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ICT・EducationNo.28 > p8〜p11

教育実習例
教科「情報」の授業
−教科の連携と教材の連係を考える−
日本女子大学附属高等学校 柴田直美 平井俊成 渡辺明子 星野恵美子
shibatan@fc.jwu.ac.jp
1.はじめに
 本校は,幼稚園から大学院まである大学附属高校で,中学校と大学の一部とともに,川崎市多摩区の緑豊かなキャンパスに位置している。1クラス46人,1学年8クラスで,生徒の85%は日本女子大学に進学する。受験のためのクラス編成は行わず,選択科目以外は,クラス単位の授業展開を行っている。本校の教育方針は,生徒一人一人の個性を尊重し,学校生活のさまざまな場面で,自ら考え,自ら学び,自ら行動する意欲的な生徒を育成することである。大学進学をゴールと考えておらず,あくまでも今の生徒たちが10年,20年後に,社会で活躍し,貢献できるように考えている。与えられた問題を,上から言われるままに解く姿勢でなく,知的好奇心をもち,自ら課題を見つけて,工夫しながら解決していく能力や,常に新しいものを開発していこうという創造力育成に努めている。また,社会の情報化に対して,溢れる情報を整理・判断し,よりよく発信する力とともに,倫理観や正義感といった「心」を育てることに,力った「心」を育てることに,力点を置いた教育内容になっている。以上のような教育方針のもと,新教科「情報」をどのようにカリキュラムの中に取り入れるかについては,「学校全体で考えていく」という基本方針を基に検討を重ねた。
 教科「情報」の目的は「いろいろな分野での情報収集・利用が必要で有用なものであることを経験し,その中で情報の適切な収集・分析・発信方法を学び,それに伴い発生する問題と個人の責任について理解を深めること」にある。学校全体でこの教科に取り組み,さまざまな教科と情報科が連携し,授業を発展させていこうと考えた。
 以下に,教科「情報」がスタートしてからの本校での取り組みについて,他教科との連携を中心に報告する。

授業風景
▲授業風景
2.学習環境
 コンピュータ教室には,50台のノート型PC(インターネット接続)が設置してあり,昼休み・放課後は自由に利用できる。また,この他に無線LAN設置の教室が3教室あり,ワゴンに保管してあるノート型PCを,授業の際に利用できる。また,理科の実験室でPCを利用することも可能である。
3.授業の構成
 2003年度からのカリキュラム改訂に際し,「情報」の授業を(1),(2)のような構成とした。

(1)1年次 (1単位)
以下の基礎的内容を,クラスを半分に分け,教員1名とアシスタント1名で行っている。
4月〜5月
情報リテラシー
・コンピュータの利用方法
・ハードウェアとソフトウェア
・データの種類とデータ量
・ネットワーク構造とファイル操作
・ワープロ入力練習・書式設定
6月
情報の収集・発信における問題点
・知的財産権に関するリンク集作成
・電子メール利用の問題点
7月
レポート作成のための情報収集と表現
・レポートの望ましい書き方
(調べ学習との相違点について)
・自由研究レポート作成
9月〜11月
プレゼンテーション
レポート内容を基にプレゼンテー
ション作成・発表会
12月
表計算・画像について
1月
Webページ作成
・学校紹介Webページ作成
2月
情報化社会の問題点

(2)1,2,3年次(1単位)
 他教科と連携を取りながら,様々な場面における発展的な情報活用能力を育成するため,具体的には,国語・数学・理科・地理歴史・公民・英語・家庭の各教員とともに,コンピュータ・インターネットを利用した授業を各4〜6時間ずつ,展開している。
 以下では,(2)の授業方法を「他教科との連携授業」と記す。
4.「他教科との連携授業」の意義
 この授業においては,各教科でテーマを決め,コンピュータ・インターネットを利用した授業など,情報に関する授業を行う。内容に関しては各教科の教員が主体となり,情報科教員はチーム・ティーチングの形でコンピュータに関することを担当する。この授業をすることによって,各教科教員にとって,これまで様々な研修会などで知ってはいたものの,コンピュータを利用するという技術面が障害となって,諦めていたような授業展開も,情報科教員のサポートがあることによって実現可能となり,授業の可能性が広がる。また,様々な分野からのより専門的なテーマが提出されるため,内容の濃い授業展開が可能になる。また,教科「情報」の目標である,「情報社会に積極的に,より適切に関わっていく態度や能力を育成する」という観点からも,教科の専門性を通して,良質の関わりを生徒に示唆することが可能になる。
5.「他教科との連携授業」の計画
 教科を連携させながら授業を展開するとき考えられる問題点として,時間,場所,評価があげられる。そこで,以下のようなルールを学校全体で確認し,新カリキュラムをスタートすることとした。

他教科との連携授業のルール
[1]情報科教員と各教科担当者は,授業内容・日程・場所について詳細に打ち合わせを行う。
[2]原則として何らかの提出物,試験を課すものとする。情報科教員は各教科担当者と協議し,提出物,試験の内容について提言を行なう。
[3]授業後の評価は,各教科の授業の特性に合わせて,情報科教員と各教科担当者が協議の上,次の3つの情報科的観点について行なう。
1.情報の収集:問題意識,着眼点,データ収集方法の工夫,良いデータの収集
2.情報の処理:データからの有益な情報の取り出し,データの加工の仕方
3.情報の発信:論理性,構成力,読み手の理解を助ける工夫(表,グラフなどの利用),引用の正しさ
6.「他教科との連携授業」の実践
 各教科より以下のようなテーマと内容で,2003年度の1年生より実施している。どの教科も工夫されており,情報科教員のアイディアをはるかに越えた内容豊かなものとなった。また,情報機器の利用方法も様々で,資料検索,データの整理,プログラミング,シミュレーション,データ解析,レポート作成と多岐にわたり,使用アプリケーションも様々であった。

