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ICT・EducationNo.27 > p24〜p28

総合実習実践事例
総合実習の成功を目標とした必修「情報A」
−総合実習に向けての授業計画の工夫と総合実習の実際−
東京都立町田高等学校 小原 格
johoka@machida-ohara.com
http://www.johoka.info/
1.はじめに
 本校全日制は普教科6学級,家政科2学級の8学級の学校であり,教科「情報」を行っている普通科においては,9割の生徒がセンター試験を受けるような,いわゆる「進学校」に分類される学校である。簡単なアンケートを行ったところ,ほとんどの生徒が中学校でワープロの授業を受けており,表計算ソフトやプレゼンテーションソフトを用いて発表の授業を行ったことのある生徒はそれぞれ各クラス10名程度である。また,携帯電話や携帯メールの利用もおよそ9割にのぼり,家庭でのPC普及率も97%,うちインターネット回線接続は9割以上にのぼる。
 本校では,2単位の授業を別の曜日に1時間ずつ行っている。生徒は教室移動してくるとPCを立ち上げ,まずメールをチェックし,当日の授業の内容や教材などを確認する。また,昼休みや放課後にPC室を毎日解放し,課題作成など,生徒が自由に利用できる環境をつくるとともに,どの席でも自分の環境が整うようなシステム設計・構築をし行っている。
2.町田高校情報科のねらいと総合実習
 本校での「総合実習」は,「情報A」教科書にほぼそのまま基づいて行っている。目標も「身の回りの生活から課題を設定し,その課題の解決を図る学習を通して,今まで学習してきた知識や技術の深化,総合化を図るとともに,問題解決の能力や自発的,創造的な学習態度を育てる」として,1年間の授業の総まとめとして行う全14時間に及ぶ自由課題設定型プロジェクト学習である。
 本校での「情報」の授業は,グループワークやグループディスカッションを積極的に取り入れ,主として問題発見や問題解決の道具としてPCを使うように進められている。授業計画も,「情報発信」ということを切り口に,情報Aの学習内容,及び発展学習として情報B・Cの内容も含め再構築している。そして,

・情報発信には,伝える「内容」が必要である。
・その「内容」を「上手に」に集める方法を知ることが必要である。
・その「内容」は「正確」で,かつ,「わかりやすく」まとめる必要がある。
・効果的な「相手への伝え方」を考え判断する必要がある。
・そのためには,マナーなども含め,相手の立場に立って考え判断する必要がある。

という展開で,今現在学習している内容の「意味」を,常に確認しながら進めている。
 これらを「スパイラル方式」にて少しずつ何回か繰り返し行うことにより,技術や知識の定着を図っており,これらの内容すべてを主体的に行う単元として,「総合実習」を設定している。つまり,1年次必修「情報」では,「総合実習の成功」が,生徒にとっての大きな目標となっている。
3.「総合実習」までの道のり
 しかしながら,実際は,いきなり14時間の枠を与えたところで,教科書の具体例のような総合実習は難しいだろうと感じ,総合実習に至るまでの授業計画を工夫する,即ち,総合実習「成功」のため,実習でのポイントとなろうことを,あらかじめ最低一度は学習しておくことにしている。

(1)前期
 まずは,総合実習ではグループごとに共有フォルダが与えられるため,「決められた場所に決められた名前で保存する」ことを徹底して行い,ファイルのコピーや移動,削除,名前の変更方法などを指導している。そして,ある1つのサイト内の情報のみで総合実習に取り組みがちな傾向があるため,情報の収集では,「それは信頼できるサイトなのか」「その情報はどのような立場のサイトなのか」ということを重点的に扱う。さらに,すべて棒グラフ,文字だけを羅列したスライドを作りがちな点を考慮し,「データに適したグラフ表示」や,「スライド表現の工夫」を学習する。「情報の分析」では,実際のグラフからわかる「事実」と「原因の予想」と「それを確かめる手段」を考えさせることにより,分析力の基礎を養うことを目標としている。これによって,より「奥行き」や「深み」のある発表が期待できると考えている。

