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ICT・EducationNo.35 > p6〜p9

教育実践例
普通高校でknoppixを活用した授業実践報告
ー教室環境構築と授業実践の所感ー
東北学院榴ケ岡高等学校 河田拓朗
kawada@ttj.tohoku-gakuin.ac.jp
1.はじめに
 東北学院榴ケ岡高校は宮城県仙台市泉区にある普通高校である。また,学校法人東北学院は,幼稚園・中学校・高校(東北学院中学高等学校・東北学院榴ケ岡高等学校)・大学とキリスト教精神に基づく教育を行っている。大学は土樋・多賀城・泉と3キャンパス,高校は小鶴・榴ケ岡と2校,幼稚園は多賀城の工学部と隣接している。また,榴ケ岡高校は大学の泉キャンパスと同じ敷地にあり,どのキャンパスも緑豊かで,教育環境としては良い場所となっている。
 榴ケ岡高校の生徒数は1008名で,ほぼ全員が進学を希望している。その半数程度は東北学院大学,半数は国立大学・私立大学・専門学校に進学し,就職は1名前後である。
 また,榴ケ岡高校は自学自立をモットーとしており,T.E.A.M.(チーム)榴として教職員と生徒が一つの方向に向かっている。

東北学院榴ケ岡高校
▲東北学院榴ケ岡高校
2.そもそも何故knoppix…
(1)2教室同時展開

 榴ケ岡高校は今まではCAI教室で情報の授業を私一人で展開していた。この教室はWindowsXPが52台(Pentium4 3.6GHz,メモリ1GB,HDD40GB)で,プロジェクタ,スクリーン,プリンタ3台,スキャナ3台の環境であった。

CAI教室
▲CAI教室

 今年になりクラス数が増えたのと,カリキュラム変更に伴いCAI教室だけでは授業が展開しきれなくなったため,視聴覚教室にノートパソコン47台を用意し,CAI教室と視聴覚教室とで同時展開の形となっている。CAI教室を非常勤講師2名の先生に,視聴覚教室を私が担当している。担当は講師の先生が1・2学年(計24コマ),私が3学年と2学年1クラス(16+1コマ)である。3名で展開していくには少し授業数が多い印象がある。

(2)視聴覚教室とノートパソコンについて

 視聴覚教室にもノートパソコン,プロジェクタ,スクリーン,プリンタはある。
 今年度視聴覚教室で使用するノートパソコンは,去年度の経済産業省のOSPP※注1の仙台市地域プロジェクトで使用したノートパソコンで,CFカードにオープンソースソフトウェア(OSS)であるknoppix Edu5の学院オリジナルのディストリビューションを入れて起動している,メモリは768MBである。無線LANカード・サーバ付きで,昨年度の生徒データは全てサーバに保存するシンクライアントシステムとなっていた。また,生徒機のHDDは外付けで台数分別に保管してあった。
 今年度の授業で使用するOSとソフトについては,WindowsXPとOffice2003proを導入しようと思ったが,色々な問題があり,knoppixを使用することとなった(2007.3月中旬時点)。入試が終わり,クラス数が確定してからの話だったので,授業が始まるまでに準備が間に合うのかかなり心配はあった。去年のプロジェクトのままならば,そのままで大丈夫だったが,去年の環境のままでは多少の問題があった。大きなものとしては,Edu5のOSのbootの遅さやOpenOffice.org(以下,OOo)の起動に1分近くかかるということが挙げられる。昨年度も生徒の反応はいまいちで,とにかく遅い,との話であった。そこで,HDD bootにすればだいぶ速くなるという実証があったので,HDDを取り付けることにした。

(3)ノートパソコンの新しい環境設定

HDD取り付け作業
▲HDD取り付け作業

 ノートパソコンの環境設定は以下のようである。CFからHDDへの乗せ変えは全てドライバ1本の手作業で47台全て行った(作業時間計3時間)。
 次に,HDDにWindows(home)のリカバリをかけ(1台60分程度を要する),続いてパーティションを20GB,20GBに切って(1台あたり20分程度),knoppix Edu6を「install 2 win」でコピーした(計8時間程度)。意図的にdual bootの環境を作り授業を試みる方策である。最後に視聴覚教室にノートパソコンを設置し,電源ケーブルの配線を施してある程度の環境まで整えた。もう少し人手があれば早く終わるはずだが,一人で行ったため時間がかかってしまった(4月上旬)。以上のようにして,期間的にはギリギリであったが,視聴覚教室を「knoppixを使用した新たな情報教育空間」に仕上げた。

