ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.23 > p18〜p21

教科「情報」テキスト活用事例
「教科「情報」の授業実践」
−教科書・教材の有効活用を考えて−
加藤学園暁秀中学・高等学校 佐藤英也
hideya@katoh-net.ac.jp
1.はじめに
 教科「情報」を担当されている先生方の中には授業外にコンピュータのメンテナンスをはじめ,ホームページ作成,その他コンピュータが関わる全ての業務に携わっているという方もいらっしゃるのではないでしょうか。私は現在,授業,教務のコンピュータが関わる仕事,ホームページ作成,部活動2つを受け持っています。

 このような多岐にわたる仕事の中で,何とか教材を有効活用できないだろうか,できたら他の仕事もおろそかにせずに授業の内容も充実したものにできないだろうか,と考え,昨年度,1年間授業を行ってきました。実践事例として本校の情報教育を紹介させていただく中で,日本文教出版の教科書や実習ノートなどの教材活用と実習をどう織り交ぜているのかについてお話して,諸先生方のお役に少しでも立つことができれば幸いです。
2.カリキュラム
 本校は中高一貫教育を取っており,中学生の技術家庭科のコンピュータの分野を含め4年間による情報教育を実施しております。

 下記の表1.の計画の中にはまだまだ問題点は多々ありますが,中学生にはコンピュータでできる多くの分野や可能性に触れて,コンピュータを好きになってもらう,仕事にコンピュータを扱う道を選ぶきっかけになればいいと考え,可能な範囲でワープロ・表計算・画像処理というアプリケーションの実習計画を立てております。

  1学期 2学期 3学期
中学1年 ワープロ・暑中見舞い作成 広告・ポスター作成 2D静止画作成
中学2年 アニメーション作成 デジタルカメラ実習 エクセル初級
中学3年 エクセル中級 ホームページ作成
高校1年 Word・PowerPoint実習 総合実習(プレゼンテーション)
▲表1:加藤学園暁秀中学・高等学校の情報の実習
3.普通教科「情報」の授業実践
(1)授業概略
0 10 20 30 40 50
ワープロ練習 教科書 実習
▲図1:授業内の時間配分

 学校5日制による1週間の単位減にともない,本校では情報2単位も事実上1単位での実施になっています。つまり,1単位の50分授業の中に2単位分の教科書を進め,全体の2分の1の実習比率を加味して行うわけです。

 50分の時間配分は,上記の図1.のように10分ワープロ入力練習,20分教科書範囲の学習,20分実習時間という配分です。教室数の都合により,パソコン教室での実施をする以外にないため,1時間ごとに教科書範囲の学習と実習の入れ替えができない制約があり,先に述べたような授業展開となっています。

(2)ワープロソフトによる技能習得

 まず,最初の10分の授業はワープロ入力の早打ちの練習をしています。日本情報処理検定協会の日本語ワープロ検定の3級取得を目標に1年間かけて練習していきます(2学期になりますと,文書作成という検定の分野の練習になるため授業内の時間配分は変わります)。

 本校ではキーボードの扱いに慣れている生徒はほとんどおらず,左右の人差し指だけでキーを探しながら打つという生徒も少なくありません。

 現在,音声入力,タブレット入力などキーボード以外の入力手段も普及してきましたが,まだまだキーボードを使わざるを得ない状況です。大学でのレポートや論文などを見据えて,本校ではワープロの検定受験もカリキュラムに入れています。

 実際のレポートになりますと,私の経験から計算しますが,1200字×3〜4ページを要求されてくると思います。作成方法は個人で差があるはずですので,ここでは純粋に打ち込むのみとさせていただいたとしても,「1200字を打ち込む」という作業にどれだけの時間を使うのでしょうか。ましてや卒業論文となったらどうでしょうか。

 「必ず10本の指を使って打ちなさい」という指導ではなく,型の指導を行いますが,キーボードに慣れて行こうという考えに基づいており,目標としての受験と位置付けて学習しています。

 ここで紹介したいサイトがあります。ひたすらに問題集で練習ではモチベーションもあがらないと考え,「e-typing」(http://www.e-typing.ne.jp/)を利用しています。

 市販の早打ちソフトを導入する予算などの考慮の必要はなく,オンライン環境さえあれば無料で同じ学習が可能です。下の図2.のように,指の指定やキーボードの場所まで点灯して示してくれています。文章も工夫されており,画面も見やすいので「キーボードに慣れる」にはよい練習になるのではないかと思います。

図2:e-typingの練習画面(「プールへ行こう」 PU−RUHEIKOU Pは右手の小指でどこを押すのかが 一目でわかるようになっています)
▲図2:e-typingの練習画面(「プールへ行こう」 PU−RUHEIKOU Pは右手の小指でどこを押すのかが 一目でわかるようになっています)

(3)教科書の履修について
   PowerPointを利用したプレゼン授業


 さて,50分授業内での次の20分間の教科書範囲の学習について紹介します。この少ない時間を限りなく有効に使うために,日本文教出版の実習ノートを採用して要点のみを抑えていくようにしています。

