ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.23 > p26〜p29

海外との交流事例
World Youth Meeting in NFU 2004にオーディエンス参加して
慶應義塾湘南藤沢中・高等部 田邊則彦
 『インターネットとマルチメディアと英語を通して国際交流を』と,日本福祉大学の影戸先生を中心に1999年に始まったWorld Youth Meetingが今年の夏も開催された。場所は愛知県知多半島の先端近くに位置する日本福祉大学美浜キャンパス。名古屋から名鉄で小1時間電車に揺られ,緑豊かな,どこか日本の原風景を想わせるのどかな丘陵地帯にキャンパスが広がる。昨年はSARSの影響で海外からの参加に大きな制約があったが,今回はカンボジア・韓国・台湾,そして日本の各地から多くの若者と先生方が集まった。今回のメインテーマは“Well-Being”,仲間に加えていただいた本校女子生徒を引率し,2日間にわたって熱気に包まれた会場にオーディエンスとして参加した感想をまとめてみようと思う。
1.“国際交流”に年齢制限なし
 今回,もっとも強く感じたのは「国際交流に年齢制限なし」ということ。学校という組織の中では,同一年齢の集団で形成される学年やクラスが生徒の参加する社会の中心となっている。もちろん学校は,学校行事や部活動,「総合的な学習の時間」等で異年齢間交流の場を工夫してはいるが,発達段階の近い者同士が時間と場所を共有して学ぶスタイルが一般的である。

 認知科学の分野では,「発達の最近接領域:子どもが発達していくために,もっとも無理なく,しかし必要な発達課題を,他の子どもと競い合い,育ち合っていくなかで身につけていく課題の領域」が話題となって久しい。異文化理解やコミュニケーション能力の育成を目標とした“国際交流”を「課題の領域」として展開することによって,児童・生徒の力は大きく伸びていく。そこには年齢は関係ない。“知りたい”“知ってもらいたい”と思う気持ちがあれば,言葉の壁は解消する。小学生から大学生までが参加するWorld Youth Meetingの魅力はそこにあると思う。

打ち合わせを重ねる
▲打ち合わせを重ねる

 人の発達には,自己の自然な発達と教育によって伸長される発達の部分がある。子どもの自然な発達を大切にしつつ,教育によってさらにバランスよく発達を促すことが求められる。子どもはお互いに運動能力や知的好奇心などを観察学習・模倣学習する力を自然な発達の中に持っている。教育の現場にいるわれわれは,子ども発揮するこれらの力を認めつつ,「最近接領域」を意識した適切な教育的目標を示す必要がある。

 World Youth Meetingの掲げる“国際交流”は,“知りたい”“知ってもらいたい”気持ちを大切にしていることが過去のテーマ設定からも判る。

 1999 “Do YOU Know My Country?”
 2000 “Misconception to Understanding”
 2001 “English Learning Supported by the Internet”
 2002 “Communication With the Internet”
 2003 “Let's Try English Presentations; Environmental Problems and Social Welfare”

 年齢によって,「何を」「誰に」“知りたい”“知ってもらいたい”か,が異なるのは当然である。児童・生徒の興味・関心を鑑みて教育現場サイドでの調整が行われれば,収穫の多い“国際交流”が実現する。
2.もっと豊かなプレゼンを
 小学校セッションで「環境」「牛」を発表した安東小学校のパワーはすごかった。発表終了と同時に会場から大きな拍手が届けられた。舞台の袖から客席に戻ってきた児童たちは,緊張から開放された良い顔をしていた。手描きの地図やウシ,えさの干しワラを手に持ってプレゼンをしてくれた。何度も何度も繰り返し練習をし,“知ってもらいたい”という気持ちを一言一言にこめた発表だった。隣同士で目配せしながら気持ちをあわせての発表は,発表用の原稿を読み上げるものとは段違いの迫力があった。

 プレゼンテーション用の応用ソフトが一般的になって,発表の形態が画一化されてしまったことがすごく気になる。ICTを駆使して「情報を収集し」「加工し」「まとめて発表する」ことは,特定の応用ソフトの使い方に習熟することとは違う,自分の“思い”を伝えることであることを忘れてはいけない。ステージ発表だからこそ実現できることを大事にしたプレゼンが今後の楽しみと言える。

 目立たない存在だったが,会場の一角でポスターセッションが開かれていた。ステージ発表とポスターセッションを連携する工夫をもっとするとダイナミックな発表につながると思った。ポスターセッションでは発表者と聴き手とのFace to Faceなコミュニケーションが成立するメリットを活かしたいところだ。

ポスターセッション
▲ポスターセッション
3.理想は英語のみの環境で
 母国語使用禁止として,World Youth Meetingが実施されるともっと刺激のある活動につながるのではないだろうか。しかし,参加へのハードルを低くするという観点からすると良く練られた企画と言える。

