ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.20 > p18〜p21

教科「情報」テキスト活用事例
?な表現を探そう!
─プレゼンテーションについての授業実践─
茨城県立鉾田第一高等学校 津賀 宗充
tsuga@hokota1-h.ed.jp
1.はじめに

 私は平成12年度現職教員等免許取得講習会で情報科教員免許を取得しましたが,コミュニケーションスキルなどを含めた情報教育を担当した経験はほとんどありませんし,大学等で情報教育を体系的に学んだこともありません。今でも毎日が試行錯誤の連続ですが,本校で夏休み明けから取り組んでいる実習を紹介します。

2.情報機器の整備状況
 本校の情報機器はここ数年で急激に整備されました。文部科学省による校内ネットワーク構築や教室用パソコンの整備などにより,現在は校内で約160台のパソコンが稼動しています。普通教室や特別教室はもちろんのこと,図書室やセミナーハウスなどからも,生徒たちは自由にネットワークに触れることができます。

 また,生徒全員がメールアドレスを持っており,一部の授業では課題の提出などに利用しています。Webメールシステムですので,インターネットに接続されている情報機器があれば,どこからでも利用できる点が利点です。
3.パソコン教室の学習環境
 本校のパソコン教室は平成11年度に整備されたもの(Windows98)であり,来年度に機器更新を予定しています。現在の機器を整備した当時は,これほどのネットワーク環境が整うとは考えられず,情報処理演習に利用できる程度のものでした。

 今年度からの情報科開講を控え,ネットワーク接続工事やウイルス対策を施し,同時に生徒用グループウェア「CoAT」も導入しました。CoATは石出先生(台東区立桜橋中学校教諭)が公開されているフリーのグループウェアであり,アンケートや掲示板,ファイル共有など数多くの機能を持っています。私は校内メール機能(テキストメールのみ)やMy Page機能(ファイルの保存・公開)などを主に活用しています。
4.年間計画
 情報科は,担当教諭2人(2人とも情報科免許取得者,数学科と併任)と実習助手1人で担当しています。講義が中心の場合は教諭1人で担当しますが,実習が中心の場合は複数で担当できるように配慮しています。年間計画に関しても,開講初年度ということもあり,あまり無理のないカリキュラムを組みました。また,各単元の導入には必ず実習的な内容を盛り込み,実体験の中から様様な内容を理解できるように配慮しています。

 ここでは,現在取り組んでいる「?な表現を探そう!」を紹介します。これは,今年夏のILA e-Teacher養成講座でも紹介しましたが,藤原晃治さんが書かれた『「分かりやすい表現」の技術』をもとに考えたものです。同講座では,具体的な実習が始まる前の段階で紹介し,参加された皆さんにはご迷惑をおかけしましたが,ここではその後の経過を報告します。

(1)目標

 この実習は,単なるスキル演習ではなく,ミニ総合実習ともいえる内容です。ここでは次の3点を目標として盛り込みました。

 自分たちの身近にある理解しにくい表現を見つけ,その理由及び改善方法などを,正しくかつ分かりやすく相手に伝えるためにどうすればよいか,自分の意見を意図した通りに伝えるにはどうすればよいか考える。

 様々なソフトウェア及びハードウェアに触れ,その特質を理解して,目的に応じて使い分けることができる。情報がディジタル化されることにより,様々な情報を統合的に扱えることを理解する。

 情報モラルは誰もが守るべき常識的なマナーとルールであり,実社会での常識と同等であることを理解する。

(2)使用教材・ソフトウェア・ハードウェア

 ・『情報A』(日本文教出版)
 ・『IT-Digik』(日本文教出版)
 ・『プレゼンテーション支援ツール』(日本文教出版,指導書添付のもの)
 ・『PowerPoint 2000』(マイクロソフト)
 ・『Excel 2000』(マイクロソフト)
 ・『ペイント』(マイクロソフト)
 ・『PaintShopPro7J』(Jasc Software)
 ・メール(Webメール)
 ・デジタルカメラ,スキャナ
 ・カメラ付携帯電話(生徒の私物)

