ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.26 > p20〜p23

総合実習実践事例
生徒が社会問題への提案を行う総合実習
−ネットワークを活用して発表会を立体的に構成する−
宮城県泉館山高等学校 上杉茂樹
s_uesugi@izumit-h.myswan.ne.jp
1.はじめに
 本校は仙台市の北部に位置し,学年の3分の1が現役で国公立大学へ進学する進学校である。生徒の自宅でのPCの保有率は家族のものも含めれば90%,携帯電話の保有率は98%を超える。

  情報Aの授業は1年生で履修している。週2時間を連続して時間割の中におき,前の1時間を私ともう一人が入り,もう1時間を相方が一人で行うという変則的なTTの形式をとっている。

 1年間の授業内容は[3]に,授業内容の一部はPSITE[2]で公開しているが,おおまかには,教科書通りの情報化社会についての一般的な知識を与えることよりも,情報をどう整理するか,理解するか,作り出すか,表現するかについてより深い内容を指導することを目標としている。
2.課題
 今回の総合実習の課題は次のように設定した。

  現在の社会問題の一つをテーマとして設定し,これに対し自分たちなりの解決策を提案する。課題制作はグループで行い,プレゼンテーションを行うとともに,まとめる過程で調べた知識等は資料としてHTMLで整理する。

 制作の過程では,KJ法・因果分析法・数理統計を適切に用い,この結果はプレゼンのスライドとして入れるという条件をつけた。

 出題のねらいは,高校生の稚拙な知識と思考を活用して,論理的で説得力のあるプレゼンをどう20構成するかにおいた。われわれも制作中は自由にグループに入り,生徒と一緒になって考え,随時制作・分析に対する改善の提案を行った。




(1)予備知識
 HTMLは,当初より専用のソフトを使わず簡単なタグのみを用いてエディタで制作するように指導した。リンク・テーブル・画像の扱い・フォルダ構造程度の知識のみを指導した。

 プレゼンテーションはPowerPointを使用して制作した。これに関しては6月に2回4時間をかけて指導したのみで,今回が2回目のプレゼンテーションである。

 KJ法と因果分析法は12月にそれぞれ2時間ずつかけて簡単な実習を行いレポートにまとめた。

  数理統計はExcelの学習と合わせ,12時間をかけて,1変数については正規分布とその利用まで,2変数は相関図と相関係数まで指導し,プロ野球の打撃データを用いて分析を行い,レポートにまとめた。

(2)制作準備
 制作はグループで行うこととした。出席番号で7名前後の班を構成し,あらかじめ班長を選出しておいた。KJ法・因果分析法のレポート制作はこのグループで制作した。同じ顔ぶれのまま3ヶ月間で3つの課題を制作したことになる。

 テーマの設定にあたり,冬休みの課題として考える機会を設けた。冬休み直前にプリントで

(1)総合実習の課題
(2)実際の作業の流れ
(3)制作の条件

について具体的に提示した。問題設定に際しては理由を明確にしておくこと,現状調査を行うこと,データがとれる場合は統計的な処理を加えること,KJ法を用いて問題の重要度を主張すること,因果分析法により問題のポイントを明確にすることに注意し,8分間のプレゼンテーションを行うことという指示をしておいた。これらふまえ,自分たちのテーマについて考えてくることを冬休みの課題とした。

(3)相互評価の準備
 プレゼンテーションを相互評価することは,最初に学習した6月にも行った。そのときの評価票の整理の煩雑さから,ASPを用いて生徒の評価をデータベースに整理する準備をした。
 これに合わせ次のような工夫を行った。

1)発表用Webページ(トップページ)の制作
2)2つのフォルダ構造
3)相互評価の観点の整理
4)ASPを用いたプログラミング



 (1)についてはクラス毎にグループ番号・テーマを書き,プレゼンファイル・資料HTML・評価用ASP・感想表示用ASPへのリンクを表形式に並べた。発表会はこのページをクリックして(files://〜となる)表示しておき,発表者はプレゼンファイルを,ほかの生徒は資料と評価ASPをワンクリックで開くことができるようにした。

 (2)については課題提出用領域にクラス毎のフォルダを作り,そこにグループ毎のフォルダ・発表用データとトップページを置いた。他に生徒からアクセス不能な領域にIISの仮想ディレクトリを設定し,ここも同様のフォルダ構造としてASPファイルとデータベースを置いた。プレゼン・資料については相対リンクでfiles://〜で表示されるようにし,ASPに関してはIISを通すようhttp://〜でリンクを記述した。このことによりプレゼン・資料のファイル群は生徒が直前まで自由に書き換えることが可能となり,逆にASPのフォルダは生徒からASPを通す以外アクセスできないようなコントロールが可能となった。

 (3)については,割り切って「十分な事実」「KJ法・因果分析法・数理統計のうち2つ以上(課題の条件)」「明確な表現」「説得力のある改善策」「適切なスライドの表現」「表やグラフの使用」「デザインの統一」「話術」「発表時間」「全体の印象」の10個の観点に整理し,それぞれをBを標準として3段階で評価することとした。このことにより相互評価を数値化し,生徒の評価を成績に生かすことが容易になった。さらに,この観点を事前に公表し,制作のポイントがずれないようにした。

 (4)については相互評価を数値化してデータベースに蓄積する際に,生徒の感想が入れられるようにした。また,この感想だけ名前を消して一覧表示するASPコードを書いた。このことにより発表者へのフィードバックができたとともに,発表者以外の生徒の参加意欲も高まった。

