ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.1

巻頭言
 
関西大学教授 日本教育工学会会長 水越敏行

 コンピュータが誕生して半世紀,わが国の学校に取り入れられて,まだ四分の一世紀しか経っていない。その間にこれほど急激に普及し,またその使い方が質的に変化したメディアは,他に比べるものがない。

  大型計算機という名称からわかるように,最初は計算する機械として登場してきた。それが学校に導入されると,CAIによる個別学習や学習の自動化,次いで問題解決,データ処理,表現などのツール学習,そしてマルチメディアパソコンを用いた多様な相互作用学習と,主役が代わってきた。かと思えば,ここ数年間には,インターネットが職場に,家庭に,そして学校になだれのような速さで普及してきた。ARPAネットというその前身は,30年も前に出ていたとはいえ,これほどのすさまじい普及は,世界中の誰もが予想できなかったであろう。
さて,このように急テンポで利用形態が変わると,早くからコンピュータを導入し,なれ親しんできた学校ほど(厳密にはその学校の教師ほどと言うべきだが),頭の切りかえができないという皮肉な現象が出てきている。いちばん遅れて最新機を導入した小学校では,児童が楽々と電子メールで交信し,ホームページを立ち上げて情報を発信し,wwwで情報検索のサーフィンを楽しんでいるのに,○○ではまだ生徒の出席や成績処理程度を,それも特定の教師に押しつけて「自分の在職中は,パソコンには触れまい」と妙な決心をしている教師も少なくない。電子計算機からCAIでのコンピュータ利用か,職業学校でのプログラミング,という発想にとどまり続けている。

  中学校では「情報教育」でかつて教えていたことが,小学生が楽々とこなしてくるようになり,今度の指導要領で「情報とコンピュータ」を学年をくり下げて実施するのみではなく,その内容構成を抜本的に変えないと,入学してくる中学生のニーズや実態に対応しきれないであろう。そして皮肉なことに,コンピュータ活用が,質量ともに最も遅れている普通高校に,2003年から情報科が必修で入ることになったのである。当然のことかも知れないが,普通高校の教師の一般の反応は,まだきわめて鈍い。義務教育学校の教師の実態とは,はるかにかけ離れている。

  もちろん手をこまねいているわけではない。文部省も中央研修,地方の拠点地域での研修,衛星を使っての研修で教師教育の実行を企画している。情報教育の研究者たちも,情報科のカリキュラム試案を出したり,研究会を開いてきている。しかし総じて,大学の情報系学部の1〜2年生のカリキュラムがモデルになっており,普通学校の2単位あるいは4単位で実施していくには,そのままでは通らない状況にある。

  今,さし迫って必要なのは,行政や研究者から出てくる試案の検討と合わせて,中学や高校の現場から,すぐれた実践の知恵を集めることであろう。地層の学習で,あるいは,印象派の画風の学習で,経済戦略の学習で,というように,各教科の中でコンピュータを活用した新しい授業が創り出されている。また中学の情報基礎でも,従来のからを破って,新しいソフトを生徒が開発し,それを幼児や小学生に使ってもらって評価を受けるというような企画も実現しつつある。

  一つの中学校と二つの小学校をインターネットで結び,教師も生徒も共同学習している中学校や,海外の日本人学校や欧米の学校と,食の文化や演劇で共同学習が進んでいる所もある。

  こうした事例をメーリングリストで交流し合うだけでなくて,小冊子にまとめ,研究者や実践者のコメントもつけて広く全国の教師に参照していただきたいと思い,本誌を企画した次第である。著者も読者も自由に意見交換のできる場になれば幸いである。

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