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概要

情報科プラス No.004

Q 現できるかどうか」に興味はない。ただ「どうすれば実現できるか」だけを考える――。千葉工業大学の研究機関「未来ロボット技術研究センター」で所長を務める古田貴之氏。自らもロボット工学者として、先鋭の研究開発メンバーを束ね、国や企業と連携をはかりながら、画期的なロボットを次々と開発してきた。たとえば、福島第一原発事故では、廃墟と化した建屋で、階段を1段も登れず退散する海外メーカーに対し、古田氏が開発したロボット「*クインス」は、文字通り道なき道を切り拓き、原子炉の「冷温停止」に大きく貢献した。ロボットを開発する組織・メーカーは数あれど、福島第一原発建屋の1?5階すべての階で活動できたロボットは世界でただ一つ、古田氏のクインスだけだった。 冒頭の言葉が示すように、ロボット工学者として、数多くの不可能を可能にしてきた古田氏。誰にも真似できない独創的な発想と技術で、世界的にも著名な同氏にロボットの未来について伺った。fuRo(フューロ)とは、どのような組織ですか? 簡単にいえば、大学と企業のよさを合わせた組織。大学傘下で研究分野が制限されることもないし、企業のように短期的な成果を強いられるえるという** 実証プロジェクトです。空港、お台場、国立競技場を舞台に、自動運転車や新しい交通システム、人工知能搭載のパーソナルモビリティの活用などを計画しています。ロボット技術の課題とは? 日本はロボットで、世界をリードする高度な技術を持っています。しかし、技術はあくまでも技術。素材にしかすぎません。大切なのは、その素材を用いてどのような世の中を作り出すか、未来を描く力だと思います。未来の設計図=グランドデザインを描くことが大切です。最後に、教科「情報」を学ぶ子どもたちへの思いを聞かせてください。 ロボットを支える技術は多岐にわたります。機械工学、電気電子工学、こともありません。中・長期的な研究開発ができ、国の研究機関ではむずかしい一般企業とのコラボも自由にできる組織です。 ぼくがロボットを開発するのは、ロボット技術を使って、人が幸せになれる社会をつくり出したいから。それを実現するためには、大学でも、国でも、法人でも限界があった。それならばと、fuRoを設立しました。fuRoには知能、制御、センサなど、ロボットの要素技術を専門とするメンバーが揃っています。制御だけ、人工知能だけといった組織が多いなかで、ロボットのすべてを開発できるのが特徴です。fuRoのロボット開発スタンスは? 形はどのようなものであってもいいと思っています。ただし、社会の役に立つものであること。そのためには、社会に流通させる必要があります。ロボットを構成する要素技術を研究開発しながら、産学と連携をはかり、新産業を提案していくことがわれわれの役割です。そもそもロボットとは何ですか? ロボットといえば、ヒューマノイド型をイメージしますが、ロボットを定義するのはカタチではありません。感じて、考えて、動く――この3情報技術、人工知能、プログラム、物理、数学……、挙げればきりがないほど多くの知識・技術が必要です。いわば、産業技術、理系学問の頂点に立つのがロボット工学です。実は、そんなロボット工学の要ともいえるのが情報通信技術。とりわけソフトウェアは、ロボットの「魂」といえるものです。メカと電気が完璧でもソフトウェアがなければロボットは動きません。これからの時代、身のまわりのすべてのモノが情報通信技術なくして成り立たない。次世代産業の要です。ロボット工学と情報通信技術を極めれば、どんな技術も実現できる。ハリー・ポッターよろしく、現代の魔法使いにだってなれるのです。情報通信技術が「未来をつくる」学問であることをしっかりと理解して学んでほしいですね。 少年時代、古田氏は不治の病といつのはたらきを備えた「賢い機械」がロボットです。