 前期の終わりが「アンケート調査」全9時間のプロジェクト型学習である。「クラスの実態を暴く」という大テーマを設定し,おのおのの班がどのような切り口で何を調べるのかを決め,具体的な調査内容や調査方法の企画,用紙・メールの作成,調査実施,集計,分析,スライド作成,発表と前期の内容を一通り網羅する。これに相互評価や自己評価も織り交ぜ,さらに,偏ったアンケートに対する対処や選択肢の数や形式による結果の違い,アンケートを実施したり回答したりすることに対する個人情報の保護や取り扱い,共有フォルダーの利用や効率的な共同作業と段取り,自分たちの目的にあわせた情報機器の選択なども扱う。実際には,まだまだこの時点では上手に実習や発表ができない班も多くあるが,プロジェクトの一通りを経験することにより,後期での総合実習の成功へつなげるための本格的な「予備実習」となっている点が大きい。

(2)後期
 後期に入り,画像や動画のディジタル化やWebページ作成などのため,本格的にアプリケーションを多用する。前期で情報の収集・発信に必要なことはほぼカバーしているので,後期に行っていることは,それがすべて表現の工夫や提示方法の工夫へとつながっていく。ディジタルでの加工や発信が中心となるため,著作権についても丁寧に扱う。総合実習でも,出典を明記したりURLを示したりということができる班が少ないため,著作権を単に「ダメなこと」として扱うのではなく,「著作者の立場に立って」を強調するようにしている。また,総合実習でテーマ決めでフリーズしてしまう班のために,「未来の情報機器」を題材にして,ブレーンストーミングや簡単なKJ法的な発想も扱うようにしている。
4.総合実習の実際
 総合実習は,12月下旬から3月上旬まで2ヶ月半ほどかけて行う。

 生徒に示しているおおよその計画は上記の通りであるが,なかなかこの通りに進まない班もあるため,それぞれ計画を調整させ,中間発表および発表には間に合わせるように指導している。生徒は,班のスケジュールのもと,
・総合実習の企画と資料収集・分析
・スライドを用いた7分間のプレゼンテーション
・班のホームページ作成
を行い,そして最後に個人で
・総合実習の成果のまとめレポート
を提出することになっている。

(1)オリエンテーション,テーマ決め
 1時間目の時間の半分以上をかけて,オリエンテーションをみっちりと行う。特に,「1年間の総まとめであり,4月から学習した全ての知識を総動員して欲しい」こと,「『インターネットでちょっと調べてまとめて終わり』といった,平面的で安易なものはやめて欲しい」ということを良く伝えておき,昨年の様子を撮影した動画なども見せ,より良いものへの喚起を促している。

 テーマ決めに関しても,意外とすんなり進むようである。班によっては,ブレーンストーミングやKJ法的発想を用いて考えている所もあり,以前の実習が良く生かされていると感じている。ワークシートは,他の分野と同様,Web上にある「教材室」からダウンロードさせている。前期の終わりに行った予備実習「アンケート調査」では,すべての回数のワークシートを用意したのだが,総合実習では,自分たちで具体的な作業計画を立てる意味でも,おおよその進み方を示したものしか提供していない。

(2)計画提出,資料を調べる
 計画表を添付ファイルで提出させ,班作業に入っていく。教員が巡回し,「インターネットで調べる」のみの計画を立てている班に対し,具体的な展開のヒントを与えていく。説得力のある多角的な総合実習とするためには,インターネット上の情報だけでなく,自分の目や耳,手足で得られた情報も織り交ぜることは欠かせないが,いかにして,そこへ生徒を誘導していくか,ということも腕の見せどころとなる。前期末の「アンケート調査」での学習内容も有効に活用するように指導している。

 なお,毎時間の進行に関しては,まず教員メールに返信させて連絡を確認させ,班作業に入る。毎時間の作業終了時に,表計算データでのプロセスシートに記入させ,班フォルダーにその都度名前を変えて保存させている。プロセスシートは,教科書「総合実習」にあるものを本校用に若干修正したものを利用している。

