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ICT・EducationNo.21 > p6〜p9

教育実践例
普通科における情報教育への新たな挑戦
−「実践的情報活用能力の育成」をめざし「やる気を引き出すネタ」を探して−
京都府立綾部高等学校 大西 勝己・田中 文浩
1.はじめに

 綾部高等学校のある綾部市は京都府の北部に位置し,人口約3万8千人の自然環境に恵まれた静かな田園都市である。綾部高校には,本校と分校があり,本校には全日制普通科7クラス−Ⅰ類4クラス,Ⅱ類(進学コース)2クラス,Ⅲ類(体育系)1クラス−が設置されている。

 以下は,本校(普通科)における情報教育の実践報告である。

2.情報教育の状況
 昨年まではⅢ類3年にのみ「文書処理」の授業を設置し,主にワードとエクセルの操作練習に取り組んできた。

 平成15年入学生からは,3年次に理系クラスには「情報B」,その他のクラスには「情報C」を2単位で設置しているので,平成17年度より情報授業を一斉に開始することになる。

 3年次に情報の授業を配置した理由は,高校卒業後の進路をしっかり見据える時期であり,情報活用能力の習得に対する動機付けが高まることや,1年次に英語・国語・数学の単位数を確保する必要性などが挙げられる。
3.今年度の授業実践
 今年度から3年Ⅲ類の「文書処理」を学校設定科目「情報基礎」(3単位)に改め,様々な試行を行うことになった。

 学校設定科目であることや,少人数講座編成(20名と19名の2講座編成)であること,3単位での実施であること,さらには毎時間PC教室が使用できること,などの条件により,いろいろな取り組みが経験できた1年となった。

内容 時間
4 PC教室利用上の注意
タイプの練習
4
パソコンの基本操作 3
5 ワード操作の基礎 7
ワード活用実習「ちらし作成」 5
6 パワーポイント操作の基礎 2
「自己アピールプレゼン」 11
7 情報社会の基礎知識 2
9 エクセル操作の基礎 10
インターネットの活用 検索 3
10 Webメールの活用 3
エクセルで統計の基礎 6
11 統計資料の整理総合演習 6
12 「卒業論文」作成 9
1 「卒業論文」発表プレゼン準備 5
年間のまとめ アンケート実施 1
 

総授業時数

77

 本年度の授業計画の重点は,

①生徒の興味関心を引き出せる材料(ネタ)を追求する
②「実践的情報活用能力の育成」を意識した授業展開とする
③体育理論で取り組む卒業論文作成との連携を重視する

の3点であった。

 以下,主な実践事例について報告する。

(1)ワード活用総合実習

 ワードの基本学習に12時間取り組んだ後,総合実習として「所属クラブの部員勧誘」をテーマにした「ちらし作成」に取り組んだ。

 ちらしの作成では,イラストやワードアート,ページ罫線などを用いて,個性的かつ表現力に富んだ文書作成ができ,生徒の関心を高めやすいことや,テーマを「所属クラブの部員勧誘」とすることにより,3年間の思いを込め意欲的に取り組むであろうとの判断による(体育系のクラスであり,全員が3年間運動クラブに所属している。5月は,ちょうど最後の公式戦に向かう時期である)。

 結果的にはこの判断が正しく,生徒たちはたいへん熱心に取り組み,個性的で意欲的な作品が多数でき上がった。

 この取り組みでは,新しい試みとして,授業計画全体を最初に説明し,評価のポイントも示した。作品完成後には,「相互評価シート」を用いて相互評価を行い,自己評価と合わせて一学期中間考査に対応する成績とした。

