ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.49 > p12〜p15

見てわかる社会と情報
情報活用能力の育成を意識した教科「情報」の授業
─情報教育の世界的な潮流を見据えた教科「情報」への期待─
玉川大学
堀田 龍也
1.情報教育の世界的な潮流
 情報教育の必要性が世界的にますます高まっている。これまでも情報教育の必要性はさまざまなところで議論され,その結果の一つとして,現行の学習指導要領において高等学校に教科「情報」が新設されるに至った。
 しかし,10年前と現在とでは情報教育を求める社会的な要請が大きく異なる。つまり,これまでは社会の情報化が進展するにともない,情報機器の基礎的な操作スキルなどの獲得を中心とした力が求められたが,今日ではこれらに加えて,膨大なデータを処理したうえで価値を与え,世の中のためになる新たな情報を生み出すといった創造的な活動が求められているのである。
 すなわち,操作スキルの習得のみならず,情報を活用する能力を効果的に身につける学習活動へシフトしていくことが求められている。実際に,「21世紀型スキル」に代表されるように,世界的な潮流として学習活動も含めた教育のイノベーションが進んでおり,その牽引役としての情報教育への期待が高まっている。
 このような世界的な潮流を見据え,日本文教出版の教科「情報」の教科書では,単なる情報機器の操作スキルの習得に留まらず,情報社会に参画する態度や情報の科学的な理解を深め,情報活用能力を身につけられる構成とした。中でも「見てわかる社会と情報」は,スキルの習得から情報の活用までを効果的に身につけて情報社会へ漕ぎだしていけるよう,いままでにない画期的な学習内容の配列やページ構成で編集されている。
 本稿では,この「見てわかる社会と情報」をもとに,新しい情報の授業のあり方を提案したい。
2.授業で扱う順番を意識した章構成
 共通教科「社会と情報」では,世の中で情報がどのように扱われ,自分たちが情報をどう活用して生活すればよいのかについて学習し,情報社会に参画する態度を養うことが求められていることはいうまでもない。そこで,高校生が世の中と自分たちとのつながりを意識しやすいように,全体を通して身近な話題を取り上げて説明するようにした。

(1)ダイジェストとしての第1章
 今日,高等学校で学ぶ生徒はそのほとんどが生まれながらに情報社会で生活してきた子どもたちである。携帯電話は当たり前のツールとなっており,パソコンも家庭や学校に普及し,おもなアプリケーションやWebは日常的に利用している。しかしながら「コンピュータはどういうしくみで動いているのか」などといった,情報に関する知識はあいまいな解釈に留まっており,改めて整理し直す必要がある。
 また,携帯電話などのメディアに日常的に接していると,詐欺や誹謗中傷などの被害に巻き込まれたり,そうでなくても「ヤバい(よくない)」と直感したりする場面に出くわすことは多い。なぜ「ヤバい」のか,その理由を十分に理解していなければ,さらなる被害に巻き込まれやすい。
 「見てわかる社会と情報」の第1章では,情報の授業をはじめる際に,これまでのスキルや体験,知っていることを確認したうえで,これから学習することを見通すダイジェストとしての役割を担っている。これから情報の授業で学習することは,ここで確認したことをさらに深く理論づけすることであり,これを学べば情報社会に胸を張って対峙できるという,目的意識をもって授業に臨ませることができる。

(2)日常的に行う情報活用をまとめた第2章
 第2章では,情報をわかりやすく整理して伝えるということを,学校や日常生活で扱うような身近なデータを題材にして取り組む内容となっている。この章で基本を習得すれば,ほかの問題に直面しても,自らの力で分析・解決したり,他者に説明したりできる。

(3)情報社会の課題をとらえなおす第3章
 第3章では,情報が社会に与える影響について考える。とくに情報モラルに関連する項目を重視した。さまざまな犯罪やトラブルに巻き込まれたり,自ら不適切な行為をすることのないよう,事例をふんだんに盛り込み,しくみや制度を押さえてしっかり理解させることを目指している。

(4)情報通信ネットワークのしくみを学ぶ第4章
 ここまで学習が進むと,情報通信ネットワークがどのようになっているか,自ずと興味をもつようになるだろう。そこで第4章では,情報通信ネットワークのしくみやさまざまな情報システムについて扱い,情報の科学的な理解を深められるような内容になっている。ここでは,第2章で習得したスキルを活用し,さらに深く調べ,得た情報を加工し,他者にわかりやすく伝え合うような学習活動が想定される。

3. 斬新なページ構成
 「見てわかる社会と情報」はこれまでの教科「情報」の教科書にはないユニークで斬新な見せ方になっていることも特徴である。

(1)学習内容のユニット化
 「見てわかる社会と情報」では,その章で学習する内容を従来のような長文の文章形式をとらず,原則としてページ単位の細かなトピックに分けて説明している。こうすることで,教える内容のサイズを小さくし,ページに載っている内容を理解しやすいようにしている。

(2)ポイントを押さえた無駄のない本文
 「見てわかる社会と情報」は,1ページあたりの本文を原則として3行110字程度に収めている。したがって,本文はそのページで理解してほしいことを簡潔にまとめたものとなっている。本文でポイントを示してからイラストなどで解説するという構成は,生徒が親しんでいる雑誌の誌面を意識したものである。もちろん,知ってほしい事柄などはページのイラストだけでなく,キャプションや吹き出しなどで適宜説明されており,資料性も高い構成となっている。

