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ICT・EducationNo.14 > p14〜p17

教育実践例
川村学園教育支援センターでの情報教育への取り組み
川村高等学校 渡邉 通
watanabet@kawamura.ac.jp
http://www.kawamura.ac.jp
1.はじめに

 川村学園は大正13年(1924)に「女性の自覚」を教育理想として目白の丘に川村女学院として開校し,まもなく80周年を迎えようとしている。平成7年7月,70周年記念事業の一環としての新校舎建設に合わせ「教育の情報化に積極的に対応しよう」という教育理念に基づき,総合的な情報教育の実践に乗り出した。

 本学園の小学校・中学校・高等学校の情報教育の中枢的な役割を果たすことを目標とし,図書館や情報教育研究室,情報処理室3教室を,「情報教育センター」(平成13年度より教育支援センターと改称)とした。各教室には生徒用パソコンが50台ずつ,計150台を設置し,2教室がLANで接続され,インターネットも利用可能である。そこで,現時点での情報教育への各校の取り組みを紹介する。

2.川村学園各校での情報教育
 本校では,各校すべての授業において情報専門の教師1名,教務補助1名のチームティーチングを行なっている。さらに,小学校においては,小学校情報担当の教師1名と担任も参加し,計4名で授業を行なっている。

(1)川村小学校
 平成7年9月から,総合の教科を利用して週1時間,情報教育を行なっている。対象学年は3年生から6年生まで(3年生は平成13年度より実施)である。小学校は4年間を通して,主に「メディアルーム」という,教育用統合ソフトを使用し,楽しく作品を作り,パソコンに慣れ親しむことを目標としている。

 3年生は,昨年度(平成13年度)より授業が始まり,主旨をマウスの操作におき,お絵描きの前にスタンプ機能などを使用して作品を作った。ローマ字学習が3年3学期の単元なので,ソフトウェア上の五十音表をマウスでクリックして文字を入力する。自分の名前をローマ字入力すること,フリーハンドで絵が描けることを最終到達目標としている。

マウスでの文字入力
▲マウスでの文字入力

  4年生は,他教科や行事などの作品を文章にスキャナーで撮った写真や,描いた絵を添えて作成している。教科での学習は,学年担当の教師と相談し予定を立てている。例えば,国語で書いた詩をワープロで入力し,その情景を絵で表現する作品などである。学年の最後に電子紙芝居をグループで協力して作り上げ,大型プロジェクターで発表している。

小学生発表の様子
▲小学生発表の様子

 5年生は,それまでに学習したメディアルームのコマンドを復習しながら,作品作りを始める。児童の住んでいる地域の絵を描き,スキャナーで撮った自分の姿を登場させた「私の街の紹介」を作るなど,多少手の込んだ作品作りをしている。社会科での白地図の色塗りや,蓼科学習(校外学習)での気温の変化を折れ線グラフにしてレポートにしたり,電子紙芝居も再度行い,今度は音や声を入れたりして作成している。

 6年生は,今までの学習から離れ,一年間かけて「生い立ちの記」を作成している。生まれた時からの写真を用意し,家族や親戚などからその写真の頃の自分を取材し,スキャナー画像と文章で1ページを仕上げる。現在や未来の自分,ペットや友達のページも加え,最後にクリアファイルで一冊のアルバムのように綴じて,楽しい作品が仕上がる。6年生になると,ほとんどの操作を理解し自発的に行動して作品作りを進められる。

生い立ちの記「表紙」
▲生い立ちの記「表紙」

生い立ちの記「赤ちゃんの時」
▲生い立ちの記「赤ちゃんの時」

(2)川村中学校
 中学校も小学校と同じ,平成7年9月から情報教育を行なっている。当初は技術・家庭科の授業時間の中で年間数時間を割く程度であったが,今では各学年に情報の時間を設けるまでに充実してきている。主にお絵描き,ワープロ,表計算と順序立てて授業を行なっている。最終的には,各ソフトウェアにおいて作成したデータを統合して作品を作るところまでを目標にしている。情報の授業のほかにも美術の色彩や数学の図形,英語検定の学習などでも利用している。

