ブックタイトル情報科プラス No.002
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情報科プラス No.002
代のクルマは電子部品の固まりである。アクセルを踏む、ブレーキを踏むといった基本操作をはじめ、前方のクルマとの距離を一定にキープしてくれる機能や、車線からはみ出しそうになれば自動的に制御してくれるシステムまで、さまざまな機能がICT 技術によってコントロールされている。 そんなICT との融合が加速度的に進むクルマの、その未来を知る手がかりに「テレマティクス」という言葉がある。テレマティクスとは、クルマに双方向の通信機能を持たせ、ドライバーに便利・快適・安心・安全なサービスをリアルタイムに提供する仕組みのこと。現在、カーナビの一機能としてルート探索などが実現しているが、各社はさらなる可能性を追求し、その研究開発にしのぎを削っている。 その一方で、テレマティクスとドライバーを結ぶゲートウェイ的な役割を担うのがカーナビである。テレマティクスへ期待が高まるのと同時に、その重要性が増しているが、なかでもひと際大きな存在感を示すのが本田技研工業(以下、ホンダ)である。同社は1981 年、世界初のカーナビを発表。’03年にはルート探索においてナビ搭載車から得られる走行データ「プローブデータ」を世界ではじめて活用した。そのホンダが手がけるナビの最大の武器は、プ 東日本大震災の際は、プローブデータをもとに「通行実績のある道路」を地図にして、惜しげもなく公表しました。その理由とは? ホンダが震災時の通行実績マップをはじめて公開したのは‘07年の新潟県中越沖地震です。実は、研究段階では「通行できても危ない道もある。それを『通行できる道』として公開してよいのか」という意見がありました。わたしたちにも葛藤がありましたが、「100%安全でなくても、あったほうがいい」という被災者の意見から、思い切ってオープンにしたという経緯があります。独自データを公開したのは、ビジネスよりも「世のため、人のため」という創業者、会社の理念にも通じる判断です。 テレマティクス分野にアップルが参入しました。危機感を示す声もありますが? 速度や燃料の状況、ブレーキ情報ローブデータをサーバでリアルタイムに解析した、精度の高いルート探索。その中核となる技術開発を担うのが、グローバルテレマティクス部の菅原愛子氏だ。女性技術者として「技術のホンダ」で活躍する菅原氏にお話を伺った。 なぜカーナビの技術開発を? 大学時代にはデジタルマップの精度を高める研究をしていました。社会貢献の手段はいろいろありますが、モノづくりで社会貢献したいという思いがあり、そんな時、創業者・本田宗一郎の自伝を読んでホンダを希望しました。入社後すぐに配属されたのがインターナビ開発部で、いまはルート探索を含む「交通情報」と「防災情報」の2分野を担当しています。 他社との差別化において最も重要な開発分野はどこですか?一番はデータの解析技術です。ルート探索にも「最速」や「最短」、「料金が安い」などさまざまな要因解析があります。しかし、一度、ロジックを組めば「あとはコンピューターにまかせて」というわけではありません。その時、その場所の環境により道路状況は日々変化します。まるで生き物のような道路に合わせて、ロジックを変更し、解析精度を高めていく必要があります。たとえば大など、車内には多くのデータが流れています。それらをC* AN データといいますが、それを持つのは自動車メーカーだけです。ホンダは4輪だけでなく2輪もあります。総合的に事業にあたれるのが強みで、それを失うことはないと思います。ただ、プローブデータでいえば、ホンダだけが持っているものではありません。現在、主たる活用はルート探索になりますが、プローブデータの利活用には、まだまだ大きな可能性が残されていると思います。 インターナビの今後についてビジョンをお聞かせください。 現在のカーナビはいわばマスメディアで、ひとり一人に合った情報の提供には限界があります。将来的にはひとり一人違う情報を提供できるようにすること。そういう意味でも先程のプローブデータの役割がますます大きくなってくると思います。