ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.19 > p6〜p9

教育実践例
画像合成教材“バーチャル世界旅行”
−情報教材共同研究について−
静岡県立御殿場高等学校 渡森 和彦
k_watamori@ybb.ne.jp
1.はじめに

(1)マルチ情報教材の開発

 現在の中学校における情報教育では,学校ごとに指導内容・指導時間に差が生じている。これは,家庭等でパソコンに触れる機会の有無によっても拡大し,高校へ入学してくる生徒の情報スキルに大きな格差となって表れている。

 このため高校の情報系科目では,パソコン室での実習において,スキルの低い生徒の基礎的な個別質問に教員が対応している間,他の生徒の学習が止まってしまう問題が発生している。また,頻繁に発生する生徒マシンのトラブルに対応する時間も授業進度の妨げになっている。

 そこで,この問題に対応し,さらにスキルの高い生徒に対しては,より高度な学習内容の提供を目標にした教材開発を,昨年度から教員の共同研究として行っている。

 具体的な開発教材イメージとしては,授業者がパソコン室での実習において,生徒の個人差に個別対応する部分を減らすため,生徒自身がそれぞれのペースで個々に学習を進められるような『マルチ情報教材』(Web形式)の制作があげられる。生徒はこれをブラウザで閲覧しながら,基礎から発展学習までの柔軟性ある学習課題に取り組むことにより,教材側でのスキル格差吸収をねらう。

情報共同研究メンバー
・静岡県立御殿場高等学校 渡森 和彦
・静岡県立御殿場高等学校 山本かほり
・静岡県立沼津工業高等学校 萬崎 清次
・静岡県立静岡工業高等学校 貝瀬 佳章
・静岡県立沼津城北高等学校 芹沢 利弘
・静岡県立伊東商業高等学校 田中 英史
・静岡県立清水工業高等学校 岩崎 蕗子
・静岡県立三島北高等学校 前田 宏美
・静岡暁秀高等学校 佐藤 英也
・神奈川県立川崎高等学校 五十嵐 誠
・大同工業大学大同高等学校 大森 俊治
・兵庫県立相生産業高等学校 渡部 新
・京都光華高等学校 中井 治彦


(2)フリーソフトの利用

 情報教育では「情報手段全般に渡る教育」が必要であるが,画像(特に3DCG)・音声等は,生徒の興味関心が高い分野であるにもかかわらず,高校教育への導入が進んでいない。この原因として,『ソフトウェア導入コストが高い』『生徒に教えるには難しすぎる』『作品制作に時間がかかり,限られた授業時数の中に入らない』といったところがあげられる。しかし,近年の「ソフトウェア開発者の急増」により,企業ベースではなく個人ベースでソフトウェアが開発され,しかもフリーソフトとして公開されているものが数多くあり,これらの中には高度な機能でありながら操作性に優れ,短時間で一定レベルの作品を制作できるものも含まれている。

 そこで,“幅広い情報教育”を低コストで実現するための『フリーソフトの導入研究』も,共同研究のテーマにしている。
2.教材の共同研究
(1)研究グループの構成

 通常の研究会は教育委員会や出版社・各種法人が中心となって発足する場合が多い中,今回の教材研究グループは,現場教員の自主的な発想から生まれていながら,学校や県の枠を越えたグループ編成(研究者 1府4県13名,指導助言者 大学・企業より6名)になっている。

 このことは,研究グループとして様々な制約にとらわれない自由な発想や,アクティブな活動ができることが利点であるが,研究資金面での問題があることから,『財団法人 上月情報教育財団』より助成金を受けている。

(2)開発教材のポイント

1) チュートリアル形式での解説
 ・生徒が対象ソフトを実行しながら,必要に応じてこの教材をブラウザで見て操作方法を理解し,自分自身で制作を進めることが可能となっている。

2) フレームによる操作性向上
 ・段階をおって学習できるよう,内容ごとにページを分け,フレームから1クリックでアクセスできる。

3) 学習の発展性
 ・基本からの解説で解りやすくする。
 ・幅広い学習へ向けて周辺知識が盛り込まれている。
 ・進度が速い生徒が深い内容まで学べるように,応用技術学習を付加している。

4) 著作権についての十分な配慮
 ・使用許諾請求の流れから著作権学習を行う。

(3)学校間コラボレーション

 複数校による共同研究の利点として,学校間コラボレーションがあげられる。教育界におけるコラボレーションは,近年のブロードバンドによる通信速度の高速化により,高等学校レベルでも実現が可能となっているが,その方法は広く認知されているとはいえない。今回の共同研究では,生徒作品の学校間における相互評価(相互発表)を導入することで,生徒の学習意欲の向上を狙うと同時に,ネットワークを利用した新しい情報教育の展開を研究する。
3.画像合成教材(モデル教材)
 産業社会全体に渡る情報化の進展により,図形や画像をメディアとする情報が有効に活用されるようになっており,生徒が画像処理技術により造られた映像情報に接する機会も増えている。

 そこで紹介する教材では,クロマキー合成を通して,画像情報の加工や創造にかかわる知識と技術を習得させるとともに,図形や画像の処理を行うアプリケーションソフトウェアを効果的に利用する能力や態度を育てることを主な目標においている。