(3)学習内容

1) 導入(夏休みの宿題)
 夏休み前最後の授業で,課題指示書を配布し,次の2点を確認しました。

・日常生活の中で「どうしてかな?」と思う表現を探し,報告書にまとめて提出する。
・報告する際には証拠となるものが大切であり,写真などが手ごろであるが,著作権などの個人情報に関する問題には十分に配慮する。

 この段階では情報モラルに関する詳細な説明は控えました。さらに,最近のカメラ付携帯電話の普及を考え,カメラ付携帯電話で撮影した写真も利用できることを伝えました。

2) 報告書提出
 夏休み明けに報告書を提出させ,見つけたもの,見つけた場所,疑問に思った点,どう改善すれば分かりやすくなるかなどについて,簡単にまとめさせました。証拠となるもの(新聞・雑誌の切り抜き,ゴミ袋,市役所の申請書類,写真など)も一緒に提出させました。中には証拠として利用するには著作者の許諾が必要なものもあり,許諾の取り方なども具体的に説明しました。

3) プレゼンテーションプラン作成
 提出した報告書をもとに,プレゼンテーションの流れをサムネイルにまとめさせ,1スライドずつの,より詳細な設計図(ラフスケッチと呼んでいます)も考えさせました。

 途中で,教科書及びプレゼンテーション支援ツールを利用して,「プレゼンテーションとは何か」について説明しました。中学時代にPowerPointに触れてきた生徒はいましたが,スライドを作成する上でのテクニックだけではなく,効果的な情報伝達をするにはどうすればよいかを具体的に説明しました。

 プラン作成と平行し,情報のディジタル化も進めました。クラスの中で最初にその機器やソフトウェアを利用する者には操作方法を教えますが,それ以降は,最初に教わった者を中心として,生徒たちだけで進めていきます。特に携帯電話からの写真の取り込みには興味を持ったらしく,何度も撮り直しては取り込んでいる生徒もいました。でも,データ転送時のパケット代についての注意は必要です。

4) 中間発表(グループ内の相互評価・自己評価)
 作成したプランをもとに,4人程度のグループで中間発表をしました。狙いは,自分の伝えようとしていることが,きちんと相手に理解されるかどうかを確認することです。実際のスライド作成に入る前に確認させたことで,生徒たちは自分の考えているプランの不備を認識したようです。今回の実習の目的をはっきりさせるためにも必要であったと思います。

5) スライド作成
 PowerPointの操作方法について簡単な説明をした後に,スライドの作成に入りました。既にプランはできていますのでスライドの制作はどんどん進みますが,PowerPointの機能の多さを初めて知り,内容を変更する者が続出し,スライド作成に予定していた時間をオーバーしてしまいました。私は自宅での作業は認めておりませんので,時間内に終了できなかった生徒は,昼休みや放課後などに残って作業をしていました。

6) 最終発表(クラス内の相互評価・自己評価)
 クラス毎に1時間当たり10人程度ずつ発表をしていきます。聞く方の態度も重要であることを伝え,評価シートへ発表者の評価を記入させました。今まで他人の評価をした経験はないらしく,最初は戸惑っていた生徒たちですが,中間発表,最終発表と経験を積むにつれて,点数評価だけでなく,コメントも真剣に考えるようになりました。

 原稿執筆時点(10月末)では,最終発表の途中です。評価シートは1人の発表について39枚集まり,クラス全体では39×40=1560枚になりますので,CoATの持つアンケート機能や,表計算ソフトを利用して集計する予定です。

(4)感想・反省

 今年度は教材を予算化するのが遅れ,報告書や評価シート,写真などを保存するために大き目の封筒で代用しましたが,来年度は透明なポケットファイルを用意する予定です。グループウェアに保存されているデジタルデータは,プロジェクト終了後に各自のCD-Rに記録して配りますので,これらを合わせてディジタルポートフォリオに仕立てる予定です。

 プレゼンテーションの内容について,最初のうちは,生徒たちから「先生,これでいいの?」という声が多かったですが,その良し悪しについては一切言及しませんでした。それらの質問には「君の伝えたいことが本当に伝わるかどうか,自分で考えなさい」とだけ話し,アプリケーションの操作方法に戸惑っている生徒にだけ具体的な操作方法をアドバイスしました。結果的に,生徒たちがお互いの制作物を評価しながら制作が進みました。今回は個人作業が中心となるテーマでしたが,適当な題目を選ぶことによりグループでの協働プロジェクトへの発展も考えられます。