 実習ノートには教科書本文の要点を問題にしていますので,必要最低限の知識が学習できるようになっています。端的に言えば,教科書を自然と読むように問題が設定されているのです。

 授業の展開には教科書は必要ですが,教科書に縛られると時間がかかります。そこで,Nichibun.netのコンテンツでPowerPointスライド集が役に立ちます(http://www.nichibun.net/index.htm)。

 板書の時間が短縮できますし,本校では高校1年生は6クラス受講しますので同じ物を書き直す作業もなくなります。このスライドに,これは言いたい,やっておきたいという部分を追加することでよりよい独自のスライドが出来上がります。

 視覚的効果という点においても,モノクロに近い通常の板書よりもプロジェクタを使った表示の方がよいようです。アニメーションという動きが注意を引いているためでしょう。

 しかし,教材が揃っても,実習との関わりをなくしてしまっては学習効率が悪くなりますし,何のためにやるのか疑問を持たれることもないのではないでしょうか。

 私は,1年間の授業計画を考える際に総合実習を主に考慮し,必要な時間数と実習に必要なコンピュータを扱う技術,知識を授業に当てはめていきます。本校の場合には時間的制約があるために教科書の内容すべてを学習するというわけにもいきませんが,表2.のような計画を立てています。
1学期 2学期 3学期
第1章より 第2章・4章より
※4章は実習の中で
第3章・5章より
▲表2:年間指導計画

(4)総合実習
   グループ学習でのプロジェクト学習


 教科書第4章「総合実習に取り組もう」に設けられているプロジェクト学習を本校では1年間のメイン実習として実施しています。ポイントとして,教授資料にもある中の「企画力をつける」,「自己評価力をつける」などは,現代の実力主義になりつつある社会において重要だと思います。

 自ら考え,実行し,実践する。そして検討・修正して実践する。この経営学で言われるところの「PlanDoSee」を学習します。生徒には,自ら参加することはもちろん「何を言いたいのか,伝えたいのか,理解してほしいのか」を制限時間内にまとめて言えるように,と話しています。

 情報の教育としてだけではなく,経済教育という観点も取り入れて総合実習に取り組んでいきたいと考えて行っています。

 学習を進めていく際に,ここでも教科書P91に紹介させている「プロセスシート」を活用し,各グループでスケジューリングも行い,プレゼンテーションの準備を進めていきます。

 発表には教室にあるプロジェクタとスクリーンを使います。聞いている生徒には評価表を配布し,どういう点を見るのか(採点基準=学習してほしいこと)を見せることで口調や言葉遣い,ポインティングまでを個別に指導するようにしています。

 プロジェクタには専用にノートパソコンを1台設置しています。発表回数も1回ではなく2回行うようにしています。

 生徒たちはこのような学習(プレゼンテーション)に慣れているはずもないですから,ビデオに録画して「検討・修正」の機会を設けます。その後に2回目の発表を行い,2回の評価の具合で総合的に評価をしていきます。評価表の所見欄には内容についての評価ではなく,発表の方法や作成した画面について記入する約束としています。また,悪い点は自分たちで改めてビデオを見返すと気づくようですが,良い点は意外に自信や経験がない分はっきり認識できないようなので,「どういう点がよかったか」を記入することにしています。2回行うことで,授業時間をかなり必要とすると思いますが,価値のある経験ができると実践して感じました。

 ひとつの問題(テーマ)について掘り下げる,詳しく知るということ,情報を収集・分析するということ,主張を限られた時間に適切な言葉を選び伝えるということは普段の生活では得られないものです。また,ビデオで自分の姿を見るということは恥ずかしいことのようでしたが,漠然と自己評価するよりもわかりやすかったようです。


▲教室にあるスクリーン


▲プレゼンテーションの様子


▲プロジェクタ専用のノートパソコン
4.おわりに
 教科として歴史がなく,教材もまだまだこれからの情報をどうしていくかは自分たち教員一人一人なのだと痛感している毎日です。昨年度も感じましたが,毎年入学してくる生徒が学んできたものが違うこと,進度が違うこと,定着度が違うことの格差というものがあります。基本的な計画を実施していても「毎年これでいい」というものはできないのかもしれません。

 また,本校は中高一貫ですが,英語教育で全国的に有名な初等学校もあります。本学園の初等学校では,多岐にわたる質の高いコンピュータ教育を行っています。ですから,中学から入学してくる生徒との格差,高校から公立高校から入学してくる生徒の情報学習経験の格差もあります。この見極めや授業レベルの調整が難しいところです。情報という教科は,小・中・高とつながっている教育です。この縦の関係をしっかり理解していく必要があると思います。

 教科で教育の目標として挙げられている情報活用の実践力・情報の科学的な理解・情報社会に参画する態度の3つの能力・態度を育てるのに,他教科との連携も必要だと考えますが,どこをどうして協力を求めていいのかがわからない,というのが自分自身の課題であり壁になっています。

 これらも含め,中高一貫の教育の中でできるメリット,進学校としてできるメリット,この2点をこれからも研究して本校の特色を出せる情報教育を創っていきたいと思います。
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