ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.17 > p1〜p5

論説
情報活動を評価する
関西大学総合情報学部教授 黒上 晴夫
1.情報教育の目標と評価

(1)3つのねらいと評価

 小学校では「情報活用の実践力」を中心に,中学校と高等学校では,それに「情報の科学的な理解」と「情報社会に参画する態度」も加えて学習させることになる。この時系列のバランスの変化に加えて,高等学校普通教科「情報」のA,B,Cの背景には,その3つの柱の比重のかけ方によって,内容的なバランスの違いもある。これらは,「ねらい」の差異であるから,当然学習内容や学習活動が,学年段階や科目によって変わってくることになる。もちろん,学校の施設や教科書,教師の力量や関心などによってもそれらはちがってくる。すると,目標の違いに応じて,評価すべき事柄も変わってくることになる。評価は目標にそって行われるべきものだからである。

 では,小学校では「情報活用の実践力」を評価して,中学校から「情報の科学的な理解」と「情報社会に参画する態度」を評価すればいいということなのかというとそうではない。先にも述べたように,情報Aは「情報活用の実践力」に重点をおくわけだから,やはりそこでも「実践力」は評価対象になる。逆に,例え小学校でも他の2つの柱についても視野に入れておく必要がある。

 同様に高校の情報Cは「情報社会に参画する態度」だけを評価すればいいのかというとそうではない。実践力や科学的理解は情報社会に参画するための基礎になるし,社会に参画する態度がない所に実践力も育たない。

 結局は,それぞれの段階や領域において,3つのねらいが,重みを違えながら評価されるべきなのである。そして,その目標や評価の項目をどのように表現するかということが問題になる。それが情報機器の操作方法や操作の速さ・正確さといったことであるならば目標の記述は明確になるが,質的な向上という側面が多分にあって,そのことが評価を難しくしている。つまり,小学校の時の情報活用の仕方と高等学校での情報活用の仕方は,例えば“○○について解説したウェブページを見つけ出して要約する”というような活動において,ウェブブラウザによって検索を行うという活動が含まれていることは同じなのだが,そこで期待される調査の範囲や要約の仕方が異なっているのである。これは“何をできるようになるか”という違いではなく,“どのようにできるか”という質的な違いである。そして,情報教育の評価のプロセスに,この「質的な向上」をどのように組み込んでいくかを考えることが重要である。

(2)火曜の会の「情報教育の目標リスト」

 このことを確認するために,「火曜の会(永野和男聖心女子大教授主催)」が提案している「情報教育の目標リスト」を見てみよう。ここでは,先の3つのねらいが以下のように,更に7つに細分化されている。

1.情報活用の実践力
 [1]情報の表現とコミュニケーション
 [2]課題解決における主体的な情報活用(収集・表現・創造・発信・交流)
 [3]情報手段(情報メディア,コンピュータ,ネットワーク)の適切な利用

2.情報の科学的な理解
 [4]情報手段の仕組みや特性の理解
 [5]情報処理や情報技術,人間の情報認識に関する基礎的な理論と方法

3.情報社会に参画する態度
 [6]情報に対する態度
 [7]情報モラル・情報発信の責任

 そして,小学校低学年から中学校までの情報教育のねらいが,具体的に書かれている。一部を表1に示すが,例えば「②課題解決における主体的な情報活用」の中に下位項目として「問題の発見と計画」や「整理・分析・判断」といった思考に関わるものが列挙されていることに気づく。むしろこのリストのほとんどが,情報機器の操作に直接関わる内容ではなく,情報をどのように自分なりに加工したリ表現したりして活用するかという「思考」に焦点をあてているのである。それは,このリストに「情報の科学的な理解」の目標が具体的に示されていないことによるともいえるが,それでも他の2つのねらいの目標が「思考」に重点をおいたものになっているということは無視されるべきではない。

 そして,小学校低学年から中学校までの情報教育のねらいが,具体的に書かれている。一部を表1に示すが,例えば「②課題解決における主体的な情報活用」の中に下位項目として「問題の発見と計画」や「整理・分析・判断」といった思考に関わるものが列挙されていることに気づく。むしろこのリストのほとんどが,情報機器の操作に直接関わる内容ではなく,情報をどのように自分なりに加工したリ表現したりして活用するかという「思考」に焦点をあてているのである。それは,このリストに「情報の科学的な理解」の目標が具体的に示されていないことによるともいえるが,それでも他の2つのねらいの目標が「思考」に重点をおいたものになっているということは無視されるべきではない。