技術的な観点から言えば、「感じる」部分は電気電子(エレクトロニクス)、「考える」部分は情報処理、「動く」部分は機械(メカ)です。 ロボット技術者であるぼくのもとには、国や企業などさまざまなところからオファーが来ます。それはつまり、ロボットが社会に一番近い技術だからです。言い換えれば、ロボットに必要な技術は社会のあらゆる領域で活用されているのです。家や病院、冷蔵庫や洗濯機、カメラやクルマ、その内部にはすでにロボットが入っています。いまや家電もクルマも家も「先端技術」を開発しているのは「ロボット技術者」と言えるくらいです。なぜ、いまロボットが注目を集めているのですか? 日本の産業はかつてない危機に面しています。理由は様々ですが、誰かに真似をされる技術や人と同じことをやっていては、その状況を打破することはできません。真似できない技術を開発すること。それが日本に残された唯一の道です。 では、それを可能にするのは何かといえば、実は日本政府も三本の矢の施策のひとつに「ロボット」を挙げています。具体的にはオリンピック開催に向け、ロボット技術で街を変われる難病にかかり、余命宣告を受けている。車椅子生活を余議なくされたとき、「車輪がロボットのような足だったら……」と感じた体験が、ロボット工学者としての原点になった。「人と環境にやさしいロボットを開発する」。古田氏がロボットにかける情熱にはそんな想いがある。「技術というものは、高度になればなるほど人にも環境にもやさしくなるのです。たとえばクルマ。技術が未熟だから、環境を破壊して道を整備しなければならないし、ボタンを押したり、ハンドルを回したり運転操作・技術が求められる。技術が高度になれば、どんな道でも、免許がなくてもだれもが乗れる乗り物になるはずなのです。人間も未熟であれば、人に厳しくなる。技術も同じです。ぼくはロボット技術を高めることで、人が幸せになれる社会をつくりたいのです」。古田貴之氏が描くロボットの未来情報処理技術とロボット技術は次世代産業の要。この2つを極めればハリー・ポッターにだってなれる。* クインス:fuRo が開発したレスキューロボ。優れた駆動能力だけでなく、画像をもとに三次元マップを生成し、周囲の状況をリアルタイムで認識する能力を持つ。**「ユニバーサル未来社会推進協議会」。会長を元・文部科学副大臣・鈴木寛氏が、副会長を古田貴之氏が務める。▲日本文教出版のWeb サイトで授業用スライドをダウンロードできます。移動ロボットの可能性を追究した「未来の乗り物」のコンセプトモデル。人工知能を搭載した8 本の足が、環境に応じて「車輪」モードと「脚歩行」モードに切り替わる。坂道や段差などの悪路も水平のまま移動する。若者から高齢者まで世代を問わず使える乗り物を目指し、開発された。車両、キックボード、カート、キャリーの4形態に変形するパーソナルモビリティ「ILY-A(アイリーエー)」。歩行者などを検知して止まる人工知能を搭載。商品化されていないにもかかわらずグッドデザイン賞を受賞。商品化の予定もある。高機能なロボットを、複雑な操作をなくし、直観的に操作するために開発されたコックピットシステム。福祉機器や未来の乗り物など、実現の可能性が高い「ロボットの遠隔操作」に不可欠な技術。研究をはじめると、寝食を忘れるほど没頭してしまう。多忙を極めるなか、研究の合間を縫っては学生を指導し、小中高生向けの出前授業も行う。難解なロボットの魅力を、だれもが理解できるように説明する古田氏の話に触れ、ロボット技術者を志す子どもは多い。ロボット×ICTの最前線。気鋭のロボット工学者が語る日本の未来古田貴之 氏千葉工業大学未来ロボット技術研究センターfuRo 所長’68 年東京生まれ。青山学院大学卒。工学博士。青山学院大学助手時代に、前例のなかったヒューマノイドロボットの開発に成功。その後、科学技術振興機構では世界初の人工知能搭載サッカーロボットやバック転もする運動能力を備えた「morph2」などを開発する。’03 年より現職。Ta k a y u k i F u r u t aINTERVIEWQ QQ QQ実