(4)CD起動とHDDインストール

 knoppixは1枚のCD/DVDで使える便利なOSだが,今年度はHDDにインストールして使っている。CD起動だとしばらく放置しておくとCDの回転が止まり,また作業を始める時に数秒のタイムラグが発生する。ちょっとしたことだが,生徒はこれだけで「使いにくい」という印象を持つ。携帯電話等の反応の速い端末を常時使っている生徒にとってこの時間を有したまま授業するのは厳しいものがあった。
3.授業計画
 個人的に私はPCは好きで小学生の頃からMS-DOSから使っていたが,あまり得意な方ではなく至って普通の人である。教員3年目という初心者であるために,書籍を数冊買い独学し,ネットでも調べてメルマガでUnix/Linuxについて読んだりした。また,東北学院大学工学部ではknoppixを研究していて,実習室に導入し授業を展開してノウハウもかなりあり昨年度のプロジェクトも一緒に行ったというのもあったので,今回視聴覚教室に導入する教室の環境構築でお世話になっている。私もそうだが,生徒も特別慣れているとは考えにくいので一緒にLinuxの世界に触れ楽しく頑張ろうというスタンスで考えた。
 基本的に授業はWindowsで行っていた内容がknoppixでもできればよく,ビジネスソフトを用いた演習と画像・動画編集がパソコンを通して学習できればよい。また,生徒機がLANで接続され,ファイル回収や配布ができる環境が欲しい。授業計画としては以下を考えている。
 継続的な内容として情報モラルの話を取り入れていく予定である。集中してたくさんの内容を指導するより,事例に基づいて説明を交えながら細かく学習した方が効果があると期待している。具体的には,
1.携帯電話・メール
2.掲示板
3.著作権
4.ネットカフェ難民
5.セキュリティ
を中心に,どんなことに気をつけて情報を発信しなければならないのか,どこから情報を得るのか,得た情報の管理はどうするのかなどの内容をに指導する。

時期 アプリ 内容
4月〜 OOo(Writer・Impress・Calc) 文章・プレゼン・表計算
7月〜 動画編集・画像編集 自分史作成
11月〜 ロボット実習 中高大連携計画
4.授業開始
(1)授業展開時の課題

 教室環境を整えるまでに比べ,授業展開時の苦労は少ないが,現在も課題は多い。5月の段階での問題点は,以下の通りである。
1.USBマウスが突然操作不能になり同時にUSBデバイスも認識しなくなる。
2.無線LANの設定方法※注2
3.Dドライブ(hda2)をマウントできない端末がある※注3
 LANで接続されていないため,データは各端末のHDDにディレクトリを作り保存されている。マウントの件に関しては現在は解決をしているが,今後もたくさんの課題が出てきても不思議ではない幕開けとなった。速度はだいぶ速くなっているため生徒の反応は悪くない。ただマウスがなく,トラックパッドでの操作に慣れるまでが大変である。
 生徒が一番苦労していたのが,データの保存であった。マウントの概念がない生徒にとって初めての経験で,慣れないものがあったようだ。また,knoppixでは書き込み許可をしていないので,自分でwrite modeに設定する必要がある。1時間分の授業時間を取る必要はないが,30分程度保存の練習をさせる必要がありそうだ。
 ただ,全体的な印象として,高校3年生ということで,非OSS環境に慣れている生徒が多く,OSSに抵抗がある生徒もいるものの,多少の期間をおいて演習を重ねていくうちに操作も慣れ,十分使えるようになっている。

(2)Writerを使った教科書のダイジェスト作成

 授業開始最初の実践としては,OSについての講義とknoppix環境に慣れることを主の目的として始めた。去年の事例を踏まえて,今年も以下のことを試みようとしている。