 1年次は,上記の到達目標を課題に交えながら作成し,学園祭に出展している。通年授業であるためソフトウェア操作の基礎はおさえることができる。

 2年次は,今年度から芸術系の授業とともに選択科目となり,1年生で学習したことを更に発展させ,コンピュータを道具として使いこなせるまでを学習する。

 3年次は,今年度から情報選択という形式を取り,3つのコースから自由に選択できるようになった。(なお,高等学校における情報A・B・Cとは関係ない。)

<情報A>情報活用入門
 情報モラルを学習して,インターネット等を活用しながら,興味あることについて調べてまとめて発表しよう! 自分で興味ある分野について深く追求し,インターネットや図書館などを利用して資料をまとめ上げ,最後に全員の前で発表を行なう。

<情報B>Word/Excel入門
 Word(ワープロ)/Excel(表計算)の使い方を詳しく学習し,ワープロ検定など,各種検定を目指そう!
 今年度はワープロ検定を目指し,ビジネス文書や表の挿入などを学習している。

<情報C>情報デザイン入門
 葉書やポスター・シンボルマークのデザインを勉強して,自分でも様々な物のデザインをしてみよう!
 身の回りに,何気なく存在するピクトグラム(絵文字)について学習し,実際に各自で作成してみる。特に学校でのクラブ活動などをピクトグラムにしてみたりして,良い作品は本学園のHPにも使用する予定である。

ピクトグラム
▲ピクトグラム

(3)川村高等学校
 高校では平成15年度からの普通教科「情報」スタートを見越して,平成11年4月から本格的に情報教育に取り組み始めた。授業開始時の目標としては,「コンピュータを自分の使いたいように使いこなし,世の中に氾濫している情報をきちんと選択できること」を目標に掲げた。
3.高等学校「情報」授業の4年間の経過
 高校での情報教育は,中学校から引き続き,コンピュータリテラシーを主として行い,WindowsのWindow操作(カット&ペースト等)や,各種コマンドの使い方,ソフトウェアでの応用(表計算ソフトでのチケット作りや,ワードアート,デジタルカメラでの写真の加工),情報倫理としてネットエチケット(インターネットでの注意点など),情報の歴史,時事問題を年間の授業計画の中に取り入れている。

 そのカリキュラムの中から,いくつか項目を絞って,現在までの授業を解説していこうと思う。

(1)情報モラルについて
 情報モラルについては,授業が始まった時から注目してきた項目である。特に生徒が情報を手軽,なおかつ,頻繁に発信するようになってきたので,情報社会の中では情報モラルが必要だという観点から指導することにした。授業を行なうにあたってまず,適した資料を探す所から始まった。

 情報モラルといっても,いまだにこれといった規則や法律があるわけではなく,個人個人の中のただ漠然とした道徳心しかなく,相手に迷惑とおもわれることが情報モラルに反する,ということしか私の頭には思い浮かばなかった。そこで,インターネットで「ネットエチケット」と検索をかけてみて,ヒットしたページを全て目を通した。そこで私の目に付いたのが次に紹介する「ネチケット千夜一夜」というページである。

ネチケット千夜一夜
▲ネチケット千夜一夜(http://www.big.or.jp/~roadist/netiquette/index.html

 このページは口語調で書かれていて非常に生徒には読みやすく,しかも使われてる内容がメール,チャット,フェイスマークなど,所々に生徒の気持ちを引くような内容になっている所がすばらしい。

 そのなかでも,以下に記す最初の一言が生徒の頭に残るようである。

 『ネチケットというものは,基本的に次の2つだと思います。

 (1) 人を愉快にさせる。
 (2) 人を不愉快にさせない。

 ここでいう人は,他の人も含まれますし自分自身も含まれます。もし,誰かがあなたの悪口を言ったなら,あなたは嫌な思いをしますね。誰かがあなたに親切にしてくれたなら,あなたはうれしいでしょう。人の迷惑になる行動はせず,人のためになる事が大切です。(ネチケット千夜一夜HPより)』