 また,前出の『マルチ情報教材』のモデル教材ともなっており,画像合成の基礎知識から周辺知識・応用技術まで幅広く学習することができ,さらにネットワーク上のデータを使用する場合の著作権問題や,他人の写真を撮影した場合の肖像権への配慮といった情報モラル学習もカバーしている。

 この教材導入の難易度であるが,基本使用ソフトは,フリーソフトでありながら様々な機能を持った『Pixia』を使用しており,撮影用スクリーンも,どこの学校にもある“防水シート”を利用しているため,各校で手軽に導入することが可能と思われる。

“バーチャル世界旅行”トップページ
▲“バーチャル世界旅行”トップページ

(1)教材目標

1.クロマキー合成の理論とその手法について理解させ,実際に画像合成を行うことで画像処理技術を習得させる。
2.デジタルカメラによる撮影での,ライティングと解像度の設定について理解させる。
3.インターネット上の画像の著作権と,その画像を合法的に使用するための手続きについて理解させる。
4.画像合成を行うことについてのモラルを理解させる。
5.画像合成の応用について学習することで知識を深める。

(2)学習指導計画

1.2次元画像処理技術の基礎『Pixia』の基本的な使用方法とフィルタ処理(1時間)
2.2次元画像処理技術の応用『Pixia』によるクロマキー合成 (2時間)

(3)学習内容

1.クロマキー合成とは
 1) ブルーバックによる抽出
 2) なぜスクリーンは“ブルー”なのか
 3) ハリウッドでは“グリーンバック”…なぜ?

2.ブルーバックでの撮影
 1) 服装のブルーに注意
 2) 背景画像と人物画像のライティングの関係
 3) デジタルカメラの解像度について
 4) 肖像権・マナーについて

3.『Pixia』による画像合成
 1) ブルーバックで撮影した画像ファイルの読み込み
 ブルーバックで撮影した画像ファイルの読み込み


 2) 画像から人物+ブルー背景部分を抜き出す。
 画像から人物+ブルー背景部分を抜き出す。

 3) 画像内のブルー部分のみを選択削除することで,違和感の無い人物部分を抜き出す。
 画像内のブルー部分のみを選択削除することで,違和感の無い人物部分を抜き出す。

 4) “世界の観光地”の中から背景画像を選択する。
 “世界の観光地”の中から背景画像を選択する。
 ▲画像提供:越智一夫氏 http://www.ne.jp/asahi/yume/dreams/

 5) 背景に人物画像をのせる。
 背景に人物画像をのせる。

 6) 画像の位置・サイズ調整
 画像の位置・サイズ調整

 7) 最後に画素単位で修正して完成
 最後に画素単位で修正して完成

4.この教材の著作権について
 1) 著作権とは
 2) 教材で使用した画像の著作者への使用許諾請求と回答
 この教材の著作権について
 ▲画像等提供:越智一夫氏 http://www.ne.jp/asahi/yume/dreams/
  画像提供:Noriko Yamaya 氏 http://www.ne.jp/asahi/hikyo/yamaya/

 3) Webページに写真を掲載する場合の注意点は
 4) 授業でのWebページ利用について

5.画像合成による問題行為
 1) イラク戦争での画像合成による報道写真問題
  イラク戦争の報道では,画像合成による真実と異なる報道写真が流れ,ジャーナリストのモラルが問われた。
 2) オンライン翻訳の利用
  周辺知識として,海外のWebページのオンライン翻訳を行う。 
 3) 同一性保持権

6.画像合成の発展
 1) 動画を利用した画像合成
 2) 景観シミュレーション
 (▲出展:平成15年5月27日付 朝日新聞)
4.問題点
 この形式の教材が持つ問題点として,Web教材を見れば解決できる質問内容であっても,直接教員に質問する生徒が多いことである。この原因は,

1.生徒がこのようなタイプの教材を使い慣れていない。
2.簡単に疑問を解決するために手近の教員に聞いてしまう。

などが考えられる。しかしこれでは教材本来の狙いが達成されないので,教材を生徒に使用させる前に,使用意義と使用方法をしっかりと理解させる必要がある。
5.おわりに

 複数校で同一教材を使用することのメリットとして,教材の改善へ向けて多角的な意見を得られるという点がある。よって今後はこの点を活かし,利用者による教材のバージョンアップの体系整備を積極的に進めて行きたい。

 また,この教材はLAN内での使用となっているが,Web形式であることから,インターネット上に公開することも可能である。よって,生徒が自宅にあるパソコンに『Pixia』を入れ,ネット上からこの教材を開くことで,家庭での学習も可能になる。この学習形態は,「e-Learning」と呼ばれ,時間と場所を問わない学習方法として企業や大学で実際に行われているが,今後はこの新しい学習形態の,導入も検討していきたい。

御殿場高校生徒作品1 イタリア(シチリア島エリチェ)
▲御殿場高校生徒作品1 イタリア(シチリア島エリチェ)

御殿場高校生徒作品2 タイ(エメラルド寺院)
▲御殿場高校生徒作品2 タイ(エメラルド寺院)

前へ   次へ
目次に戻る
上に戻る