型連休では、事前に開発部署の人間が集まって、どうロジックを組み立てるべきか、さまざまな予測をしながら「あーでもない、こーでもない」と議論するんです。コンピュータが勝手に解析していると思われがちですが、実は人の手があって成り立つ部分も大きいのです。 プローブデータにはどのような情報が入っていますか?GPSから得られる「位置」と「時間」がメインです。つまり、ある車が「いつ、どこを走っていたか」ということ。シンプルですが、数分や数秒という短いインターバルで集めれば、分析に有用なデータになります。 解析方法を具体的に教えてください。主要道路の交通情報(V* ICS)にプローブデータを加えて分析します。たとえばサーバに届けられるデータには、ガソリンスタンドに寄ったのか、渋滞なのか区別がつかないものもあります。異常値と思われるデータはサーバ側でス* クリーニングなどして、3つの解析を行います。1つはプローブデータによるリアルタイム予測、2つ目に過去のパターンと照合するパターンマッチング予測、3つ目に中央値などの統計データを用いる統計予測です。「技術者はつくったものにわが子のような愛情があります。そのため、批判を受け入れにくいところもあって、だからこそ人の意見には謙虚でありたいんです」と菅原氏。ルート案内はドライバーにわかりやすい分、クレームにもつながりやすい。解析結果と実際の走行にズレが生じたと聞けば、ときに現場まで足を運び、その原因を探るという。あらゆる課題がICT で解決する一方、ICT では解決できない領域もある。そんな地道な苦労・取り組みがあってはじめて成り立つ技術だけに、これまで築いてきたホンダの牙城もそうやすやすと崩されることはないだろう。巨大IT 企業が参入し、覇権争いが激化する「テレマティクス」。次世代自動車の行方を占う同分野で、ホンダが次にどんな手を打ってくるのか、いまから楽しみである。ホンダが示すカーナビの未来現VICS:警察や道路管理者などから集められた道路交通情報(渋滞や交通規制など)を、カーナビなどの車載機に送信するシステム。CAN データ:速度、ブレーキの状態、エンジンの回転数などのデータ。CAN は「Car Area Network」の略。スクリーニング:選別すること。▲日本文教出版のWeb サイトで授業用スライドをダウンロードできます。ホンダが手がける双方向通信型のカーナビ「インターナビ」。インターナビ搭載車から収集される走行データ(プローブデータ/フローティングカーデータ)を用いることで精度の高いルート探索を実現。会員数は220万人、毎月得られる走行データは約3億km、蓄積されたデータは8000億kmにものぼる(’14年4月現在)。インターナビはプロジェクト「dots」でソーシャルネットワークとの連携を強化している。写真は、インターナビが扱うリアルタイム情報をインフォグラフィックスとして可視化した「dots now」。エンタテインメント領域のサービス・技術開発も、テレマティクス分野における重要なテーマだ。東日本大震災では交通網が寸断されたが、プローブデータを「通行実績情報マップ」として震災翌日に公開し、被災地を支援した。ビジネスを超え公益性を優先させたこの取り組みは、各自動車メーカーに波及。ITS・Japan が走行データを集約し「Google 自動車通行実績情報マップ」で公開するなどの取り組みにつながった。ソーシャルマップ「SAFETY MAP」。インターナビから集められた①急ブレーキ多発地点、②警察や交通事故総合分析センターからの交通事故情報、③地域住民が投稿した危険箇所を、地図上に掲載。公益を優先した取り組みに高い評価が集まる。Q QQ QQQ Q自動車×ICTの最前線ホンダ・インターナビ開発者に聞く自動車社会の未来菅原愛子 氏本田技研工業株式会社グローバルテレマティクス部 サービス研究開発室 チーフ中央大学理工学部情報工学科卒。大学時代はディジタル地図の精度を高める技術の研究を行う。子どもたちに夢を与えられ、なおかつ、モノづくりで社会貢献したいという思いからホンダに入社。入社以来、現在に至るまでインターナビの開発一筋。A i k o S u g a w a r aINTERVIEW3 ICT-EDUCATION WITH TEACHER 情報科+ 2