ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.6 > p20〜p22

海外の情報教育の現場から
身近な国際交流
富山大学教育学部情報教育課程教育情報システム専攻助教授 黒田 卓
taku@edc.toyama-u.ac.jp
シンガポールの教育制度
 シンガポールは,国土は淡路島ほどの広さで,人口は305万人,中国系,マレー系,インド系という民族構成の,複合他民族国家である。公用語は英語が使用されている。一方,他民族の民族・文化的独自性の保持という点から,児童・生徒の母語(中国語,マレー語あるいはインド系のタミール語)教育にも配慮されている。このために,児童・生徒に英語と母語の少なくとも2言語を習得させることを目標とした教育が行われている。

 教育制度などにはイギリスの植民地支配の名残が色濃く残っており,6歳から12歳まで初等教育,12歳から16歳まで中等教育,16歳から19歳まで中等後教育,19歳からの高等教育に分けられる。シンガポールの教育は義務教育ではないが,97%以上が小学校に通っている。
学校でのコンピュータ環境
 シンガポールはIT2000という国家政策により,2000年に向けて情報化を進めている。教育においては,IT Master Planを設定し,1997年から2002年までの5年計画で進められている。そこでは,以下の4つの目標が掲げられている。

(1)学校間あるいはそれを取り巻く社会との連携の強化
  教員と生徒が学外とのコミュニケーションや共同学習を通して,ボーダレス社会に適合すべく広い視野を持つことを可能とする。
(2)革新的な教育方法の確立
  ITを有効活用した新しいカリキュラムと評価方法を開発する
(3)創造性,生涯学習,社会的責任感の体得
  IT(ネットワークによる通信を含む)を利用した学習により,これらの能力を身につけさせる。
(4)教育における管理の強化
  ITによる教育の(質の)管理やコミュニケーション機能を有効に利用する

  また,これらの目標達成に必要なポイントとして,以下の4つをあげている。

(1)カリキュラムと評価方法の確立
  生徒に能動的に単独で学習するような能力を身につけさせる。また情報を発信し,考え,対話する能力を評価する。
(2)学習のためのリソースの整備
  学習を支援する様々なソフトウェア,インターネットの環境を整備する。
(3)教員のIT教育
  授業に利用するためのIT教育を教員に対して実施する。企業をパートナーとして学校で活用する。
(4)物理的あるいは技術的な基板の整備
  生徒2名にコンピュータ1台を配備,学校のあらゆる場所からITにアクセスが可能。教員2名にコンピュータ(ノート型)1台を配備。全学校が高速のネットワークに接続し,マルチメディアサービスの利用を可能とする。

  これらの具体的実施のために,次のような年次計画が立てられている。

1997年 22のデモ校にITを用いたカリキュラムを適用(Phase I)
1998年 90の学校に適用(Phase II)
1999年 250の学校に適用(phase III)
2000年 すべての学校の教師教育を終了
2001年 生徒2名に1台にコンピュータを配備する。授業の30%でITを利用する。

  すでにSingapore ONEと呼ばれる5Mbpsのネットワークが国土全域に敷設され,すべての小・中学校がインターネットに接続された状態にある。またすべての小・中学校にパソコンと液晶プロジェクタが設置され,ITを利用した授業が可能となっている。日本でもミレニアムプロジェクトで,2005年を目標にすべての教室にコンピュータを液晶プロジェクタを設置し,インターネットが利用できる環境を整備しようと努力されているが,シンガポールはすでにそのレベルに達していると言えよう。
教育現場のようす
(1) Pei Hwa Presbyterian Primary School

 本校は,中国系ミッションスクールで,中国語と英語の教育を行っている。週2日はすべて中国語,残りは英語で授業を行っている。1700人の定員に対し,在学者数は2500人。教室が不足するため,午前と午後の2部制で授業が行われている。コンピュータは教員には二人に1台のノートパソコン,生徒は約5.5人に1台設置され,現在の基準を満たしたものとなってる。

  5年生の英語の授業では,資源のリサイクルがテーマに授業が行われていた。各教室には液晶プロジェクタが設置され,ETD(文部省教育工学局)制作のビデオCDの映像が用いられていた。シンガポールでは,NHK教育のような教育専門TVチャンネルは本年1月から無くなり,制作された教育番組は,ビデオCDの形式ですべての学校に配布されている。

 機器等の操作は各学校に1〜2名ほど配置されているテクニカル・アシスタントが行っていた。本授業の主目的は語学力の修得にあるが,そこで取り扱われている内容は環境問題であり,様々な教科の学習と関連を持った総合的な課題であった。

プロジェクタを使った授業の様子
▲プロジェクタを使った授業の様子

(2) Duman Secondary School

  本校はインド系の中学校で,国のIT実験校に指定されている。この学校では教育用に開発されたEduPADとよばれる携帯端末の利用実験が行われていた。

  EduPADはA5版ほどの大きさの携帯端末で,重量は900g程度。ペン入力ベースのGUIを有する。JAVAアプリケーションが動作し,メモリ16M,マルチメディアカードのスロットを3個有している。アタッチメントを取り付けると無線でLANに接続が可能であり,バッテリーで6時間ほど動作する。

  教科書はすべてデジタル化が行われ,マルチメディアカードに記録される。それらをEduPADに差し込んで利用する。数学や理科のシミュレーションなどは,JAVAアプリケーションで記録され,PADで再生することも可能である。

  EduPAD開発プロジェクトは約3億円の予算をかけて,政府,企業,学校共同ですすめられており,1999年1月からスタートし,昨年8月から,生徒に利用させながら評価実験を行っている。今年度末に最終評価があり,実用化の方向を見極めることになっている。

 校内にはパソコン20台を設置したコンピュータ室が5部屋,各教室にも情報コンセントが複数箇所設置されている。ノートパソコンも40台あり,1クラスあたり10台ずつ貸し出して利用している。図書館にも情報検索用の端末とコンピュータ10台以上が並んだコンピュータルームがあり,生徒が自由に利用できるようになっている。EduPADの開発,評価用に,無線ネットワークが設置された教室が1部屋用意されている。これらの管理には専門の技術職員1名があたっている。

EduPAD
▲EduPAD
おわりに
 1991年にIT2000の構想が打ち出されて約10年。着実にIT化が進められている事を目の当たりにさせられた訪問であった。学校の情報化のみならず,街角のKIOSK端末に至るまで,様々なレベルでのIT化が進められている。

 訪問した3月後半,シンガポールの学校は夏休みに入る。学校での活動はそれほど多く見ることはできなかったが,ちょうどそのときにシンガポール動物園で行われたLearn@Zooのイベントで,その充実した学校でのIT教育の一端を垣間見ることができた。檻のないオープン動物園を所狭しと走り回る子どもたち。その手にはノートパソコンとデジカメ,デジタルビデオが握られており,限られた時間内に目的の動物を取材し,パワーポイントでまとめる活動が行われていた。木陰にはノートパソコンに向かう子どもたちがあふれ,必至にコンピュータを操作しながら,プレゼンテーション資料をまとめていた。

 日本との教育制度の違いもあるが,国家をあげての情報化の進展,それらを支える制度,組織の力など,見習うべき点の多い訪問であった。

learn@Zooの様子
▲learn@Zooの様子
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