ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.22 > p10〜p13

教育実践例
教科「情報」への取り組み
−進学校の苦悩・教科「情報」導入まで−
埼玉県立川越高等学校 齋藤 実
m.saito@kawagoe-h.spec.ed.jp
1.川越高校ってどんな学校?〜はじめに〜


▲川越高校シンクロナイズドスイミング

 名門の伝統は,僕らが毎日塗り替える。

 写真は今やメディアや映画『ウォーターボーイズ』を通じすっかり有名になった元祖・男子シンクロナイズドスイミングの勇姿ですもとはといえば10年以上前,伝統の学園祭『くすのき祭』に向け,しあわせを分かち合ううまい手がないかと雑談している中から誰かがぼそっと口にした思いつきを,わが校が誇る水泳部員たちが本気で追求してしまった結果生まれました。こんな「冗談からコマ」の活動も,しっかり世間に受け,先輩から後輩へと受け継がれ,そのときどきの精鋭たちがカラダを張って10年やれば,ちょっとした伝統。結果,栄えある男子校の歴史に笑いと涙の1ページを付け加えることとなりました。これは,ほんの一例です。1899(明治32)年の開校以来,川越高校の教育が大事にしてきたのは生徒自身の自主自律。105年間の長きにわたり,伝統校ならではの懐の広く深い全人的指導で,地域に根ざしつつ世界をめざすユニークなリーダーたちを輩出してきました。県下屈指の難関大学への進学実績も,数えきれないほどの運動/文化部活動の栄誉も,すべては本気の遊び心でぐっと集中して物事に取り組む一人ひとりの生徒自身の「伝統を塗り替える」気概のたまものにほかなりません(学校案内パンフレットより)。

 川越城址に創設され,以来男子校として伝統を誇る学校である。正門にそそり立つくすのきの大樹はその伝統と歴史を象徴している築きあげられてきた文武両道・質実剛健・自由自律の校風気風をもとに,多様な分野で生き生きと活動している。

2.3年生で教科「情報」?〜進学校での苦悩〜
 『教科「情報」って何?ワードとエクセル,インターネットでしょ!』ある教員の言葉である。生徒はもちろん保護者や世間一般の言葉でもあったりする。

 「情報」2単位を導入すれば,どこかがで2単位減ることになる。本校では,新教科導入時には既存教科優先という考えがある。さらに自分の教科を中心に考える傾向もある。教員はもとより,「情報」の正しい理解と必要性の認知度が社会的にまだ低い。世の中の流れが速い中,学校は別世界のようであると考えざるを得ない。

 残念ながら,新参者の「情報」には意見が入る余地がなかった。結局,回り回って家庭科が4単位から2単位に減り,平成17年度の「情報」のスタートに伴って1名転勤することになる。再三再四,職員会議で教科「情報」を1年で設定するよう意見を述べ説得にあたり,さらに,土壇場で1・2年生の分割履修でもよいと譲歩したのだったが,採決の結果,3年生での履修となってしまった。(別紙職員会議資料参照)

平成13年10月16日職員会議配布資料

新教科「情報」の教育課程について(提案)

文責 齋藤 実

1.教科の性質から,1学年に2単位を設置

 新学習指導要領の中では,すべての教科でコンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段の活用を積極的に,より一層推進するよう述べられている。また,特に教科「情報」の中では,中学校での学習の程度を踏まえるとともに,情報科での学習が他の各教科・科目等の学習に役立つよう,他の各教科・科目等との連携を図ることとも述べられている。したがって,中学校での学習の継続性や,コンピュータの操作・ソフトウェア・コンピュータ室の利用方法など,学習の重なりがなく効率的に,また円滑に他の教科・科目等での活用が進められるようにすることは,教科「情報」の大きな役目のひとつでもある。

 このように情報教育に力点が置かれている中で,学校はもちろん家庭でのインターネット利用はさらに広がるとみられる。現に,携帯電話でいつでもどこでも簡単に電子メールなど,インターネットを利用することができる。残念ながら危険な情報を簡単に得られるのがインターネットでもある。通信販売による詐欺の被害も後もたたない。『出会い系サイト』も盛んである。また,安易にタレントの写真やイラストを自分のWebページに掲載したり,音楽を不法コピーしたりするなど,社会問題化している。著作権などの法律やモラルなどを,早い時期に,学習させる必要がある。教科「情報」ではインターネットの影の部分の学習や,全体を通して情報モラルの育成を図ることも重要な目的となっている。