 実際に,教師と生徒の立場でも日常の生活にもこの文章の重なる部分はあるはず,という話をすると生徒は納得するのである。これは,道徳教育としても成り立つ言葉であろう。ネットエチケット教育にすでに4年間使用しているが,毎年かなりの反響を得ているHPである。 (※掲載にはHPの作者の承諾を得ています。)

(2)プレゼンテーションについて
 情報活用能力の育成という意味で,昨年からPowerPointによるプレゼンテーションの授業を行なっている。私が夏の全国ディベート大会をテレビで見たというのもあり,クラス全体で討論したい議題を幾つかあげてもらい生徒に議題を決めさせた。教師側が用意した議題よりも,やる気を示してくれるだろうという考えもある。

 あがった議題を少し紹介しておく。

 (1) 靴下は自由?指定?
 (2) 携帯電話は学校に持ってきても良いか
 (3) 校則の全廃
 (4) 共学と女子校どちらが良いか
 (5) 生まれ変わるなら男・女?

 (1)〜(3)までの議題は,討論しやすいだろうが,(4)・(5)は,どういう流れになるのか,と少し心配したが,(5)に関しては男女の寿命や脳の仕組みなど多岐にわたって調べ込んでおり,聞く側の興味を引く内容となっていた。

 4人ずつのグループを作りひとつの議題に対して2グループで討議してもらった。評価に関しては生徒一人一人と,教師と教務補助の3方向から公平に評価するようにした。生徒からの評価は紙に記入してもらうのではなく,フリーウェアの集計ソフトを使用した。

集計ソフト
▲集計ソフト

 このソフトは,CSV形式で保存されるので非常に集計しやすい。それを点数化して評価とした。評価の観点は

 (1) 発表態度
 (2) PowerPointの出来
 (3) 話の組み立て
 (4) 中立の立場で,どちらの発表が優位であったか ((1)〜(3)は5点満点,(4)はどちらか一方のグループを選択)

以上の4つである。

 評価は「厳しく!」と,あらかじめ告げておいたので,甘い点数での結果は表れなかった。発表者の話し方によってはPowerPointの出来が悪くても優位に立てるグループもあったようである。初めてやってみて,私が考えていたよりも各グループ趣向を凝らした発表をしていたと思う。反省点としては,1グループ4人というのは,資料作成に人数が多かったようである。また,面白半分で決められた議題にあたった班はデータ資料の確保に苦労していたこともあり,議題を生徒に決めさせるだけではなく,教員側からも意見を出して決めた方が良いと思われる。今年度は昨年の反省点を生かし,さらに充実したプレゼンテーションにしていこうと思う。

高校生の発表の様子
▲高校生の発表の様子
4.今後の情報教育の目指すところ

 本校の高等学校における授業でもそうだが,コンピュータリテラシーだけでは,情報教育はおさまらなくなってきている。授業開始当初は,ワープロや表計算,画像処理ソフトなどをきちんと使えるようにするのが目的であったが,コンピュータの進歩は急速で,現在の情報教育では,情報活用能力,問題解決能力,など日常の身の回りにある情報をどのように利用・処理・活用させるか,という分野にも目を向けさせるように変化してきている。

 今までの授業を「理解・習得させる」という言葉でまとめるとすれば,今後の授業は「考えさせ・活用できるようにする」というように授業を変化させていかなければならないだろう。コンピュータの実習を通して「考えさせ・活用できるようにする」ための授業には,生徒と教師が一体となって,冷たいコンピュータの箱を触る授業ではなく,様々な身近な話題に触れ,言葉と言葉が飛び交うような生きた授業に展開していくことが不可欠であり,これこそが今後の情報教育の目指すところであろう。

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