(3)イラストを大胆に配して「見てわかる」
 最大の特徴ともいえるのが,教科書の大半をイラストが占めている点であろう。「見てわかる」の所以である。文章では想像しにくい内容もキャラクターのセリフやイラストの展開を追うことで,複雑なしくみを理解したり,実際に自分が経験したことをよりリアルに想起したりすることができる。

4. この教科書を活用した学習活動
  ここまで,従来の教科「情報」の教科書にはない「見てわかる社会と情報」の特徴について述べてきた。それでは,この「見てわかる社会と情報」を使って展開される授業とはどのようなものだろうか。より具体的なものは,本誌に掲載されている小原格先生をはじめ,現場で教える先生方の優れた実践例を待ちたい。ここでは,この教科書の特徴を活かした,より効果的な学習活動について提案したい。

(1)イラストを用いた言語活動
 この教科書で学ぶ生徒は,イラストを見て,理解するという学習を行うことになる。イラストなので生徒の目に留まり,興味関心をひきやすい。
 さらに,よりしっかりと知識の定着を図るためには,教科書のイラストを見たうえで,それを言語化し自ら説明する活動が大変効果的である。
図1 日本文教出版 「見てわかる社会と情報」の内容例(p.90〜91)
▲図1 日本文教出版 「見てわかる社会と情報」の内容例(p.90〜91)

 たとえば,図1の右ページにあるファイアウォールのイラストを見せた後に「ここではどういうふうに情報が流れていて,ファイアウォールがどのような役目を担っているか,説明してごらん」と発問し,隣の生徒どうしやグループで話し合いの活動をうながすことが考えられる。
 こうした活動は新しい学習指導要領で強調されている「言語活動の充実」にもつながるものであり,そのきっかけとして本書のイラストを有効に活用できる。

(2)スライドで示し,全体で共有する
 イラストには,情報通信ネットワークなどのしくみを説明したものだけでなく,図1の左ページにあるように,トラブルや犯罪などの具体的なケースを解説しているものもある。
 このようなイラストでは,教科書の図版をスライドなどで提示して「この人は何に困っているのかな」,「似たような経験はあるかな」といった問いかけをすることで,教室全体で問題を共有し,協働して解決方法や注意点などを調べたり,確認したりすることができる。
 このように生徒間の情報共有の場面をきめ細かく設けることで,協働学習へと発展する環境が生まれる。
 これまでの教科書では,どうしても文章が中心になりがちで,スライドで説明しようとすると教科書のポイントをまとめた文章を新たに起こしたり,図式化したりしなければならないなど,授業準備に必要以上に手間がかかった。しかし「見てわかる社会と情報」はイラストで説明しているので,スライドデータへの活用も比較的容易である。なお,教科書の図版データは指導書のディジタルデータ編で提供される予定である。

(3)習得したスキルを駆使して情報を活用する
 前半の第2章までで,情報機器や代表的なアプリケーションの操作を習得できる構成になっていることはすでに述べた通りである。第3章,第4章の授業の中で,あるいは,先生方が独自に設定したテーマの中で,積極的にそのスキルを活用する場面を設けることが想定される。
 余談だが,大学における情報教育も大きな曲がり角に立っている。これまでは,おもにアプリケーションの操作を習得させればよかったが,大学での研究や学習を支えるスキルをしっかりと身につけさせる方向へとシフトしつつある。つまり,調べたことをもとに考えたり,議論をしたりしていくような活動が主軸になりつつあるのである。これは大学だけでなく,社会人にも求められている力であり,冒頭でもふれたように,これからの情報教育で身につけなければならない力でもある。
 高校生活では,その3年間でしか味わえない経験をする。ライフサイクルのうえでも,進学や就職といった社会への参画を控えた大変重要な地点である。したがって,情報の授業はもちろんのこと,学校や日常生活の中で,習得したスキルを積極的に活用し,身近な問題を自分たちの力で解決する学習や自己を表現し他者を理解するような活動が,非常に大きな価値をもっているのである。

5. 教科「情報」を教える先生方に対する期待
 情報教育の重要性が年々高まるいっぽうで,日本の情報教育は十分に体系化されておらず,どの学校段階で何を学ばせるかということが教育課程に明確に示されているとはいえない。そのような厳しい状況の中で,小学校や中学校の先生方が,教科「情報」に期待するところは大きい。
 なぜならば,情報活用能力の充実が世界的な潮流となる中,教科「情報」が日本の教育課程で唯一,情報を学ぶ必履修教科として位置づけられ,まだ10年あまりの短い歴史でありながらも数々の優れた実践が生まれているからである。
 いっぽう,教科「情報」の現場では,他教科との兼任で授業準備が十分にできない,大学入試科目ではないために重視されないといった声を耳にする。確かに,これらは今後改善しなければならない課題であろう。
 しかし,その逆境を活かすこともできる。他教科で培った専門性を情報の授業で活用する姿を生徒に示すことは,その一例である。
 また,大学入試も大きな岐路に立たされている。これまでのただ知識を問うだけの試験問題は,世界的にも姿を消しつつある。むしろ,膨大なデータを分析し,そこから価値のある情報を生み出す活動,他者と協働しながら問題を解決したり,思考を洗練させていく能力が問われている。それは,まさに教科「情報」が目指している学びの姿そのものである。
 教科「情報」に寄せられる期待は,これからますます大きなものになってくるだろう。情報教育に携わる先生方は,どうか胸を張って,情報社会を生きる子どもたちの学びを支えていってほしいと思う。
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