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概要

情報科プラス No.003

 倍内閣が成長戦略の柱と位置づける「攻めの農業」。*農林水産物・食品の輸出額を’20年までに1兆円にすることを政府目標として掲げるが、かたや農業の現場に目を向ければ、農家は減少の一途を辿り、従事者の高齢化・後継者不足は危機的な状況にある。さらに*TPP 参加が見込まれるなか国際競争力の強化が喫緊の課題となるなど、農業が直面するハードルは想像以上に高い。 そんな農業の諸問題を解決する策として、いまもっとも期待を集めているのがICT である。 ICTと農業の融合、いわゆる「*スマートアグリ」には、富士通やNEC などに加え、パナソニックやトヨタ自動車など多くの企業が参入し、それぞれがその可能性を探っているが、国内シェア5割超のスナック菓子メーカー「カルビー」は、ポテトチップスなどの原料「ジャガイモ」の生産に、かねてからICTを活用してきた。 そのカルビーで、ジャガイモの調達を一手に引き受けるのがグループ企業である「カルビーポテト」。’80年にカルビーの原料調達部門が分離独立する形で設立され、現在は原料の調達から貯蔵、運搬、商品開発・製造などを手がけている。同社で、ジャガイモ栽培技術の研究・開発を行う馬鈴薯研究所の小野豪朗氏にお話を伺った。を農家に通知するなどします。 カルビーポテトが仕入れるジャガイモは年*23・5万トン(H25年度)。北海道をはじめ、九州や関東の産地で2000 近い契約農家によって収穫されている。同社が仕入れるこの量は、*日本で収穫されるジャガイモの約1割にあたり、これがカルビーのポテト系スナックへと生まれ変わる。 日本は生のジャガイモの*輸入を規制しており、仮にジャガイモが不作となれば、本社への影響は計り知れない。同社がジャガイモを確保できるか否かは、まさにカルビーの生命線となっている。  ICT活用のむずかしさはどこにありますか? 北海道の畑は3000枚、面積でいえば5600haもあります。実 ICTを活用してどのような取り組みをされていますか?ジャガイモの難敵は「気候」と「疫病」です。そのため、センサーによる気象データを活用し、天候と生育の関係を解析したり、疫病の発生を予測するなどの栽培管理を行っています。 ここ北海道では全部で5つのセンサーを設置し、気象データを10分ごとにサーバに送ります。わたしたちは畑を所有し、直接栽培するのではなく、約1100の農家と契約し、畑ごと買い取ることでジャガイモを調達しています。そのため、データ解析から、たとえば疫病の発生が予想された場合は、農家の方々にメールを送り、対策をとってもらうなどのサポートを行っています。 なぜICTを活用するようになったのですか?畑にセンサーを設置したのが’08年です。それまでは、契約農家の経験や勘がすべてで、それらの知見を共有できないかと考えたのがきっかけです。実は、日本のジャガイモ栽培技術は、世界に比べ遅れています。欧米でイモはいわば主食で、長い歴史のなかで培われた技術があります。日本の主食はお米でその技術は世界トップレベルでも、ジャガイモの歴史はそう長くありません。北海道は一毛作で仮に20年取り組んだとしても、たった20回分の知見しか得は、先程お伝えした「施肥のタイミングや量」も、畑が3000枚あれば3000通りの対策が存在します。最終的な判断を下すのは農家です。つまり、ICTはあくまでもツールで、使いこなすのはわれわれ人間です。農家の方々にはその点も含めて周知し、ICTを最大限活用してもらえる環境をつくることが重要だと思っています。 ICTの利活用について、今後の展望を教えてください。広大な畑で1枚1枚の生育状況を把握することには限界があります。その解決策の一つとして期待しているのが、衛星から畑を撮影し、生育を管理するシステムです。小麦はそのシステムが一部実現していますが、それをジャガイモに応用できるかといえばそうでもありません。ジャガイモでもそれができるように、ゆくられません。気候も土壌も違う欧米の技術をそのまま取り入れることはできないため、欧米の技術を日本の風土に合う方法に変えながら、そこに、科学的な視点を持ち込むことで、少しでも契約農家をサポートできればという思いで取り組んでいます。 