ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.20 > p6〜p9

教育実践例
インタラクティブな授業を目指して
−イントラネットを用いたWeb教材−
北海道札幌稲北高等学校 加藤 誠
1.はじめに

 Webを作成し,授業に利用している実践例は,本誌やNichibun.netにおいて数多く報告されている。

 以前,PowerPointによるプレゼンテーションを用いた授業を行った経験がある。多くの情報量を短時間に伝える手法としては成果があったが,教師側の一方的な知識の詰め込みで生徒の自主的な授業参加がなかった。

 Webを使った場合,生徒と教師間,生徒間で双方向性をもった授業が可能となり,知識伝達型から知識共有型へと授業が改善された。

 本校が実施している「情報C」は,情報社会に参画する態度の育成に重点が置かれている。情報社会の実態は,インターネットにおける情報のやり取りであり,その媒体はWebページである。その意味でイントラネットでのWeb教材を使った授業は,情報社会に参画するためのロールプレー的な意味合いも含んでいる

 今回は,実際に行った授業の中で生徒から評判がよかった画像編集と,フォームを使った住所録データベース作成の実習を報告する。

2.実習室および指導体制
(1)情報機器とイントラネット

 実習室には情報機器として,OAボード,プロジェクターおよび教育支援ソフト(PC SEMI NS)がある。プロジェクターと分配機を結線し,スクリーンにはOAボードおよびPC SEMI NSの親機からの画面が投影できるようになっている。

OAボード
▲OAボード

 イントラネット用のWebサーバはノートPCにWindows版のApacheをインストールし,スクリプトは主にPHPを利用している。

 また,メールサーバーはEMWACが提供しているIMSを,生徒用のメーラは,Perlで動作するウェブメーラというフリーソフトを利用している。

(2)指導体制

 授業はTTの2名体制で行っている。また,情報教育アドバイザーも週3回常駐しており,ネットワーク・PCのメンテナンス等の裏方として授業を支えてもらっている。
3.実践例
(1)静止画の編集(2時間)

1) 本時の学習目標
 ●情報のディジタル化の実習で画像編集を行い,画像編集のスキルアップを図るとともに,他の生徒の作品を鑑賞し,ディジタル化のおもしろさを体験させる。
 ●掲示板で画像データと文字データを組み合わせ,情報がどのように伝わったかを分析させる。

2) 情報教育としての目標
 ●相手に伝えるために,メディアを使って効果的に資料を作成する(画像編集)。
 ●電子掲示板等を利用して交流する(掲示板による作品の発表)。
 ●自分の意見の独創性(オリジナリティ)を意識する(作品のタイトルとコメント)。
 ●他者が発信した意見や自己の意見を客観的に評価する(レポートの作成)。

3) 指導案
学習活動・内容 教材教具・機器 教師の指導・支援 留意点
【1】

画像編集の説明
 (10分)
OAボード
ブラウザ
教材Webで,ペイントショップの操作方法を説明する。 クラスフォルダは共有フォルダで,個人写真は個人のアクセス権をかけていない。肖像権の話と絡めながら,他人の写真をコピーしないように指示する。
【2】

a.画像の編集
 (40分)
ペイントショップ
PC SMEI NS
机間巡視しながら,操作の援助。
作品は,おもしろいもの,美しいもの最低2作品作るように指示する。
進行状況を合わせる。
b.教材Webに用意された画像掲示板への作品のアップ
・作品のアップの説明とアップロード
 (15分)
ブラウザ 画像付き掲示板には,画像作品のタイトル名とコメントもアップさせる。 作った作品のどれをあげるか,自分自身で考えさせる。また,文字データと画像データの調和を考え,掲示板にあげるように指示する。
c.作品の編集・レポート作成
 (30分)
ブラウザ
Word
教材Webにリンクされている,レポートを個人フォルダにダウンロードし,作品を閲覧させ,レポートを作成させる。 レポートは,ただ,おもしろいとか,綺麗とかいうのだけでなく,その作品を観点に従って評価するように指示する。
【3】


まとめ
 (5分)
  レポートで人気のある作品については,学校のWebページに掲載する。その際,著作権は生徒にあるので,載せて良いかを確認する。 個人が作った作品には著作権があることを話す。ディジタル素材を使う場合,著作権に注意するように説明する。

4) 生徒の作品
 本校のWebページに掲載している作品を紹介する。これらの作品は,ディジタルカメラで撮影した生徒個人の画像データを元にペイントショップで編集したものである。これらの画像を作品名・解説とともに,画像付き掲示板にアップさせる。生徒は掲示板で作品を鑑賞し,レポートをまとめる。