◆ 数学(2年次)
テーマ:接線群から曲線の概形を知る
1.Mathematica(数式処理ソフト)の基本的な使い方を学習する。
2.アニメーションにより接線の意味を考える。
情報分野:プログラミング・シミュレーション (Mathematica)

◆ 現代国語(3年次)
テーマ:森鴎外について
 以下の事柄を調べ,レポートを作成する。
1. 森鴎外の家族,森鴎外の住居(名前)
2. 19世紀のベルリン,19世紀のプロシア,留学時の研究内容,Elise Weigert,舞姫論争,鴎外の遺書
情報分野:資料検索とレポート(インターネット検索・Word)

◆ 古典(2年次)
テーマ:漢詩について
 月を詠み込んだもの,又は秋を詠った漢詩を選び,「題」「作者」「本文」「語釈」「通釈」を調べ,感想を書く。
情報分野:資料検索とレポート(インターネット検索・Word)

◆ 物理(1年次)
テーマ:うなりの周期の測定
1. うなりの波形から周期を測定しうなりの回数・音源の振動数を求める。
2. うなりの波形の振動数解析を行う。

情報分野:測定とデータ解析(Wave Spectra)

◆ 化学(2年次)
テーマ:凝固点降下の実験
 溶液の凝固点降下と溶質の濃度の関係を調べる。

情報分野:測定とデータ解析(Sensing Science Laboratory)

◆ 生物(2年次)
テーマ:メヒシバ花序の変異調査
 1人1人がフィールド調査で集めたデータを,グラフ化したものと,クラス全体のデータをグループワークによってグラフ化したものを比較し考察する。

情報分野:グループワークによるデータ解析・レポートの作成
科学の実験風景
▲科学の実験風景

◆ 地理(1年次)
テーマ:地理に関するデータのグラフ化
 地理のデータブックを活用し数値データをグラフ化することで有益な情報をみつけレポ−トを作成する。



情報分野:資料検索・データの整理・レポート作成(インターネット検索・Excel・Word)

◆ 政治経済(3年次)
テーマ:時事問題
 新聞を3紙以上比較し,レポートを作成する。
1. インターネットを利用して,あらかじめいつごろどんな記事を扱うかを調べておく。
2. 図書館などで新聞を実際に手に取り,比較を行う。
情報分野:新聞・インターネット検索

以下は今後予定されている教科である。
◆ 英語(3年次)
テーマ:英語の自由研究レポート
◆ 家庭科(3年次)
テーマ:家庭経営
7.教科の連携と教材の連係
 前述のように,生物においては,EXCELを利用したグループワークを実施した。この授業では,生徒がフィールド調査を行い集めたデータを,1人1人がグラフ化したものと,クラス全体のデータをグループワークによってグラフ化したものを比較し考察している。この授業が導入されるまで,処理データ数に限りがあったが,コンピュータを利用することによって,大量のデータを扱い分析することが可能になった例である。物理・化学においても,実験と連動する形での有効なコンピュータ利用となった。
 数学においては,Mathematicaを利用した簡単なプログラミングを行ってアニメーションを作成し,接線とグラフの関わりについて理解を深めた。
 多くの文系教科では資料検索を実施した。インターネットを利用することで,通常の授業で触れることのできない資料を各自が自由に調べることが容易になり,生徒は,興味を持って検索していた。これらの教科においては,著作権に配慮し,安易なコピーがないように注意を払い授業を行った。また,インターネットによる検索のみでなく,新聞,文献からの資料検索を行った教科もあった。
 これらの実習は,問題解決を効果的に行うためのコンピュータや情報通信ネットワークの適切な活用方法を理解させることに対し効果的であった。また,著作権の尊重,データの信憑性の問題,情報発信に当たっての責任などの問題に関して,改めて具体的な例を通して考える機会が提供できた。さらに,課題によって様々なソフトウェアを活用するという,情報の統合的な処理方法の学習も深めることができた。
8.授業の様子
 3年間を通して「情報」の授業が開設されているため,1年次に身につけた情報に関する基礎的スキルを維持発展することが可能になった。また,コンピュータの利用など「情報科の授業」が苦手な生徒にとっては科目内容が,逆に「各教科」が苦手な生徒にとっては情報機器の使用が,助けとなって興味を引き出している。さらに,多くの教科で発展的課題が用意されていたため,個人個人の進度に応じた授業が可能になり,興味・関心の高い教科に関しては,高度な内容まで学習することが可能になった。以上のように,テーマに関する内容の質問と情報機器の取り扱いに関する質問が様々に出され,各教科担当者,情報科担当者,生徒の三者が良い関係で授業を作り出すことができた。
 これらの授業を通して,情報技術の活用において配慮すべき事柄を理解し,情報化社会へ参加するために情報技術が必要であることを体験的に学習することができた。
9.今後の課題
 今年で教科「情報」がスタートして3年になり,今回報告した「他教科との連携授業」も完結する。3年間にわたり,多数の教科と連携して1つの教科を行うという試みは初めてのことであった。教室の手配,日程調整など事務的には大変な部分も多かったが,授業内容は満足のいくものであった。授業のテーマが充実しているだけに,時間数が足りないと感じることも多かった。この授業を通して各教科に対しての理解が深まり,情報科としてのスキルが向上していくようにさらに工夫をしていきたいと考えている。
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