ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.17 > p14〜p17

中学校の情報教育実践例
実践的・体験的な活動を通して,生きる力をはぐくむ授業の創造
−工夫・創造の評価に留意した「オートマ君」を使った制御学習の実践−
堺市立鳳中学校 平松 宗
1.はじめに

 本年度より完全実施された学習指導要領では,技術科の内容が「A技術とものづくり」「B情報とコンピュータ」の2つの内容に集約された。このような背景には,情報化社会に生きる子どもたちに身につけさせる能力の一つとして,身の回りに存在する情報に対して,適切に対応する力が今後,益々必要とされるからに他ならない。

 また,技術・家庭科の目標としては,「生活に必要な基礎的な知識と技術の習得を通して,生活と技術とのかかわりについて理解を深め,進んで生活を工夫し創造する能力と実践的な態度を育てる」とある。これは,単にソフトウェアの操作だけでなく,「A技術とものづくり」と「B情報とコンピュータ」の学習から,実社会でのコンピュータ等の利用について幅広く捉え,身近な生活に生かすことが求められている。

 本研究で取り上げる「B情報とコンピュータ」の(6)「プログラムと計測・制御」は,コンピュータの外部に機器を接続し,それをコンピュータからの命令で制御することにより,普段あまり見る機会は少ないが,情報化社会を支えているコンピュータのはたらきについて,実践的・体験的で分かりやすい授業を展開でき,子どもたちのコンピュータそのものへの理解が一層深まると考え,研究に取り組んだ。

 また評価活動の上からも,プログラムの実行,修正が模型の動きとともに確認でき,「工夫・創造」の観点を育てる上で有効な評価方法を検討した。

2.研究のねらい
 基礎・基本を重視し,さらに,実践的・体験的な学習活動を行うために,「B情報とコンピュータ」の(1)「生活や産業の中で情報手段の果たしている役割」(2)「コンピュータの基本的な構成と機能及び操作」に続いて(6)を履修することにした。(6)は,すべての生徒に履修させる部分ではないが,(2)と関連付けることにより効果的な授業が展開できると考えた。

 例えば(2)の(ア)「コンピュータの基本的な構成と機能を知り,操作ができること。」では,周辺機器の一つであるプリンタと同じポートに制御される模型を接続することで,コンピュータと周辺機器とのデータのやり取りが実際の模型の動きとして確認することができる。また,(2)の(イ)「ソフトウェアの機能を知ること。」についても,マウスやキーボードから直接命令やデータを与えることにより,模型が動き,その命令とデータを組み合わせることで,目的の動きを実現することができることから,命令やデータの集まりがソフトウェアであり,市販されている高機能なソフトウェアも基本的には同じつくりになっているということも理解できる。

 さらに,課題として与えられたコース上での模型の動きを想像し,コースをクリアできると考えられるプログラムを作成し,そのプログラムを実行する。実行されたプログラムによる動きを確認しながら,プログラムに修正を加えていく。コースをクリアするために,何度もこの作業を繰り返すことで,生徒自らが自分の課題を発見し,解決していく態度を育成することができる。このようなことによって,体験的・実践的な授業が展開できると考えた。
3.研究の内容
 本研究では,模型を制御するために,「オートマ君」というソフトウェアを使用した。「オートマ君」とは,中学校の教員研究グループが開発したソフトウェアで,フリーウェアとしてWeb上で公開されている(http://www.gijyutu.com/g-soft/)。DOS版も用意されているが,今回使用したWindows版は,マウスを使って簡単にプリンタポートを制御することができ,プリンタポートにつながれた模型をコントロールすることができる。また,制御する模型には,市販の模型を使用し,下表のように8つのポートを制御することで,デモカーの各部をコントロールすることが可能である。

出力1 右タイヤ前
出力2 右タイヤ後
出力3 左タイヤ前
出力4 左タイヤ後
出力5 ブ   ザ
出力6 右ウィンカ
出力7 前 ライト
出力8 左ウィンカ


配当時間 授業の流れ 生徒の活動 評価規準
基本的な
命令と
その動き
の確認
(1H)
・オートマ君の基本操作
・各ポートの制御とオートマ君の基本的な命令・動きの確認
[1]オートマ君の機能と,その操作方法を確認する。
[2]出力1(右タイヤ前)のプログラムを教師の指示で入力し,動作を確認する。
[3]出力2〜8を入力し,確認する。

【知識・理解】
 オートマ君の機能(タイヤの動き,ブザ,ライト等)がプログラミングの動きとともに理解できているか。
【技能】
 オートマ君の基本的な操作が自在にできているか。
【関心・意欲・態度】
 オートマ君を自在に動かすために,さまざまな命令を入力する作業に取り組もうとしているか。
プログラム
の基礎
(3H)
・前進・後退・右左折など基本となるプログラムの作成

・繰り返し(飛べ)やカウンタ等を使ったメインのプログラムの作成・マイ命令を使ったプログラムの作成

[1]前進・後退・右左折など,基本となるプログラムを作成し,実行して,デモカーの動きを確認しながら,プログラムに修正を加え,プログラムを完成する。
[2]動作が確実になったプログラムをマイ命令として後で使えるように,保存する。