【c :問題の発見と計画】
中学年  自ら課題を選び計画を立てることができる
・集めた情報の共通点や相違点から,課題を見つける
・得た情報から新たな課題を見つける
・自分の身近な事象に関連づけて課題を考える
・見通しを持って,調べる
高学年  自ら課題を見つけ,見通しを持って活動することができる
・課題解決に必要な情報かどうか適切に判断する
・自分の意見を正確に相手に伝える
・自分の考えや活動計画の要点をわかりやすくまとめる
中学校  自分の学習活動を振り返りながら,計画・実施・評価ができる

【d :整理・分析・判断】
中学年  集めた情報を比べたり,まとめたりできる
・話し合って意見をまとめる
・相手に伝えたいことを,絵図や資料にまとめる
・相手に伝えたいことを,情報を整理して文章にまとめる
・相手に伝えるために,資料を作成する
・集めた情報について話し合い,新しい関係を見つける
・集めた情報の共通点や相違点を話し合い分類する
高学年  集めた情報を分析し,適した方法でまとめることができる
・集めた情報を分析し,傾向や規則性をみつける
・課題解決に必要な不足情報に気づき,さらに情報を収集 ・整理する
・集めた情報の特性に応じて適切な表やグラフにまとめる
・伝えたいことを,電子情報としてまとめる
・集めた情報を活用しやすいように整理する
中学校  情報手段を活用して,整理・分析・判断する
・コンピュータやメディアを利用して情報を整理する
・コンピュータにデータを入力して分析する
・分析した情報に基づいて,的確に判断する

【m :情報に対する態度】
中学年  情報の大切さを意識する
・情報の大切さに気づく
・情報は人に影響を与えるということに,気づく
・情報を選択した根拠を説明できる
・自分の考えと違う意見があることに気づく
・他の人の発信した情報の良いところを見つける
・情報には,正しいものと誤ったものがあることを知る
高学年  情報と主体的にかかわろうとする
・発信された情報が人に与える影響を理解し,行動する
・正しく伝えられたのか振り返り,修正できる
・他の人の情報をもとに,自分の情報を改善できる
・結果と意見を区別できる
・社会の常識の中には,自分の考えとちがうものもあることに気づく
・受け取った情報が正しい情報かどうかを,意識できる
・情報には,発信側の意図が含まれていることに気づく
中学校  情報を批判的に活用できる
・情報の真偽を判断し,適切に行動することができる
・課題について調べた情報を根拠にして討論を行う
・自分の行った活動を振り返り,問題点と理由を指摘できる
・自分の発信した情報の影響を評価し,必要な改善を行う
・統計情報の持つ意味を推測する
・結論を導いた根拠を示す
・自分の意見の独創性(オリジナリティ)を意識する
・情報の適切さについて批判的に判断できる
・他者が発信した意見や自己の意見を客観的に評価する

▲表1:火曜の会の「情報教育の目標リスト」(http://www.kayoo.org/home/project/list.html)より抜粋

(3)国立教育政策研究所の評価規準

 ところで,中学校と高等学校の情報教育は教科として行われるのであるから,その評価は評価規準に基づいた絶対評価になる。高等学校のものはまだモデルが示されていないので,中学校のものを見てみよう。

 評価の観点は,

[1]生活や技術への関心・意欲・態度
[2]生活を工夫し創造する能力
[3]生活の技能
[4]生活や技術についての知識・理解

の4観点である。そして,6つある指導内容ごとに観点別の評価規準が示されている。実際にはこれを参考に,各学校の状況に即してより具体的に評価規準を記述し,それに基づいて学習活動を評価することになる。

 ところで,その文言はやはりコンピュータの操作だけに的を絞ってはいない。逆に,子どもの「情報を取り入れて自分なりに解釈したり再構成したりする」プロセスを前提にした目標の記述が多いのである。それは,そもそも評価の観点の中に,態度や創造といったスキルとは異なる観点が含まれているから当然かも知れない。しかし,情報を活用するということは本来目的的になされるべきで,目的によって利用するツールや使い方が異なってくる。それは手順として機器の操作を習得することとは異なる,数段上の次元の話である。そして,情報教育はそこを最終的なターゲットにすべきなのだろう。

 ここで,教科における評価規準と,情報教育の3つのねらいにおいて考えておこう。表2の一番左の列が指導内容を表しているが,それぞれが図1のように各ねらいと対応していると考えられる。従って,3つのねらいと4つの教科の観点は,複雑に絡み合っていることになる。
教科「情報」では,4つの観点が「関心・意欲・態度」「思考・判断」「技能・表現」「知識・理解」とされているが,3つのねらいとの関係においては中学校と同様であろう。

 