 作品の出来栄えに喜び,廊下に展示し広く公開することにしたが,その際,作品の公表権,氏名表示権,同一性保持権について説明し,著作者人格権の学習機会とした。

 展示作品には,クラブ顧問の先生をはじめ多くの先生から高い評価が得られ,いろんな場面で話題にされることにより生徒たちの自信につながる取組みとなった。

 この取り組みを通して,「実践的情報活用力の育成」と「やる気を引き出すネタ探し」というキーワードがさらに明確になってきた。

(2)パワーポイントの活用とプレゼンテーション

次の学習テーマは,「プレゼンテーションの実行」とした。1月実施の体育理論・卒業論文発表会のための準備であり,そのことを事前に説明した。

 最初の「パワーポイントの基礎」では,自己紹介スライドを3枚作成させたが,よくできた「ウィザード」とワードの学習経験が役立ち,わずか2時間で終了できた。

 次の「プレゼンテーション総合実習」では,「やる気を引き出すネタ」として「自己アピールプレゼン」を考えた。

 このクラスでは,8月以降,スポーツ推薦入試や就職試験,そして大学・短大などの指定校推薦,公募推薦入試において,多くの生徒たちが面接を経験し,そこで自分をアピールする必要がある。そのために,進路希望実現の上からも「自己アピールプレゼンテーション」の取り組みが説得力をもつことになると判断したのである。

 取り組みの流れとしては,

①資料整理−高校3年間の失敗や成功の記録をまとめる。
②「ストーリーボード」の作成−資料を整理し,今の自分をアピールするためのストーリー展開を考え,6枚のスライドに記入(手書き)する。
③スライド作成−パワーポイントでスライドを作成する。
④プレゼンテーション交流−順番に前に出て,自分のスライドで自己アピールを行う。
⑤プレゼンテーション発表−優秀作品の発表会を開催し,関係教員の批評を受ける。

 ありきたりの自己紹介プレゼンでなく,「進路実現のために自分をアピールする」という位置づけのおかげで生徒たちの力の入れようも違ったものになった。

 3年間部活も勉学もよく努力してきた生徒ほどアピール度の高い作品をつくり,関係教員から高い評価を得ることができた。

 スライドの作成は簡単であるため,事前の「資料整理」と「ストーリーボード」の作成が一番重要な作業であったが,個々の生徒の学校生活の豊かさや基礎学力の充実度が相当反映されることになり,情報活用能力を育成する取り組みが,他の教科や学校生活全般と強く結びついていることを実感する結果となった。

(3)インターネット検索とWebメールの活用

 インターネット検索に3時間,メールの活用に3時間あてた。

 インターネット検索では,卒業論文のための資料収集を想定し,検索エンジンの活用法だけでなく,検索記録と資料整理の方法,活用上のマナーとセキュリティについても指導した。

 メールについては,検討した結果,将来的な活用も考えて無料のWebメールを教材に選んだ。

 生徒たちの多くは,携帯電話メールは活用しているが,パソコンから送受信する電子メールについて未経験であった。そのため,携帯電話メールではデータファイルの受け渡しや長文のメールなどが扱いにくいことを説明し,本格的な電子メール活用の必要性を説明した。

 無料で,全国どこからでもインターネットにつながったパソコンさえあれば利用できるなどの利点と,利用の際の注意事項について詳しく説明した上で,全員にアカウントを取得させた。

 メールアカウントとパスワードの事前準備や,登録画面への一斉入力と各種の設定などにかなり時間がかかったが,インターネット上で各種の登録を行う際に注意すべき点などをここでかなり指導できたと考えている。

 Webメールの取得後は,授業プリントを自宅から送信したり,課題をメールに添付で提出させたりと,授業準備などにたいへん役立てることができた。ちなみに二学期の中間考査対応の課題は,E-mailの活用法をプリントで学習した後,その要点をワードの文書にまとめて,メールに添付して提出するということにした。

 これらの取り組みを通じ,「本格的な電子メール活用」の実際を生徒たちに体験させることができた。

(4)エクセルで統計

 エクセルの基礎を学習した後,「統計資料の整理」に取り組んだ。

 このテーマは,体育理論及び数学の授業との連携を意識しており,新教科「情報」の授業実践を考える上で重要な意味をもっている。

 授業時数は,用語解説や基本操作に6時間,発展演習に6時間,計12時間をあてた。

①統計用語の解説等について
 生のデータを整理しグラフ化することによりその特徴が見えやすくなることや,統計資料の特徴把握や他のデータとの比較のために平均値,最頻値,中央値,標準偏差,相関係数などが考えられていることを指導した。
 その際,標準偏差や相関係数については,細かい計算式にはこだわらず,エクセルの計算結果と実際のグラフの様子を対比させることに重点をおいた。(図2)