 事務的な連絡も,リハーサルも,相談や報告もすべて英語で挑戦することは難しいことかも知れないが,部分的に時間を区切っての実施や,音楽セッションで南山国際の西先生と生徒がバンド演奏を披露してくれた試みのような音楽や踊りで言葉の壁を乗り越えるところから始めるのも一つの方法だ。

音楽セッションでのバンド演奏
▲音楽セッションでのバンド演奏

 また,聴き手のアテンションを散漫にしないためにも,プロジェクターで映し出すスライド資料は英語版のみで良いかもしれない。

英語(左)と日本語(右)のスライド
▲英語(左)と日本語(右)のスライド

 リハーサルを含め,本番のみならず運営に関わった大学生の,高校生の良いモデルとして機能している活躍振りは立派なものである。かつての参加者が支援する体制も整いつつあるという話を伺うと,World Youth Meetingの教育的な意義にさらに魅力を強く感じた。

午前中のリハーサル風景
▲午前中のリハーサル風景
4.パートナーシップを大切に
 海外のパートナーと協働して調査をしたり,成果を発表したりするとなると,いろいろな難しい局面に遭遇する。掲示板や電子メール,ビデオ会議,チャット等の新しいツールがその難局を克服する手立てとなるかどうかが問われる。

 意見の食い違いや,誤解を解くにはどのような努力が求められるのだろうか。リーダーシップの重要性は始終聞かされるが,参加者全員がリーダーになるわけではない。むしろパートナーシップを大切にしていかなければならない。

日本と韓国の高校生の合同発表
▲日本と韓国の高校生の合同発表

 パートナーシップとは,「上下や主従の関係でない対等な関係」のこと指し,様々な主体が,お互いの主体性や特性を尊重しながら,協力・連携し,より良いものを創り上げていくもの。お互いに「対等」であるためには,「お互いを信頼し,尊重し合いながら,お互いに責任をもつ」ことが必要となる。

 企画を練る段階で自由な発想を活かしてパートナーシップの育成に使えるツールとして,Virtual Brainstorming Boardsがある。
http://www.osaka-sigaku.net/circle/20030801/prezen.pdfを参照していただきたい。

富山大門高校での江守先生の利用例+拡大表示
▲富山大門高校での江守先生の利用例
5.ビフォアWYM アフターWYM
 World Youth Meetingの試みがイベントドリブン型の企画に終わらないのは,ホームステイや事前・事後の研修旅行等の交流の場が用意されていることにありそうである。

歓迎会や交流の様子は,以下のページでも紹介されている。
http://www.fukusho-ch.ed.jp/2004wym/wym2004/frame.html
http://www.424hs.jp/wym04nishiko/0730.html

この笑顔が…
▲この笑顔が…

 扇町総合高校の池田先生からは,台湾の参加者のお世話に関して,次のような報告が届いた。

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○生徒たちだけで大阪市内買い物ツアーに出発。
○朝から扇町総合の生徒は,乗る電車を間違えて大遅刻(ガイドなのに)。予定より30分以上遅れて10:00過ぎに駅へと出発
○生徒たちは,午前中なんば地区,午後梅田地区という予定。
○先生たちは,守口市の松下電器本社へ。
○昼食後,先生たちは梅田(大阪駅近辺)方面へ買い物に。車で向かう予定だったが,電車に乗りたいというリクエストで,急遽,地下鉄に変更。
○ホテルの車に,梅田ピックアップを要請。梅田到着後,病院に連れて行った生徒を元の班に合流させる(大阪のど真ん中で,これは結構神業)。
○先生たちは2時間弱の買い物後,車でホテルへ。
○生徒たちは,帰着予定時刻になっても戻ってこない。
○台湾のリーダー生徒から電話が入り,「今,新今宮にいます。遅れます。」とのこと。
○しばらく後に,扇町総合の生徒に電話を入れたら,「とりあえず石津川(ホテルから徒歩2分)に着いたけど,台湾の生徒が四人いない。」と,電話口で泣いている。
○中高生はホテルに帰らせて,大学生と扇町総合の生徒で何とかするよう指示。
○はぐれた生徒を捜しに何名かは電車で来た道を戻る
○しばらくすると,はぐれた生徒が見つかったとの電話。
○通りがかりの人から携帯を借りて連絡してきて,自力で戻ってきた。
○ホテルで遅い目の夕食を一緒に食べながらお別れ会。
○責任を感じた台湾の大学生は大泣きし出すし,この2日間のツアーガイドで感極まったうちの生徒も泣き出すしで,なんだか大騒ぎ。最後には民族衣装を着せてもらって踊り出す始末。

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 お互いに,貴重な経験を積むことのできた1日の様子が伝わってくる。私も高校生に戻れたらなあ…。

歓迎会でネームカードの交換
▲歓迎会でネームカードの交換
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