生活や技術への
関心・意欲・態度

生活を工夫し
創造する能力

生活の技能

生活や技術についての
知識・理解

[1]生活や産業の
中で情報手段の
果たしている役割

コンピュータ等の情報機器や情報通信ネットワーク及び情報手段の果たしている役割に関心を持ち,情報モラルについて考えようとしている。

情報を適切に使う方法を工夫している。

 

情報手段の発達と生活とのかかわり,及び情報化の進展が及ぼす影響に関する知識を身に付け,情報モラルの必要性について理解している。

[2]情報と
コンピュータ

コンピュータの基本的な構成と機能,及びソフトウェアの機能に関心を持ち,コンピュータの操作をしようとしている。

 

コンピュータの基本的な操作ができる。

コンピュータの基本的な構成と機能,及びソフトウェアの機能に関する知識を身に付け,ハードウェアとソフトウェアとの関係について理解している。

[3]コンピュータ
の利用

応用ソフトウェアの特徴と利用方法に関心をもち,応用ソフトウェアを利用して自らの考えを表現しようとしている。

課題に応じて,応用ソフトウェアを用いた情報の処理の仕方を工夫している。

応用ソフトウェアの操作技術を身に付け,基本的な情報の処理ができる。

パーソナルコンピュータの利用形態や応用ソフトウェアの特徴と利用方法に関する知識を身に付け,データの種類や特徴と応用ソフトウェアの関係について理解している。

[4]情報通信
ネットワーク

情報通信ネットワークに関心を持ち,情報を収集したり発信したりしようとしている。

目的に応じて,情報通信ネットワークの利用方法を工夫している。

情報通信ネットワークを利用して情報を収集,判断,処理し,発信することができる。

情報の伝達方法の特徴と利用方法に関する知識を身に付け,コンピュータを利用したネットワークのあり方について理解している。

[5]コンピュータ
を利用した
マルチメディア
の活用

マルチメディアに関心をもち,生活に活用できる範囲や使用方法を考えようとしている。

ソフトウェアを用いて解決することができる課題を設定し,その課題解決のためにソフトウェアの組み合わせや適切に活用する方法について工夫し創造している。

マルチメディア用ソフトウェアを活用して,表現や発信ができる。

マルチメディアの特徴と利用方法に関する知識を身に付け,ソフトウェアを活用した表現や発信について理解している。

[6]プログラムと
計測・制御

コンピュータを用いたプログラムに関心をもち,身の回りで見られる計測・制御について調べようとしている。

計測・制御にかかわる課題を設定し,その課題解決のためにプログラムの手順を工夫し創造している。

コンピュータを用いた簡単なプログラムの作成,及び計測・制御ができる。

簡単なプログラムの作成に関する知識を身に付け,コンピュータを用いた計測・制御の仕組みについて理解している。

▲表2:中学校「情報とコンピュータ」の指導基準(http://www.nier.go.jp/kaihatsu/houkoku/styuugaku.htm)を元に作成

図1:中学校「情報とコンピュータ」の指導内容と「情報教育のねらい」

▲図1:中学校「情報とコンピュータ」の指導内容と「情報教育のねらい」
2.評価の方法
(1)ルーブリクによる評価

 「評価基準」と「評価規準」という言葉の違いが時々話題になる。もともと「規準」というのは行動のモデルや目標を指すので,「評価規準」は“こんなことができるようになってほしい”という教師の願いあるいはねらいを示したものといえる。それに関して,「少なくともこれだけは」というレベルを示すとき,それは「最低到達基準」と呼ばれる。しかし,国立教育政策研究所の示す評価規準は“大多数がここまではできるようになってほしい”という規準を示したもののようである。一方,“最高ここまでできるようになることを目指す”というような記述の仕方もあり得る。
一方「評価基準」は,ある評価項目に対して,“何がどこまでできればどのような評点を与えるか”を示すものだとして使われている。数値で考えれば,80点ならA,60〜80点ならB,40〜60点ならC,40点未満ならDというような基準を言う。

 アメリカやオーストラリアなどでは,活動のプロセスや成果を評価するのに,この「評価規準」と「評価基準」を組み合わせたルーブリク(Rubric)表を用いる試みが広がっている。ルーブリクを作るには,まず評価の対象となる活動に対して,数個の評価項目を想定する。例えば,「学習におけるコラボレーション(協働)」というような項目に対しては,「情報収集の方法」「情報の共有」「作業期限の厳守」「役割分担」「話し合いへの参加」「民主的な態度」「他者の意見の尊重」「協力」などが項目として想定できる。そして,「情報収集の方法」に対しては,

