3.実践例 |
以下の(1)〜(4)のことを行っています。
(1)新聞を使ってみる
特別に時間を割いて授業を行っているわけではありません。
意見が割れそうな出来事が起こった時など,複数の新聞を持っていって比較してみます。最近では長野県知事選結果が使えそうです。
ここで大切なのは,各紙の紙面を読んでどう思うかという判断をしてもらうのではなく,新聞も社によって色々主張が異なるものなのだというのを理解してもらうことです。「新聞=事実を客観的に伝えているもの」という価値観をゆさぶるのが目的です。
本校の生徒は夕刊紙や雑誌の記事は疑いながら情報を受け取るのに,全国紙に書いてあることは事実だと鵜呑みにしてしまう傾向があります。全国紙であろうと,雑誌であろうと,記者やライターの価値観で書いているもの,その事実を知ってもらうのがねらいです。
毎年,最初の授業で言うことですが「新聞の読者の声の欄って,単に読者の主張だと思ってはダメですよ。送られてきた全ての声を載せているわけではないのですから。何をどういう順番で載せるか考える人がいることを忘れずに。テレビの街頭インタビューだってそうですよ。いっぱいインタビューした中から選んだものを使っているのですよ。必要だと思うところを切ったり貼ったりすることだってあるのですよ」と。
私たちにとってはあたりまえの「編集」という主観的な作業。生徒はこの事実に案外気づいていません。
(2)映像を使ってみる
BGMを変えると映像の印象がどう変わるのかということを体感してもらう授業です。風景の写真のスライドショーに,「軽快な音楽」「悲しい音楽」「力強い音楽」などBGMを変えて流すだけです。
テレビは目と耳に強烈な印象を与えます。BGMは印象を大きく変える力を持っています。そのことを知ってもらうのがねらいです。
見せた後に一言「ドキュメンタリー番組やニュース番組でもよくこの手法が使われていますよ」と。
本校の設備だとパソコンが頻繁にフリーズして授業が成り立たず失敗してしまいましたが,本来ならば写真を10〜20枚程度,BGMを5曲程度用意して,WindowsXPに付属するムービーメーカーなどで音楽つきスライドショー製作させて,発表するという授業も面白いと思います。スライドの順番や音楽を変えることによって印象が大きく変わることを実感してもらうことができると思います。
(3)記事を作ってみる
(1)の応用です。「新聞は記者の主観で書かれるもの。」ということ実感してもらうための授業です。同じものを見ても,書き手だけの視点があることを知ってもらうことがねらいです。
課題:
体育祭後に記事を書いてもらいます。内容は体育祭結果。資料は体育祭得点表。あなたは記者になって記事を書いてください。
上記のような課題を出し,紙に書いて提出してもらう実習です。1時間あれば実施できます。集めた後に発表します(時間があれば全部読み上げます)。
クラス新聞の記事ですから,多くの生徒は自分のクラスのことや学年のことを中心に書きます。
「残念1組 学年優勝を逃す」
「綱引き学年優勝。やったね3組」
「3年4組優勝。5組は総合9位」
などなど自分の主観で記事を作成します。当然ですがクラスが異なれば視点も変わります。
そしてまとめの一言「2つのことを忘れないこと。ひとつは,クラス新聞だから,読み手が自分のクラスだということを念頭において書いているということ。もうひとつは,同じものを見ていても,人によって興味をもつことが異なるということ。実際の新聞記事も同じで,客観的事実ではなく,記者が興味をもって見た事実が書かれていることを忘れずに」
(4)CMを作ってみる
少し詳しく説明します。
授業概要:
PowerPointを使って「コウヨウバーガー」という架空ハンバーガーショップの宣伝を行う。企画書(授業ではシナリオとよび,ショップの基本情報,長所短所などの20数項目の特徴が書かれているもの)を事前に用意して,その内容に沿って作品を制作してもらう。アニメーションの設定などPowerPointで使用できる機能は自由に使ってよいが,「画像はクリップアートのみ」「スライドの枚数は2〜5枚まで」「再生時間は15秒〜30秒」「音は不可」など制約も設けている。PowerPointのリハーサル機能を用いて自動再生できるように設定する。
ねらい:
CMを作ることを通して作り手の視点で広告を見ることができる力を養う
授業時間:
8時間(内PowerPointの操作方法説明2時間)
評価方法:
相互評価(名前を伏せ,他クラスの作品を評価する)
イメージとしては,インターネット広告(動画)です。本来ならば,FLASHなどで作るべきものでしょうが,大切なのはアニメーションの華美さではなく,与えられたシナリオから何を伝えたいか吟味してそれが伝わるようにすることです。
また,教科書のP92以降にあるように本来であれば,問題提起,現状分析,事前調査,企画書作成というワークフローをたどるべきものですが,すべて行おうとすると,企画制作力をつけることができますが「ねらい」であるメディアリテラシーの部分が薄まってしまいます。
作品を制作させて相互評価することがCM製作の本当のねらいではありません。そのため定期考査で以下のようにメディアリテラシーと結び付けています。
3学期の実習ではCM(「コウヨウバーガー」)を制作した。実習中に私が言ったことを思い出して欲しい。「シナリオにあることをすべて盛り込む必要はない。」普段見ているCMや広告にはすべての情報が盛り込まれているわけではない。シナリオにあった「肉が固い」というマイナスの事実を作品に盛り込んだ人はいなかった
・・・(中略)・・・
メディアリテラシーというのは教科書では「氾濫する情報化社会の中で情報を正しく読み解く力」と説明されている。正しく読み解くためには「疑う力」「だまされない分別」の他に「伝えられない事実を意識する」ことが必要である。自分の目や耳に入ってくる情報だけをそのまま受け取っているようでは,情報の発信者に都合の良いように操作されてしまう(だまされてしまう)。そのことを忘れないでほしい。このことはCMや広告に限ったことではない。新聞やTVのニュースですら,すべての事実を伝えている訳ではない。不都合な情報を排除するだけでなく,情報の発信者が都合の良いように情報を切り貼りしていることさえある。以上のことを踏まえながら裏面の文章を読んで設問に答えよ。 |
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このように学年末考査で,ねらい(教師の意図)を明らかにして,1年間の情報の授業のまとめとしています。
以上のような形でメディアリテラシーを踏まえた授業を実践しています。 |
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