ブックタイトル情報科プラス No.001
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情報科プラス No.001
界中でSNS サービスを展開するLinkedin社が’13年9月に発表した調査結果によれば「親の3人に1人はわが子がどんな仕事をしているのか、その職を理解できない」という。その理由の一つに「10年前には、いまある職業の61% が存在しなかった」という事実がある。そんな新陳代謝の激しい情報社会において、いまもっとも将来を嘱望される職がデータサイエンティストである。 そうした中、IBM は90年代初頭にデータ・マイニングを提唱するなど、膨大なデータから価値を見出す技術を開発、普及させてきた。ビッグデータビジネスにおいても、解析技術の精度や、ワンストップでソリューションを提供できるという点で他社をリードする。いわば斯界を牽引する同社において、データベース関連のセールス・マーケティング部門における日本の責任者として同部門を取り仕切り、自らもデータサイエンティストとして活躍する中林紀彦氏に話を聞いた。 「ビッグデータ」が注目を集めています。その最前線にいる中林さんはその可能性をどのように感じていますか? ナショナルクライアントから中小企業まで、さまざまなドメイン*で 改めてデータサイエンティストに求められるスキルとは?3つの領域に分ければ、①ビジネスドメインに対する理解、②数学・統計・IT ツールに対する理解、③マネジメント能力・コミュニケーション能力です。①で目的を見極め、②で導き出した仮説を、③で誰にでもわかる形で伝え、クライアントやチームなどの第三者を巻き込みながら実行に移せる力です。 データサイエンティストの未来とは?データサイエンティストは「世界で最もセクシーな職」と形容されますが、システムエンジニアがそうだったように、技術の進化により、そのスキルを代用するソフトウェア・ハードウェア製品が出現します。データサイエンティストも然り、い多くの分析プロジェクトにかかわっていますが、その結果にはかならず「新たな知見」が示されています。24時間365日持ち歩くスマートフォンからは日々膨大なデータが吐き出されています。スマホに限らず、市場から得られる情報量は膨大です。統計学的に見ても、それらを分析して何も得られないわけがありません。新たな気づきが、かならずあります。守秘義務などで日本での取り組みを簡単に申し上げられないのが残念ですが、逆をいえば、ビッグデータにはそれだけのメリットがあるわけです。企業からすれば探り当てた金鉱をわざわざオープンにする理由もありませんから。 といっても、「ビッグデータ」は、メディアが必要以上に煽りたてているという印象もあります。ビッグデータは端緒を開いたばかりです。ただ一つ言えるのは、ポテンシャルの点で、世間の期待以上のものがある、というのが私の実感です。 「ビッグデータ」でどのような社会が実現しますか?朝、車で通勤しようとエンジンをかけると、道路交通網に設置されたセンサー情報や気象情報などを分析して、会社への最適なルートを案内してくれる。次の日、例えば土曜日に釣りざおをもってエンジンをかけまは重宝されても、この先、その代わりをしてくれる製品が開発されると思います。ただ、5年、10年でのスパンで見れば、その重要性・必要性に疑う余地はありません。しかも、アメリカではデータサイエンティストを育成するシステムが存在しますが、日本にはありません。データサイエンティストの人材は絶対的に不足しているのが現状です。 教科「情報」を学ぶ子どもたちへの思いをお聞かせください。なぜ学ぶのか、何のために学ぶのかをしっかり理解したうえで取り組んでほしいですね。自分自身の経験でいえば、専門的なことをいろいろと学びましたが、あのとき「なぜ学ぶのか」が見えていれば、学びの質も変わっていたと思います。データサイエンティストという職業でみても、解を出す前に、最適なゴールを探たら、行き先は会社ではなく「おすすめの釣り場はここです。最適なルートをご案内しますか?」と語りかけてくれる。あるいは、銀座の街を歩いていたら、ショッピングなりレストランなり、その人が望んでいたクーポンやおすすめ情報などがスマホに自動的に届けられるといったことが実現します。ユーザーにとっては利便性が向上し、企業にとっては一人ひとりのニーズを把握し、TPOに応じたサービスをリアルタイムに提供できる。ほんの一例ですが、こうした社会は2、3年のうちに実現する状況です。 データから新たな知見を導く「データサイエンティスト」にも注目が集まっています。データサイエンティストとはどのような職ですか。 データ分析においてはキーマンともいえる存在です。一般的には「分析者」というイメージかもしれませんが、それだけでは務まりません。データから得た解(仮説)を実行し、問題を解決する必要があります。「精通する」という意味でのITオタクでも、数理オタクでもダメです。分析者としての専門性を突き詰めながらも、目的を遂行するための行動力、マネージメント能力、周囲を取り込むコミュニケーション能力などが必要になります。し出す必要があります。大事なのは目的を見極めること。自然現象などを含めて物事を抽象化、客観視する力という意味では「モデル化とシミュレーション」もとても大切なスキルですね(注:「情報の科学」の教科書をめくりながら)。 筑波大学の依頼で、’14年から、大学院で「ビッグデータサイエンス」という講義を受け持つ中林氏。「IT は道具にしかすぎません。目的に応じて道具をどう選ぶかが大事です。その点を踏まえてしっかり教えたいと思っています」。 実社会、それも情報社会の最前線に立つ中林氏は、さまざまな企業の要望に接するなかで「IT 技術なくして、情報社会を生き抜くことはできない」と強く感じている。そんな中林氏がどのような授業をするのか、いまから楽しみである。IBMが描くビッグデータの未来データサイエンティストが語る情報社会の未来世*ドメイン:領域、範囲、分野。「ビジネスドメイン」は、ビジネスを行う領域を指す。領域を定めることは経営戦略を立てるうえで非常に重要な意味を持つ。▲日本文教出版のWeb サイトで授業用スライドをダウンロードできます。中林紀彦 氏日本アイ・ビー・エムデータサイエンティスト東北大学工学部化学工学科卒。大学時代、インターネットの普及を目の当たりにし、IT 系の職に就きたいと電気部品メーカーに入社。2002 年に日本IBM へ。データベース製品を開発するSE、マーケティング戦略部門を経て、’13 年より現職。N o r i h i k o N a k a b a y a s h iIBMがビッグデータ分野への取り組みを本格化させたのは’08 年に掲げたビジョン「Smarter Planet」にまでさかのぼる。ITと社会インフラの融合によってスマートな社会の実現を目指すと定めた同ビジョンは、現在、IBM世界共通のビジョンとなっている。同社は①新興国市場、②情報解析、③クラウド、④スマータープラネットの4つを成長分野と位置付けている。中林氏が手掛けるのは、ビッグデータを収集・解析し、得られた知見を提供する②の「情報解析」になる。写真はIBM社のCEO、バージニア・M・ロメッティ氏。行政サービスの提供、治安維持や災害予測をコントロールするブラジル・リオデジャネイロのオペレーションセンター。頻発する水害に対しては、気象と洪水予報のモデリングから災害を予測し、市民への警報を発信。被害を最小限に抑えることが可能になった。データサイエンティストの醍醐味は「解析によって求めた最適解を現実社会で実行できること」と中林氏。自社製品を企業に説明する必要があれば、自ら出向く。社内でゆっくりPCに向かえる時間は少ない。Q Q QQ QQ「ビッグデータ」は、メディアが過剰に煽りたてている。ただ、その期待に応えられるポテンシャルは間違いなく、ある――。INTERVIEW3 ICT-EDUCATION WITH TEACHER 情報科+ 2