ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.48 > p30〜p32

情報デザイン指導実践例
“分割”で考えるスライドづくり
千代田区立九段中等教育学校 田崎 丈晴


「情報デザイン指導実践例」では,「デザイン学習会」に参加した先生方が,情報デザインに関する知識を活用した授業実践を紹介します。「デザイン学習会」は,飯塚智江先生(東京都立工芸高等学校教諭)が中心となって有志で行われた情報デザインに関する学習会です。

この指導実践例は,『IT-Literacy 情報デザイン編』の「分割」の単元をもとにしています。
1.はじめに
 筆者は,年間の授業計画の中で,生徒がプレゼンテーションできる時間を設けている。例年,プロジェクト形式の授業で活動の成果を報告するという設定で発表の準備をし,発表会を実施している。授業者としては発表の内容を考えさせるとともに,伝わるスライドを制作できるよう,少しの時間を割いてでも指導したいと考えている。そこで,今回は60分程度の時間で平面の分割を考慮に入れてスライドを制作するよう指導したので報告する。
2.授業のねらい
 今回報告する授業のねらいは,あくまでもスライドの準備をする過程にデザインの要素を取り入れることであり,デザインそのものを学習することではない。特に平面の分割と情報のレイアウトを意識することで,テンプレートに頼らなくとも話の聴き手を意識したスライドを作ることができるようになることが本授業の目的である。
 したがって,今回は分割による平面構成およびその演習のために1単位時間(50分),そして教員による生徒作品のレビューで0.2単位時間(10分)を予定し,学習したことを実際の発表準備に活用する流れに向けられるよう設定した。
3.50分で進める「分割による効果」
 デザインは,情報の受け手がメッセージを受信できるように施すものである。中でも分割による効果を知ることは情報を伝えるための編集や構成を考える上で意義のあることである。このことを確認するために,授業ではまず分割を意識していないスライドの例を取り上げ,その問題点を確認し,次いで分割による平面の構成,分割を意識したスライドの例とその効果を確認する 。
 平面の分割を意識しない例として,プレゼンテーションソフトウェアの起動画面を用いた(図1)。


▲図1 プレゼンテーションソフトウェアの起動画面

 図1のソフトウェアでは,表示されているスライドの中央にタイトルを入力すれば,ただちに発表資料の1枚目を完成させることができるようになっている。ここで確認できることは,構成への配慮がなされていないスライドは,情報の受け手に「スライドを見た」や「タイトルを確認した」以上の印象を与えることが難しいということである。
 そこで,平面を分割してその効果を確認した後で,情報の受け手に対して印象的な「発表資料の1枚目」を考える。
 次に,分割によってスライドの構成についてどのように考えることができるのか,分割例を用いて説明する。
 縦や横の二等分割では左から右への流れや上から下への流れを作ることができる。このことを意識して,異なる2種類の情報の配置を考えることができる。さらに,四等分することで左上から右下への流れを作ることができる。また,縦横の面積比を変えることで動きのある分割をつくることができる。動きのある部分(線が交差しているところ)に視線が集まるので,これを上手に使うことによって自然な視線の誘導が可能になる(図2)。


▲図2 分割の例

 また,色のついている部分とついていない部分では画面の重みのバランスが異なり,それが情報の受け手のイメージにつながってくることや,色や写真を分割にあてはめてスライドを構成することも例を示しながら解説する。比例を意識した分割の一部に色を適用しアクセントにすることで視線を誘導できること,詳細を述べるスライドを作る際も分割に統一性をもたせることによって聴き手にとって見やすいスライドになることも解説する(図3)。


▲図3 色を配置した例

 このことを通して,発信したい情報を分割とレイアウトによって再構成することで,メッセージがより伝わりやすいスライドを作成できることを確認する。
4.授業実践
 授業は,解説10分,プロジェクト報告スライドの表紙制作40分,教員によるレビュー10分で構成した。このプロジェクトの報告スライドは本校では班でひとつ提出すればよいという設定である。しかし今回は全員で表紙を制作して相互にレビューすることで,班としてよりよいスライドを作るよう指導した。ただし,前節での解説内容では,どのような分割とレイアウトが安定感,もしくは不安定感を与えるかについては触れていない。それについては実習で自ら手を動かしスライドの案を作る時間の中で教員が一人ひとりの様子を見ながら指導した。ただし,個別指導では集団としての知識の共有につながらないので,生徒が制作したスライドを教員がレビューする時間をとった。


▲図4 生徒が作成したスライド例1


▲図5 生徒が作成したスライド例2


▲図6 生徒が作成したスライド例3
5.生徒の反応とまとめ
 この授業によって,スライド制作について「見た目を整える」という意識から「情報を効果的に配置する」意識へと変えることに成功した。
 早くプロジェクトを終えた生徒については前もって発表用スライドを作るよう指導していた。その際「できた」と言われて提出されたものは,プレゼンテーションソフトウェアにあらかじめインストールされているテンプレートをそのまま使っているものや,装飾文字を使って見た目をにぎやかにするものがほとんどであった。
 しかし,分割を考える授業では,生徒たちはテンプレートに頼らずに,タイトルや発表者名はどこに置くのかというところから考えてレイアウトしていた。整然とした配置をするものもあれば,分割線をちょっと越えて配置する「遊び」をしてみたりする作品もあったが,見る人の立場に立ってレイアウトできている作品がほとんどであった。
 授業者としても,「分割」は「見やすい」ということを考えるための具体的な基準として活用できる便利な知識であることが体験できたので,デザインの要素を上手に教科「情報」の指導に生かせるよう勉強を続けていきたいと思う。
前へ   次へ
目次に戻る
上に戻る