図2
▲図2

 また,材料としても,実際の日本の人口の動態表や過去のあるクラスの成績一覧を用いて,分析結果の意味に関心をもちやすいものを選んだ。

②成績一覧表の分析
 各科目間の成績相関について調べさせたところ,相関係数の最大値は保健−家庭の0.73,最小値が国語−数学の0.15であった。平均点との相関では,最大値が社会の0.87,数学の0.67が最低という結果であった。納得半分,疑問半分のような結果であった。

③統計資料の整理総合演習
 ここでは,2つの課題に分けて総合演習に取り組んだ。

 【総合演習1】では,女子学生とその父親,母親の身長のデータを与え,エクセルを用いて散布図の作成,相関係数の計算を行い,その結果について考察することを課題とした。紙面の関係で詳細は省略するが,遺伝を考える上で興味深い結果が得られた。

 【総合演習2】では,プロ野球選手の成績変化に関する分析を行った。
最初に,有名プロ野球選手(打者,投手とも10名ずつ)の過去2年分の成績データを与え,散布図の作成と相関係数の計算をした上で,投手と打者の成績変化の違いについて考察させた。(※ここまでの課題は,東田啓(横浜国立大学教授)著『基礎統計学−REAL DATAで学ぶ』から借用した。)

 次に,「阪神優勝の理由を探せ!」と銘打ち,巨人と阪神の打撃成績の比較を課題とした。示した手順は次の通りである。

①プロ野球公式記録のWebサイトから巨人と阪神の選手成績2年分(2002年と2003年)を手に入れ,2年連続で50試合以上出場した打者の成績一覧表を作成する。

②散布図の作成と相関係数の計算を行い,その結果を考察する。

 相関係数の値は,巨人が0.480,阪神が0.245となった。標本数が少ないために相関の強弱を断定しにくいが,数値の差以上に散布図の違いが顕著であり,阪神の選手の「予期せぬ」活躍ぶりが見えてくる結果となっている。

 折からの阪神優勝フィーバーもあり,この総合演習は大いに盛り上がった。

校内の体制
▲校内の体制

(5)卒業論文作成とプレゼンテーション準備

 11月末以降は情報の授業時間をすべて体育理論の卒業論文作成と発表準備の時間にあてた。

 1月実施の校内卒業論文発表会では,多くの発表にパワーポイントによるスライド作成やエクセルによる統計資料の整理の手法が活用されており,「情報」と「体育理論」の連携の成果を示せた。
4.今年度の取り組みから得た教訓
 今年度の取り組みを整理すると,生徒の積極性を引き出す上では,

①「生徒のやる気を引き出すネタ探し」を合言葉に,単元のテーマごとに生徒の実生活に根ざした材料をみつける。
②単元の目標やスケジュールなどの授業計画全体はもちろん評価のポイントなども明示するなど,「説明責任」を果たす。
③相互評価,自己評価など,生徒自信の評価も尊重する。

などが有効であることが分かる。

 また,授業展開については,

①基本操作を習得する単元では,できる限り分かりやすい「マニュアルプリント」を準備するが,単元の終わりには「まとめの演習」時間を設定し,じっくり復習させる。
②活用力をつける単元では,テーマを設定した総合演習を行い,自ら学ぶ姿勢を追求する。

などの重要性が見えてくる。

 体系的な知識の整理のためには座学を重視する必要があるが,それは今後の研究課題として残った。
5.平成17年度に向けて

 本校では,平成17年度から3年全クラス一斉に「情報」の授業を開始することになる。その際,学校5日制の実施により総単位数が大幅に減る中で,あえて必修2単位で実施される意味を正しく受け止めた実践を行う必要がある。

 文部科学省作成の平成13年度新教科「情報」現職教員等講習会テキストの冒頭に,普通教科「情報」の目標は専門教科「情報」の目標とは異なるとして,

 「普通教科『情報』では,生徒が生涯学習を続けるための基礎作りを重視する必要があり,興味・関心を高めること,生涯学習のための自己学習力を育成することが大切である。」

と述べられている。この重要な位置づけがあるからこそ,選択履修ではなく,必修科目として普通科に設置されたのであろう。

 2単位で,しかもクラス単位の授業となるなどの条件面の困難さが目につくが,学習内容の精選(重点テーマの設定)や生徒の自己学習力を重視した指導,さらに他教科との連携推進などについて工夫し,新教科「情報」の目標を実現させるために努力したい。

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