(3)中間発表
 計画表を提出してから数回後に,「中間発表」を行う。ここで,生徒は一班あたり数分間で「どのようなことを行うか」,「どの程度進んでいるか」などを他の班に簡単に報告し,意見の交換をする。また,どんなに遅くとも,ここまでにはテーマや進め方等が決まっていないといけないので,1つのターニングポイントになっている。

(4)発表資料の制作
 4時間程度で実際に資料をまとめ,プレゼン用のスライドとホームページを作らなくてはならないので,時間的に相当ハードな内容になっている。ここをクリアするために,前期ではスライドでの複数ファイルから1つのスライドを作成する方法を,後期では,Webページを分業で作成しリンクを張ってつなげる作業を行っている。このように,あえて時間を少なめに設定することにより,特定の「できる子」だけが行うのではなく,メンバー4人全員が,上手に分担して作業を効果的に進めなければ終わらないようになっている。

 また,この段階で,スライドとホームページの用途についても意識させることにしている。発表時間は7分間しかなく,調べたことをすべて発表すると終わらないということを良く言い聞かせておくとともに,情報の受け手の立場に立って,一番伝えたい内容を意識し,「プッシュ型」情報としてスライドに入れる内容,「プル型」情報としてホームページに入れておく内容を,上手に使い分けるよう指導している。

 なお,ホームページは,班ごとに専用フォルダーを作成し,IISの仮想ディレクトリ機能を用いてエイリアス設定し,リンク集をつくる形で構成している。班ごとの作業フォルダーともども,セキュリティの設定を一括して行い,班員以外のメンバーからは削除できないようにしている。

(5)発表
 発表は,毎年校内の全員の先生方に声をかけ,自由に見て頂いている。時間割の都合で,メンバーが固まってしまうのだが,おいでになった先生方は,「情報」で行っている内容をよく理解して頂き,それぞれの教科に生かして頂けているようである。「聞き手がいてこその発表」ということで,生徒の緊張感を増すことはもちろん,教科の連携の意味でも効果があるのではないかと感じている。

 時間は質問も含め7分間で行うが,どの班にも若干短めである。あえて短くすることにより,「本当に伝えたい内容をよく考えて発表する」という姿勢を身につけて欲しい,という期待もある。

 発表では相互評価を行い,レポートへの反省材料とさせている。相互評価は,管理権限を持つ教員が,Excelシートを各生徒の個人フォルダーに個々にバッチファイルで一括コピーし,生徒が記入後に一括回収をしてリンクを上手く使い集計する方式をとっている。生徒はマイドキュメントのExcelファイルを開いて数値を記入するだけで良いので,トラブルも少なく確実に集計できるため,本校では良く用いる方法である。

(6)自己評価,成果のまとめ
 総合実習では,班活動が中心になるため,放課後や個々の家庭での作業が見えない,という点もある。そこで,「伝えなければ伝わらない」ということを教える意味でも,自己評価では,「自分は何を行ったか」,「グループの中でどのように貢献したのか」をアピールさせるようにしている。
5.まとめと今後の課題
 「総合実習」は,学校の実態とあわせて,上手に「総合的な学習の時間」とのリンクを考えていけばよいのではないかと感じている。学校によっては,前期末の「アンケート調査」のような内容に若干手を加えて「総合実習」として位置づけ,後期末の「総合実習」は,それこそ「総合的な学習の時間」にて行うこともできるであろう。

 本校でも,現在の形式で総合実習を構成し,今年で3年目となるが,以上のように,前段階の実習時に少し意識して内容を構成しておくだけで,総合実習での深まりや作業は大きく変わってくるため,少しずつ修正を加え,ようやくシラバスも一段落してきたところである。しかしながら,中学校でコンピュータ必修の中での本年度入学生は,やはり中学校での学習成果が大きく,ちょっとした調べ学習はすでに中学校で経験してきている生徒も多い。今後は,そのような生徒に,どのような「総合実習」を期待するか,ということを,より一層明確に示して行く必要があるだろう。

 なお,紙面の関係上,最小限の情報しか載せられなかった。シラバスの詳細は常時公開しているので,興味のある方はご覧頂ければと思う。
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