[1]トピックに関係する情報を集められなかった。
[2]トピックに関して集めた情報が少なかった。
[3]集めた情報のほとんどがトピックと関係していた。
[4]トピック関係するたくさんの情報を収集できた。

というように4段階程度の基準を準備するのである。そして,この基準に照らして,学習者の状況を評価するという方法である。

 教科「情報」において重視される実習では,コンピュータを用いて何かを制作する活動,共同して計画を立てたり調査をしたりする活動,調べたことをまとめる活動,プロジェクタを用いたプレゼンテーションなど,さまざまな学習活動が想定される。これらの活動を評価するためには,単にぺーバーテストを用いるだけでは難しい。少なくとも成果としてのレポートやプレゼンテーションの評価が必要だし,できれば学習のプロセスも含めて評価したい。そのためにルーブリクが有効なのではないだろうか。

(2)ルーブリクの実際

 オーストラリアのクイーンズランド州にあるバーシティ・カレッジ(日本の中・高等学校にあたる段階)では,“マルチリテラシー(読み・書き・算やコンピュータリテラシー,メディアリテラシーなどの多様な基礎能力)”を育てることをねらいとして,ICTを活用したさまざまな授業を行っている。このマルチメディア授業における評価の方法について見てみよう。

 マルチメディア授業では,「テレビアニメに出てくるようなスーパーヒーローを考案して,そのヒーローを紹介するシーンを30コマ程度の漫画にする」や「ポップミュージック新聞を作る」といった課題に従って学習が進む。生徒は,コンピュータやスキャナなどの周辺機器を駆使して,その課題に取り組む。

 学習活動の評価に用いられているルーブリク表の一部を翻訳したものが,表3である。この課題では,ドローソフトの操作に関わる項目や,描画のイメージを測る項目,データ収集のやり方など,多様な角度から,課題遂行の状況を評価しようとしていることがわかる。

 

D(再提出)

NR

知識

ドローの形,輪郭,画像サイズを理解して使いこなす。

ドローの形,輪郭,画像サイズを理解して,うまく使う。

ドローの形,輪郭,画像サイズは理解している。

ドローの形,輪郭,画像サイズをよく理解していない。

ドローの形,輪郭,画像サイズの理解が見られない。

コミュニケ
ーション

視覚的イメージと言葉を使いこなしたおもしろいストーリーを作成できる。

視覚的イメージと言葉を使い分けている。

視覚的イメージと言葉を使い分けているが,綴りに間違いがある。

綴り,句読法,文法に誤りがある。

ストーリーがない。

思考スキル

動作を非常にうまく漫画に変換している。

動作を漫画に変換している。

動作を漫画に表している。

動作を表すのが難しい。

動作が表されていない。

データ収集

資料集や様々な情報源を詳しく調べて包括的に活用している。

資料集と様々な情報源を詳しく調べている。

資料集や複数の情報源の活用が認められる。

一つの情報源しか利用していない。

調べた形跡がない。

創造性

独創的で創造的なヒーローを作っている。

創造的なヒーローを作っている。

うまくヒーローを描いている。

ヒーローをパクっている。

ヒーローが描けない。


▲表3:ルーブリクの翻訳(部分訳)

(3)評価項目のカテゴリー分けと評点の蓄積

 ところで,このルーブリクの各項目の評点をどう扱えばいいのだろうか。欧米では全項目を単純に加算しているようである。しかし,先に見た評価の観点と関連させることが可能なのではないだろうか。ルーブリクの項目が,それぞれのどの観点と関連しているのかを明記しておいて,観点ごとに見ていくやり方である。

 「スーパーヒーロー」で考えれば,「知識」は「知識・理解」に,「コミュニケーション」は「思考・判断」「知識・理解」の両方に,「思考スキル」は「思考・判断」「技能・表現」に,データ収集は「技能・表現」に,「創造性」は「思考・判断」に対応するというように見るのである。このとき,一つの項目が複数の観点と関連することも,十分あり得ると思われる。

 こうして,「情報」で行われる毎回の実習において,それぞれの項目の評点を観点別に集計していくと,一人一人の生徒が,各観点でどの程度の成果を示しているかが,緻密に記録されることになる。もちろん,毎回の授業で全員の学習の様子を逐一観察することはできない相談なので,学習者による自己評価や相互評価などの工夫をし,その結果も記録に含めるようにするといったことが必要になるだろう。

 さて,このような評価方法が,実際の授業において活用できるだろうか。ルーブリクを作成する手間と,評点をつける煩雑さをどう乗り越えるかが,成功の鍵となるだろう。
前へ   次へ
目次に戻る
上に戻る