生徒の作品
▲生徒の作品

画像付き掲示板
▲画像付き掲示板

作品の画像を貼り付け,その感想を記入しておこう。

画 像 感 想
私はこれを見て,万華鏡っぽく,見えるのと,お花みたいにも見えて,とても綺麗だな〜と思って,一目見た時に,ビビっっと来ました!!!!!見かたを変えたら色々楽しめるので良いと思いました。
あ…あれ??と思った。なんか誰だかわかるようなわからないような…そんなところも面白いと思った。鼻がでかくなってるところと,なんか,凸凹になってるとこが,ポイントかもしれない…。
▲生徒のレポート例

5) 留意点
 授業においてイントラネットを利用する利点の一つとして,授業の効率化が挙げられる。

 編集画像を印刷物としてではなく,掲示板に公開することで,生徒はすぐにレポート作成にとりかかることができる。ただし,教師側はそのためのイントラネットを構築しておく必要がある。

 画像編集は,マルチメディア的素養,むしろ,情報Aに寄った内容である。実習の中で「肖像権」・「著作権」の話を盛り込むことで,情報Cとの関連性をもたせるように配慮する。

6) コンテンツの再構築
 生徒が掲示板にアップする作品は1作品であるが,生徒自身は複数の作品を作成し,イントラネットの個人フォルダに保存している。

 これらの作品は,個人Webを作成する際,アートギャラリーのページに利用される。

7) 生徒の感想
 自分は小学校のときからパソコンをいじくっていて,この『情報』という教科にとても興味がありました。しかし,長年パソコンを使っていたつもりでしたが,ネットワークについてなど全然知りませんでした。わかりやすい指導とホームページを使った授業,しかも実習が多くとても楽しかったです。(男子)

 インターネットを使ってページを開きながら進んでいく作業は,他の授業よりもたくさん自分が参加できる場所があって楽しいです。画像編集などは,いろいろな機能を使って画像加工をして楽しかったです。きっとみんなも楽しかったと思います。もっともっと自分たちが参加していける作業がたくさんあると楽しくなると思います。(女子)

(2)住所録を作ろう(1時間)

1) 本時の学習目標
 ●データベースのしくみと利点を理解するとともに,個人情報の保護について考える。

2) 情報教育としての目標
 ●コンピュータやメディアを利用して情報を整理する(データベースの利用)。
 ●コンピュータにデータを入力して分析する(入力フォーム)。
 ●個人情報の保護に配慮して情報発信することができる(レポートフォーム)。

3) 授業の流れ
 多くの学校でこのテーマについての実習をおこなう場合,データベースや表計算ソフトを用いる場合が多いであろう。授業の効率化を図るため,次のような工夫をした。

 個人データ入力フォームを用意しておき,生徒はWeb上からデータを入力する。携帯番号およびメールアドレス以外は,すでに学校に公開している個人情報なので,入力を必須事項としている。一覧表および検索ページには教師の個人認証をかけ,生徒は開けないようにしてある。

入力フォーム
▲入力フォーム

 認証をかけているページは,教師のみが開き,プロジェクター投影する。住所や電話番号など個人が共通してもっている定型的なデータを集約し,クラスの住所録として発信する場合や,趣味の一覧から同じ趣味をもったクラスメートを検索したい時など,データベースを構築しておくと有益な情報活用ができることを示す。

認証フォーム
▲認証フォーム

 次の観点でレポートフォームに入力するように指示する。

●データベースの利点は何か。
●携帯番号など学校に非公開としている個人情報の扱いをどのようにするか。
●一覧のページに認証をかけているのはなぜか。

レポートフォーム
▲レポートフォーム

4) まとめ

 今回はイントラネットなので個人情報を保護することができたが,実際の情報社会では,個人情報の公開は個人が意思決定を行い,その際,結果責任を負わされることを認識させる。

 また,データベースを構築すると有益な情報として活用することができるが,この技術を悪用している例もあり,情報化には二律背反の側面があることを説明する。
4.おわりに
 北海道の公立高校は,光ファイバーで結ばれ,情報処理教育センターを中心に巨大なイントラネット環境で情報教育が進められている。ポータルサイトも充実しており,掲示板・チャット・ビデオチャットなどインタラクティブな授業を行うためのツールも用意され,生徒一人一人にメールアカウントを与えることもできる。

 学校教育が各発育段階に合わせて教材を高度化していくと同様に,情報社会へ参画するための準備も段階的に進めていく必要がある。

 各学校ではネットワーク環境も含めた情報機器のハード面は,充実しつつあると思われるが,その環境をいかに使うかは,教師側の工夫と情報教育に対する思いによるところであろう。

 校内イントラネットで情報社会へ参画するための疑似体験を積み,他校生徒との交流を深め,最終的に情報社会へ巣立たせることが,情報社会へ参画するための準備となるのではないだろうか。これが筆者の情報教育に対する考え方であり,イントラネットを用いたWeb教材にこだわる理由でもある。
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