 必修の2単位以外に選択科目を2学年または3学年に設置することを考えている。(以下の3を参照)

 以上のことから,教科「情報」を1学年に設置することを要望する。また,実習を重視することから2時間連続の授業が適切であると考える。

 なお,受験に関係がないという理由で3学年に設置するという学校があると聞くが,情報関連学科に進学する生徒が少なからずいることや,センター試験の科目になること(予定)を考えるとその理由は適切でないと思える。(※)

2.科目は「情報B」を設定

 各科目の特徴(別紙資料参照)を検討した結果,本校入学生徒の実態を考えて「情報B」が望ましいと考える。

3.選択科目として,2学年または3学年での設置を考えて欲しい

 必修の2単位だけでは,興味関心を持っている生徒や情報関連学科に進学する生徒には,物足りない内容であると考える。選択科目として,2学年または3学年に設置することを考えて欲しい。

(※その後,センター試験の科目に当分の間は出題の対象としないことになっている。)

3.えっ!いまさらワード?〜生徒の実態〜
 平成16年3月に1年生360名を対象に調査を行った。ご覧の通りである。


 新学習要領移行期のために,中学校でコンピュータの授業を受けていない生徒が数名いた。家庭にコンピュータがある生徒は96%,自分専用のコンピュータを持っている生徒が全体の1/3ほどいた。

 さらに,家庭でインターネットを利用できる生徒は92%,携帯電話を持っている生徒は92%もいる。中にはWebページを自分で管理している生徒やパソコンを組み立てている生徒が十数名いた。

4.苦悩する3年生での「情報」〜情報科シラバス〜
 本校では前述の通り教科「情報」は3年生で履修する。

 すでに理科や家庭科,美術,LHRでコンピュータを利用した授業が始まっている。生徒達は日常的に技能や社会の変化を素早く吸収し自分のものにしてしまうことを考えると,3年生で何を教えたらよいのかますます苦悩する。

 なお,必修以外に選択2単位を用意した。当初,センター試験対策の計画だったが,当分の間は出題の対象としないことになったため,数学の授業でとかく割愛される傾向のある「数学B・C」の計算機部分と,プログラミング等を中心にモデル化とシミュレーションを選択の授業で行う予定である。

情報科シラバス(抜粋)

1.情報科の目標(略)
2.履修の流れ
3.科目の紹介(略)
科目 1年 2年 3年
必修 文系 理系 文系 理系
必修 選択 必修 選択
情報B       2 2 2 2

4.生徒に望むこと
 「情報」の教科目標は,『情報化の進展に主体的に対応できる能力と態度を育てる』ことです。技能の習得それ自体が目標ではありません。情報を活用するためには必要な考え方や方法を習得するが大切です。能力に加えて情報社会についての理解を深め,必要とされるルールやモラルを身に付け,さらに積極的に情報社会に参加しようとする心構えを持つようになることが必要です。能力と態度は車の両輪の関係です。座学だけではありません。実習が1/3以上あります。レポート提出や討議もあります。情報化の進展に主体的に対応できる能力と態度を学習や生活を通して身に付けて下さい。

5.3年必修 情報B
(1)評価の観点(略)
(2)評価の方法
 ペーパーテスト,計画書・企画書,実習の作品,学習活動の観察,学習ノート類(課題の解答・学習計画・調べ学習・まとめ・確認・自己評価・相互評価・自由記述等)
 1学期 (略)
 2学期 (一部)
  学習単元 学習内容・到達目標 備考


【4】問題のモデル化とコンピュータを活用した解決 簡単なアルゴリズムについて,さまざまな実習を通して理解する。体験的な問題を取り上げて,処理手順を工夫しながら実習を行う。
・基本的な情報処理の手順
・情報の表し方と処理手順の工夫
問題をモデル化しシミュレーションを行うことが有効なことを,身の回りの事例から理解する。
コンピュータを用いたシミュレーションの特徴や活用上の留意点を理解する。
コンピュータを用いたシミュレーションをどのように行うか理解する。
表計算ソフトウェア

5.おわりに〜今後の情報教育のために〜
 教科「情報」は複合的である。系統的な指導方法が待たれる。かといって効率的な指導がよいというものではない。「教える」ことより「考えさせる」ことが重要な教科である。孤立する教科ではなく他教科と緊密な連携をしながら共にどうあるべきか考えていくことが「情報教育」の発展に通じるのではないだろうか。
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