授業風景
▲授業風景

 文章作成については,現在はWriterの機能紹介の段階だが,次は教科書のまとめの作成を実践させる予定である。まず,教科書の内容を付録のCDでスライドショーを見せながら解説して,自分なりのダイジェストを作らせ印刷させる。そして,小テストを実行する。 環境として教科書の文字情報はあらかじめ用意しておき,自由にコピーして使えるように配慮する(タイピング練習の授業はしていない)。次の時間に小テストを画面上で実行し,それも印刷をかけて採点してもらう。自分で必要な情報を上手にまとめることができるのか,また時間的な制約がある中で行うことで処理速度を考え自分で時間の計画を立てて実行する実力を養い,同時に必要な知識を得られることを目的としてやらせる予定だ。また,定期試験の範囲とすれば,テスト対策にもなる。
 実際は時間内で体裁よくまとめるとなると時間的にあまり余裕がないため,たくさんのWriterの機能を教えても存分にダイジェスト用紙に表現できない場合があるので,使い方に慣れてきた頃にダイジェストを実践した方がより大きな効果が得られるはずである。

(3)Impressを用いた自分史作成

 文章作成の次に予定しているのは自分史作成である。スキャナで自分の昔の写真(幼少期〜現在)を取り込み(現在学校にあるスキャナはLinuxに対応しているものがないので,Windows環境で取り込む),それをImpress上に貼り付けて自分の昔を振り返る。また,写真の加工・編集としてはフリーソフト「GIMP」を使用する。
 最近の生徒は親とのコミュニケーション不足が心配されており,写真を管理しているであろう親へのアプローチの一つとしてこの課題を用意した。これにより,親は生徒が学校で何を学んでいるのかを知ることができ,写真を選びながら昔の記憶が曖昧な生徒へ昔話を聞かせる機会にもなる。また,アルバムに保存したままでは写真が悪くなっていくので,それの有効活用にもなる。

(4)knoppix Edu6

 今年度は「knoppix Edu6」を使用したが,最新版なので不安定な部分も多く,知識も乏しいため解決するのに時間がかかってしまうことが多い。授業に支障が出ては生徒に申し訳ないので,Edu5に変更することを検討した。また,5月初旬に「ubuntu7.04」が出ているので,これを試してみたいという思いはある。

(5)ネットワーク接続

 7月現在,Edu6をカスタマイズしてEdu5のカーネルを使用している。これにより,マウスは無事止まらず使用できるようになった。カーネルを一つ古いものを使っているので起動時間が数秒遅くなっている。サーバー(Windowsサーバ2003)にsambaを用いて構築を完了し,無線LANでネットワーク接続し,サーバーとのデータ通信も可能になっている。アカウント登録も終わっており,生徒一人ひとりがIDとパスワードを入力し個人フォルダを取得する仕組みになっているので,セキュリティ(プライバシー面)も保たれている。また,生徒機に,教員がデータを生徒と共有したい時に使用する「共有箱」のフォルダと,生徒が作った課題等のデータをサーバーに提出してほしい時に使用する「提出箱」のフォルダを作っている。また,予備で入れてあるWindows環境の方でも無線LANでネットワーク接続をし,共有箱,提出箱を作る段階まできている。これにより,非OSS時代の授業と比較しても大差なく授業を行うことができている。
5.最後に
 現在困っていることは,基本的にOSに関して,またはアプリに関して,疑問・質問などのサポート等があまり場所が多くないことである。また,ドライバでUnix/Linuxに対応しているものは増えているものの,その数が多いわけではない。個人的にはどのOSも良い面があり,どれを使っても授業をすることができる実感はある。非OSSに近い形のOSSのサポートがもっとあればより使いやすい環境になるのではないかと思う。
注1 OSSP:Open School Platform プロジェクト http://e2e.cec.or.jp/osp/

注2 無線LANカードについて
Linux対応版については存在していて,debパッケージのインストールでカード自体の認識は可能となる。ただ,デスクトップ環境は 電源を切る度に失われてしまうため,「継続的なknoppixディスクイメージの作成」で設定を保存しなければならない。ただし,Windows 領域に保存するのでNTFS方式のHDDであるため,Linuxの保存形式であるExt3に完全に対応しておらず多少不安定感はある。

注3 hda2のmount error?
hda2のドライブ上でmountをかけると「The remount command failed.Maybe there is another process accessing the filesystem currently.」のメッセージが出て失敗する。原因はWindowsを何らかの理由で正しく終了しなかった場合に出るメッセージであり,Windowsを起動し直し,正しく終了させてあげるとこの現象は解決する。
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