 データベースはAccessを用い,これにDSNLESS接続をおこなうこととした。このことにより各DSNの設定が不要になったばかりでなく,ASP関連のファイル群を各班のフォルダにコピーするだけで動作するようにできた。さらに,AccessデータベースはExcelファイルに変換され相互評価の部分の成績処理が簡易になされた。

 データベースのIDは自動割付をおこなわず,生徒番号を採用するようにした。このことにより2重に評価することができないようにできた。なお,ASPの開発にはローカルコンピュータ上にIISをセットするなどいくつかの準備作業が必要となるが,これに関しては参考書籍[1]をご参照願いたい。
3.課題制作
 実際の制作は1月の第2週に始まり,2月の第3週に発表するというスケジュールで行われた。制作時間は最短のクラスを基準とし,4週で制作,5週目で発表を標準とした。また,テーマ設定から発表までに6週間の時間があることからスケジューリングの工夫の必要性を感じ,4回の基本的な作業内容を具体的に指示した。さらに,各回の作業内容の進行状況を把握するために,班長が代表して簡単な報告書を提出することを義務付けた。

 第1回はワークシートで4回に分割した作業内容を提示した。第4回で必ずリハーサルを行うこと,話の原稿を作成しておくことを強調し,そのためにも準備作業を早めに進めることを指示した。この時間では設定の理由を明確にした上でテーマを決定し,スライド制作と資料制作の役割分担を行い,さらに発表までに準備しなければいけない作業内容を具体的に考えながら,Webで情報収集を行うこととした。

 生徒たちが設定したテーマは「児童虐待」「少子高齢化」「ニート」「地球温暖化」「少年犯罪」「負け犬」などの新聞等によくあがる題材で,これらに関してWebで情報を収集し,リンク集の形でURLの整理を行いながら今後3回の作業内容の作戦を立てていった。

 第2回は,KJ法や因果分析法の作業を行うことを基本とした。設定したテーマに従い,データを集め統計処理をしていたグループもあった。

 第3回からはスライドや補足資料の本格的な制作を開始した。引用の方法を再確認すると共に,KJ法・因果分析法の図をスライド・資料に入れること,統計処理の方法の理由を入れることなどを指示した。また,資料HTMLの制作のために参考書籍[2]を複数購入し,生徒が自由に利用できるようにした。



 第4回では,プレゼンテーションの評価の観点を生徒に提示して制作するファイルが評価の観点を満たすように修正すること,ファイル名とサーバーへ置くフォルダ名を指定し正確に置くことを指示した。後半の時間ではリハーサルをするように予定していたが,4回の準備のクラスでは多くの班の制作が遅れ,この時間内でリハーサルができた班はほとんどなかった。なお,リハーサルに際しては,ゆっくりと話して時間を合わせること,下を向かないことなどを予め注意しておいた。
いくつかのクラスは1回(2時間)余計に制作の時間が取れた。これらのクラスは何とか準備を終わらせることができた。発表の準備が終わらなかった班は,発表会前日に残って準備をした。
4.発表会と相互評価
 発表会は2月の第3週に行った。2時間の連続授業であることもあり,その中で完結した。各グループ発表8分,相互評価2〜3分の10分前後の持ち時間で,1時間目に3グループ,2時間目に3グループを行った。

 はじめに発表の順番を決定してからトップページを表示し,発表者はここからファイルを開いてプレゼンを開始すること,聞き手は評価ASPのファイルを開いておくことなどの手順を説明した。さらに2つのASPページの使い方と書き込み・表示の練習をおこない,IDを間違えないことなどの入力上の注意をおこなった。その後,テスト用のデータベースを入れ替えて発表会を開始した。

 多くの班は事前の指導の通り原稿を準備し,リハーサルをおこなって発表に臨んでいた。声の小さい発表者もいたが,多くの班ははっきりとした声で,ゆっくりと聞きやすい発表を行うことができた。各班のスライドについては表現・内容共に十分に工夫されており,レベルも満足のゆくものが多かった。しかし,テーマから調査範囲を広げすぎて制限時間内に収拾がつけられない班が散見されたのは残念だった。また,評価の観点を公開していた効果で,内容的に目標をはずした発表をした班は少なかったが,「高校生からの提案」の形にまとまっていない発表がいくつか見られ,評価の観点の項目について見直す必要を感じた。加えて,トップページから発表スライドへのリンクを延ばしていたため,スライドを手元のPCで見ながら発表を聞いている生徒が見られた。来年度はもう一工夫が必要と感じた。さらに,発表中に資料HTMLを効果的に使っている班が少なかった。この点も課題として残った。

 発表後は聴衆の生徒たちによる相互評価がおこなわれた。発表者たちは順次書き込まれてゆく感想を表示ASPを用いて見て楽しんでいた。また,相互評価を書き込み終わった生徒もこれを開き,他の生徒の感想を読んでいた。ASPによるフィードバックシステムが有効に働いたと感じた瞬間ではあったが,反面,これに夢中になる生徒たちの表情を眺めながら,使う場面を工夫し,限定する必要性も感じた。

 最後にはわれわれで全体講評を行い,発表会を終了した。

5.おわりに
 発表会が1年の最後だったために,1年間の授業内容が生徒の学習能力に対して適切だったかについて自問しながら生徒の発表を聞いていた。これまでの経験上,情報の授業に「はまってくる」生徒が多い学年は学問に対する関心も高いことがわかっていた。その意味で本校の生徒の可能性を感じさせてくれるレベルの発表がおこなわれたことは教師としての喜びであった。

 なお,紙面の関係上画像関係は最小限しか,スクリプト類は全く載せることはできなかった。これらについては[2][3]で公開することとした。
より詳しくはこちらをご覧いただきたい。
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