[1]課題に従って,繰り返しやカウンタを取り入れたメインのプログラムを作成する。
[2]ウィンカやブザの制御等も,プログラムに取り入れる。
[3]基本となるプログラム(マイ命令)を組み合わせて複雑な動きをするプログラムを作成する

【知識・理解】
 どのような動きが基本となるプログラムであるか理解できているか。
【技能】
 必要なプログラムをFDに保存できているか。
【知識・理解】
 マイ命令の使い方が理解できているか。
【技能】
 FDに記録されたマイ命令を利用して,プログラムが作成できるか。
【工夫・創造】
 いろいろな機能を使って,目的に応じたプログラムが作成できているか。
【関心・意欲・態度】
 実行したプログラムについて,その内容をきちんとプリントに記入しようとしているか。
応用
(6H)
・用意された6つのコース走破へのチャレンジ
・完走できるプログラムが完成後,教師が確認
[1]複数のマイ命令を使い,コースNo.1〜No.6(簡単なコースから難しいコース)へとプログラムを作成する。
[2]それぞれのコースで,課題をクリアし,完走できるプログラムができたら,動作を確認し,プログラム等をプリントに記入する。
[3]プリント記入が終わったら,次のコースをチャレンジする。
【工夫・創造】
 それぞれのコースに応じたプログラムが作成できているか。
【関心・意欲・態度】
 模型の動作を教師が確認した後,完走できたプログラムの内容等をきちんとプリントに記入しようとしているか。
【関心・意欲・態度】
 すべてのコースを走破し,プログラムが完成した生徒に「運転免許証」を与える。

 

発展
(2H)
・空き缶を使ったロボットコンテストの実施(2人一組でチームを作り,空き缶を移動させて,ポイントを競う競技) [1]ペアを作り,ナビゲータ役と入力役の分担を決める。
[2]最初の缶の位置データを与え,プログラムを完成し,プログラム実行する。
[3]競技途中は,その場でナビゲータ役の指示により,できだけ多くのポイントを取れるよう入力役がプログラムを修正し,再度プログラムを実行する。
【工夫・創造】【知識・理解】
 与えられたデータをもとに,目的にあったプログラムが作成できているか。
【工夫・創造】【関心・意欲・態度】
 それぞれが,自分の分担の仕事をきちんとできているか。また,お互いに協力して,競技に取り組めているか。

 

4.おわりに
 生徒は,はじめて作った自分のプログラムによって模型が動いたとき,驚き,強く興味・関心を示す。これが動機付けとなり,積極的に次々に課題に取り組んでいく。徐々に複雑な課題にチャレンジする過程では,予想した通りに模型が動かず,「どうして?」と考えこんだり,少しイライラしたり,すぐに教師に支援を求めたりすることもあった。しかし,プログラムを変更する度にその結果が自分で確認でき,変更箇所とそれ以前の動きを比較することによって,生徒は自らの課題を見つけ,プログラムに修正を加えたり,教師の助言や生徒間の情報交換に素直に対応するようになり,次第にじっくり考え,ねばり強く取り組むようになった。

 一方では,生徒が一生懸命考えても,電池の消耗で同じプログラムを実行しても常に同じ動きにならないことがあったり,40台の模型の動きを一人の教師で確認するため,待ち時間が発生したりすることもあった。このような点をどのように克服するかについても,考えなければならない。
今後もコンピュータは,我々の生活により密接な関係をもってくるであろうと予想される。しかし,忘れてならないのは,常に,コンピュータの先には,人間の存在があり,コンピュータは,人間があらかじめ用意した手順に従って処理をしているにすぎないということである。その点でも,今回の教材は,オートマ君に対して,命令を与えることによって,模型を思い通りに制御することで,プログラムの果たす役割やコンピュータそのものへの理解を深めることができた。また,生徒自身が模型の動きを予想して作ったプログラムと,そのプログラムが実行された結果との違いを発見し,修正を加えていく過程では,自ら学ぶことが可能な教材でもある。

 そのうえプログラムの作成,実行,修正が模型の動きとともに確認できるという本題材では,評価活動の点からも有効であった。生徒は毎時間「工夫・創造」の観点から,自身のプログラム活動の自己評価を行った。プログラムの修正そのものが「工夫・創造」であり,生徒が評価の観点を理解し,意識した上で,評価活動に取り組むことができた。

 指導と評価の一体化をめざし,毎時間提出する「工夫・創造」に焦点をあてた生徒の自己評価表を点検した。自己評価表に記載されているプログラムの修正を適切に指示することができたので,最終的には全員が8方向の動きを習得することができた。生徒とともに取り組み評価活動の重要性を実感した。

 今回取り上げた「B情報とコンピュータ」の(6)「プログラムと計測・制御」は,それぞれの学校で選択される部分ではあるが,できるだけ多くの学校で履修されることを期待するとともに,研究で使用した「オートマ君」(http://www.gijyutu.com/g-soft/)を開発し,フリーウェアとして公開された先生方に対して,改めて敬意と謝意を表したい。

 
前へ   次へ
目次に戻る
上に戻る