その効果は?  意外かもしれませんがジャガイモ栽培はとても難しく、その難しさを例えるなら10回やっても1度も満足のいく結果を得られないほどです。データを解析することで、収穫量は増えており、その手ごたえを強く感じています。わかりやすいところでは、ジャガイモは光が当たると緑色に変色し、ソラニンという有害物質を生成します。緑化するとその部分を削り落す必要があり、手間もコストもかかります。この緑化を防ぐヒントがデータにあったのです。ジャガイモは種イモを土中に植え、*培土します。そのとき、種イモの深さが培土から15cmより浅いと緑化し、17cmより深いと腐敗リスクが高まることがわかりました。つまり、種イモは15?17cmのわずか2cmの間に植える必要があったのです。また、栽培をはじめて2カ月経ったとき、生育が適正か不良かの判断の分かれ目が、茎の高さ「20cm」という数値にあることもわかりました。仮に20cmに満たなければ施肥のタイミングや量ゆくは自分の手で取り組みたいという想いがあります。 ポテトチップスを筆頭に、「じゃがりこ」や「じゃがビー」などポテト系スナックの販売が好調なカルビー。ジャガイモは他の作物に比べて手間も暇もかかる作物といわれるが、好調な販売を背景に、必要とされる量も現在の23・5万トンから、 ここ4年で30万トンにまで増えると見込まれている。小野氏に課される責任は、ますます大きくなっていく……。「カルビーには農家と農家、農家と会社を結ぶフィールドマンと呼ばれる人間がいます。現職の前はフィールドマンでしたが、情報を伝えることで農家の方々に喜ばれたことはいまでも忘れられません。いまはそれをICTの力で効率よくできるうえ、農家の方々に喜んでもらえる以上、どんな苦労も苦労ではありません」。カルビーポテトが取り組む農業×ICT10回やって10回とも思うようにいかないのがジャガイモ栽培。センサーを活用したデータ分析の取り組みがいまようやく実を結ぼうとしています。安TPP:環太平洋戦略的経済連携協定の略。農産物などの関税撤廃を原則とする経済的な枠組み。交渉には参加するが、正式な参加はまだ決まっていない。農林水産物・食品の輸出額:2012年時点での、農林水産物・食品の輸出額は約4500億円。スマートアグリ:造語「スマートアグリカルチャ」の略。植物工場に代表される、ICTを活用した農業やその技術を指して用いられる。日本で収穫されるジャガイモの量:250 万トン(H24 年産)。輸入を規制:疫病の流入を阻止するため。 培土:土を寄せること。▲日本文教出版のWeb サイトで授業用スライドをダウンロードできます。Q Q QQQ1980年にカルビーの原料調達部門が独立し、誕生したカルビーポテト。’99年、東京から北海道・帯広に本社を移し、現在に至る。ジャガイモを調達し、カルビーの全国の工場にジャガイモを届けるほか、自社の帯広工場では「じゃがりこ」などの製造も行っている。カルビーの商品には、ポテトチップスやじゃがりこなどの?ポテト系スナック、「フルグラ」などの?シリアル食品、「チートス」などの?コーン系スナックに分類される。カルビーの売上のうち、約5割をポテト系スナックが占める。なお、ポテトチップスは国内シェア約7割を誇る。カルビーポテトが本社を置く北海道・十勝地方の農場。カルビーポテトが仕入れるジャガイモ23.5万トンのうち、北海道で収穫されるジャガイモは18.6 万トン、そのうち10.2万トンがここ十勝地方で収穫される(データはすべてH25年実績)。農場に設置したセンサーは、温度、湿度、降水量、風向き、風速、日射量など詳細なデータを集める。収集したデータは10分おきにサーバに送られる。集められたデータは、別に収集した生育データと照らし合わせて分析される。農業×ICTの最前線カルビーポテトが描く農業の未来小野豪朗 氏カルビーポテト株式会社馬鈴薯研究所佐賀大学農学部応用生物科学科卒。原料生産も手がけるメーカーを希望し、カルビーポテトに入社。5 年前より馬鈴薯研究所に所属。馬鈴薯研究所が担う研究分野は①品種開発と②栽培技術の開発の2つに分かれるが、小野氏は後者の栽培技術の開発研究を行っている。Ta k e a k i O n oINTERVIEW3 ICT-EDUCATION WITH TEACHER 情報科+ 2