入れ替えをしながら活用しています。「朝鑑賞は、『生徒が通いたくなるよう多様な価値観に触れ、認め合う力を育むため、所沢市立三ヶ島中学校が行っているのが朝の美術鑑賞です。取り組みにより、生徒や先生、学校全体はどのように変わったのでしょうか。×朝鑑賞週1回、10分間の鑑賞で学校が変わる朝鑑賞の作品は、保管している教室から各先生が選んで持っていく。所沢市立三ヶ島中学校 校長沼田 芳行(ぬまた よしゆき)埼玉県中学校社会科教諭、主幹教諭、所沢市立美原中学校教頭、所沢市教育委員会教育指導担当主幹兼健やか輝き支援室長を務め、2015年より現職。鑑賞を通して多様な価値観に触れる美術の力で学校が一つに 朝鑑賞を行うときに心掛けているのが、できるだけ優しく、柔らかく話すこと。普段は厳しめの態度で生徒たちに接しているのですが、朝鑑賞のときだけはリラックスして、気楽に話せる雰囲気をつくるようにしています。また、ポロッと出てきた発言や、何気ない感想を拾うこと、そこから対話を広げることも意識しています。これらを実践することで、「言ったことを拾ってもらえる」「否定されない」「なにを言っても大丈夫だ」という安心感が生まれ、さらに発言が活発になり、見方が広がって……。気が付いたら、数学の授業でも多くの質問が出てくるようになりました。 絵を見ながら考えるという力は、図形を読み解く際や作図をする際にも役立つのではないかなと期待しています。 朝鑑賞を始めたばかりの頃はファシリテートがうまくできず、一〇分間がとても長く感じました……。が、これまで読まなかったような鑑賞の本を読むなどしつつ試行錯誤するうちに、人の意見をつなげて展開するということができるように。今では一〇分間が、あっという間の楽しい時間になっていると感じています。 発問をするときに心掛けているのが、想像力をかきたてるような問いを投げかけること。「この絵からどんな音が聞こえる?」「季節は?」「それはなんで?」といった質問をよくしています。こうした質問を繰り返すことで、生徒たちが、日常生活や国語の授業のなかでも、出来事や感想だけでなく、その根拠を話してくれるようになりました。文章力、表現力も上がってきたと感じます。 朝鑑賞を始めたことで、子どもたちの「人との関わり方」が変わりました。以前は意見が割れるとすぐに多数決で解決してしまっていたのですが、他人の意見を尊重し、諦めず、「もう一回、話し合おう」というように。体育の授業でも、作戦を話し合ったり、運動が苦手な子をフォローしたりと、対話し支え合うことが増えたように思います。 教員側の変化でいいなと思ったのが、職員室での会話が増えたところ。朝鑑賞という新しい取り組みに、悩み、対話しながら取り組むことで、さまざまな先生が教科を超えて気軽に話し合うようになりました。 今、求められているのは、子どもたちの意見をよく聞き、つなぐことができる、ファシリテート型の教員です。朝鑑賞は、時代に即した教員の育成にも役立っていると思います。美術の活動が、同時に子どもたちの言語能力を鍛え、先生たちの成長にも結び付いています。想像するのが楽しい。数学科 関根 将志先生絵を見ながら考える力は、図形の読み解きにもつながる保健体育科 佐藤 彩弥先生(研修主任)多数決から話し合いへ!対話し助け合う心が育つ国語科 加藤 拓海先生 理 科 発問の工夫で生徒の想像力をかきたてる「答えがないものは怖い」から「答えがないから面白い」へ!教科を問わず、全校教員で取り組む朝鑑賞。生徒や先生にどのような変化が現れたのでしょうか。〈 生徒が変わった! 〉〈 先生が変わった! 〉特集カリキュラム・マネジメントの核となる「美術」⑨ forme No.320 小 中 高 forme No.320 ⑧想像するのが楽しい。小林 誠先生