 プラン作成では,企画する立場と制作する立場を経験してもらうために,サムネイルとラフスケッチを使い分けましたが,生徒がその違いに戸惑っていること,プロジェクト全体の学習時間がかかり過ぎていることを考慮し,来年は一本化する予定です。

 ハードウェアやソフトウェアの利用については,実習時間が少ないこともあり,生徒の自主的な活動に任せましたが,全員が一度は触れることができるような何らかの試みが必要であったかと反省しています。しかし,単なるスキル演習にはしたくありませんので,兼ね合いが難しいところです。

 発表の際には,相互評価するための評価基準を示しましたが,クラス・グループにより評価の質が異なり,指導者側の対応が必要であったと反省しています。最終評価の評価シートについては,中間発表の反省をもとに何度か作り直しました。曖昧さが残らないように,点数評価を5段階から4段階にしたり,評価項目も厳選し,理解しやすい表現に変更したりしました。

 一部の生徒はインターネット上の写真や画像などを利用していましたので,著作者にメールなどで連絡させ,制作物への使用許諾を取らせました。事前に許諾の取り方を説明してありますが,中には失礼な内容のメールで相手の方に迷惑をかけてしまった場合もあったかと思います。しかし,著作権等の問題を考えた場合には必要な措置であったと考えています。
5.教材を利用した感想
(1)教科書について

 「許諾の勧め」(57ページ)は,「許諾をとることにより,他人の創作物に敬意を払いながら利用しよう」という趣旨で書かれており,生徒に許諾を取らせる際にも参考になりました。

 「色彩から伝わる情報」(141,142ページ)は,Webページ作成を目的に書かれていますが,スライド作成の場合にも利用できます。色の効果的な使い方が簡潔にまとめられており,生徒も参考にしながら色の組み合わせを考えていました。

(2)ディジタル教材について

 本校では生徒の自習用及び各種素材のデータ集として,情報科を受講している1年生全員が『IT-Digik』を購入しています。また,日本文教出版の配慮によりパソコン室のサーバにも同じデータを保存し,パソコン教室内のパソコンからはブラウザで閲覧できるようになっています。各アプリケーションの操作方法などを解説している時間が少ないこともあり,生徒が自分で操作方法を確認することができますので,大変重宝しています。

(3)指導書添付の教材について

 『プレゼンテーション支援ツール』は,ポイントが良くまとめられており使いやすい教材でした。教科書の内容と連動しており,指導内容を統一することができて指導しやすかったです。特に,スライドのレイアウトや色使いについてはアニメーションでの説明とはいえ理解しやすいイラストが多用されており,生徒だけでなく私にも参考になりました。
6.メールの利用について
 本校ではパソコン教室内限定で,情報科の実習用にCoATを利用しています。その時間の指示や今後の予定などを校内メールで送信したり,生徒が制作した物を一時保存するフォルダとしても利用したりしています。また,インターネット上の写真などを利用したい場合には,必ず著作者に許諾を取るように指導していますが,その際は生徒個人のWebメールを利用させました。

 校内メールは,発信した情報に関わる権利や倫理についての心配が少なくなりますが,外部への情報発信は必要なものですし,来年以降も校内メールとWebメールを併用していく予定です。
7.最後に
 本授業を立案・実施するにあたり,大貫和則先生(私立茗渓学園中学高校教諭)をはじめとする情報コミュニケーション教育研究会(ICTE)茨城支部(http://icte-ibaraki.dyndns.info/)のメンバーのご助言・ご協力を頂きました。ICTE茨城支部は,ICTE会長の水越敏行先生(大阪大学名誉教授)や事務局長の田邊則彦先生(慶應義塾湘南藤沢中・高等部教諭)などのご理解・ご協力のもと,平成14年度より活動を開始しています。約40名のメンバーと定期的な研修会やメーリングリストによる情報交換を行っています。茨城県つくば市を中心として活動していますので,ご興味がある方は,一度上記Webをご覧ください。
前へ   次へ
目次に戻る
上に戻る