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概要

情報科プラス No.006

 棋や囲碁で人工知能が人間に勝つには、あと10年はかかる――そんな定説も、今は昔となった。将棋ソフト「ポナンザ」がプロ棋士を破り、より難易度が高いと言われる囲碁においても、グーグルの開発した「アルファ碁」が世界王者を下した。将棋や囲碁のように、限られた情報を扱う分野では人に勝る能力すら見せ、医療や自動運転など幅広い分野での活用が期待されている人工知能。しかし、現実の課題を解決するという面においては、まだ発展途上の段階だ。 こうした現状に対し、AI ベンチャー企業・エクサウィザーズで代表取締役社長を務める石山洸氏は、その先にある「人工知能を社会的な価値にどうつなげていくか」こそが重要だと言う。リクルートAI 研究所を立ち上げた生粋の人工知能開発者でもある石山氏が、エクサウィザーズという新しいフィールドで取り組むのは、介護と人工知能のコラボレーションだ。いま、彼の目に人工知能の描く未来はどのように映っているのだろうか。人工知能の研究・開発をはじめたきっかけは? もともと私は文系の人間で、理系に転向し、人工知能の研究をはじめたのは大学院からなんです。それまで携わってきた経済学や社会学、教態がどう変化するかといったことを一緒に記録します。いわば介護のビッグデータです。このビッグデータを人工知能で解析することで、「どういうケアをしたときに介護拒否がなくなるか」というメカニズムを解明できるようになりました。ケアをする人は、どのような恩恵を受けられますか? 介護者向けのスマートフォンアプリを開発しました。スマートフォンやタブレットで撮影したケアの動画に、「もっとこうしたほうがいい」と、介護の熟練者がペンで書き込むかたちで、手軽に指導を受けることができます。そしていま、この熟練者の指導を、人工知能に学習させているところです。このシステムを使えば、ケアの様子を動画で撮影するだけで、人工知能がより良いケアの方法をフィードバックしてくれる――そん育などの文系的な領域に、どうやったら人工知能を活かせるかと研究していました。大学院卒業後、リクルートに入社したのは、人工知能を使って現実の課題を解決したいという想いがあったからです。リクルートも当時は、雑誌やフリーペーパーといった分野が強い文系寄りの会社でしたが、人工知能研究所を起ち上げ、就職、結婚・出産、住居といったさまざまな領域で人工知能を導入してきました。それがひと段落したときに、人工知能をもっと幅広く、社会全体に適用できないかと考えるようになり、いまの仕事に至ります。どうして介護の領域に力を入れているのでしょうか? 現在、日本は超高齢社会に直面し、2045年には、日本の人口の6割が50代以上になるとも言われます。そうなると、あらゆる人が介護する当事者になる可能性があるのです。ですが介護の技術はそう簡単に身につくものではありません。人と人とのコミュニケーションはむずかしいものですが、介護、とりわけ認知症の方とのコミュニケーションはさらにむずかしくなります。たとえば、認知症の患者さんをケアする場合、これからどんなケアをするか理解してもらうだけでも大変なのです。これがうまくいかないと介護拒否という問題が起こります。なことが実現できる目途が立ったのです。ほかの分野でも、人工知能の活用を考えていますか? 実は弊社のこのシステムを、介護以外の領域でも活用したいというお話をいただいております。人工知能で熟練者のテクニックを学ぶ「AIコーチング」は、接客や営業、保育、スポーツなどさまざまな領域で活かせると考えています。 AI コーチングをもっともうまく活用しているのは、将棋の世界で大活躍している藤井聡太四段ではないでしょうか。普段は人工知能でトレーニングを行い、本番は自分で戦う。こうした学び方は将棋に限らず、すべての産業で生まれてくるでしょう。私たちは、「一億総藤井四段化計画」と呼んでいるのですが、人工知能による学びを通してすべての人が 着替えを例に、介護拒否が起こるメカニズムを考えてみましょう。1メートルくらいの距離から「これから着替えますよ」と伝えて、相手の服を脱がそうとする。実はこれだけでは、患者さんにこちらの意図を伝えることはできません。患者さんは、服を脱がされた瞬間にはじめて、自分の身に何かが起きていると気がつきます。自分の服が知らない間になぜか脱がされている――そんなの誰だって嫌ですよね。それで患者さんが嫌がって言うことを聞いてくれなくなるのです。では介護の熟練者はどうしているかというと、20センチくらいまで相手に近づいて、目線を合わせてから、「これから着替えますよ」と話しかけます。これではじめて、こちらの意図が患者さんに伝わるのです。人工知能でどのような課題を解決できますか? 医療の世界では、科学的な根拠に基づいて医療が行われています。一方、介護・ケアの世界ではそうでははありませんでした。何をしたら介護拒否がなくなるか、認知症の方がうれしいか、ケアする側の負担が減るかといったことが、科学的な根拠として解明されてこなかったんです。 ここで人工知能の出番です。ケアしているところを全部動画で撮り、患者さんのリアクションや、脳の状生き生きと働けるようにしたいと思っています(笑)。人工知能で社会はどのように変わるでしょうか? 今後は「学ぶ」と「働く」という2つの世界の距離が、より縮まってきます。「こういう仕事に就きたい」という目的を達成するために、高校・大学でどのように学べば、その可能性が高まるのか。そうした、人工知能が分析した情報が学生自身にフィードバックされ、学ぶ手段もAI コーチングで用意されます。ここで大切なのが、人工知能が目的自体を考えるわけではない、ということです。目的を設定するのは人間の役割で、人工知能が行うのは目的達成のサポートです。ですから、「目的自体を発見する力」は、人間が今後も育てていかなければならない部分だと思っています。エクサウィザーズが取り組む人工知能×ICT人工知能を社会的な価値にどうつなげていくか。それが重要なんです人工知能×ICTの最前線。介護の領域で芽生えた人工知能の無限の可能性株式会社エクサウィザーズ代表取締役社長東京工業大学大学院総合理工学研究科知能システム科学専攻修士課程修了。株式会社リクルートホールディングス入社後、弱冠32歳にして同社の新規事業開拓、先端テクノロジーの開発研究を行うメディアテクノロジーラボ所長に就任。その後、人工知能研究所Recruit Institute of Technology を創設。2017 年10 月より現職。石山 洸 氏K o I s h i y a m aINTERVIEWQ QQ QQ Q将cExaWizards, Inc.介護の技術を指導するためのスマートフォンアプリ。ケアの動画に、介護の熟練者が手書きで印をつけたり、音声を録音したりすることで、指導を行う。このシステムの背後では人工知能が指導内容を学習しており、いずれは人工知能自身が利用者に指導を行うようになる。より多くの人に人工知能を活用してもらうべく、教育サービスも展開。企画・経営者層向けの基礎知識や活用事例の紹介から、エンジニアを対象としたしくみの解説、人工知能システムの作成演習まで対応する。インドのアンドラ大学との基本協定書調印式。同大学との共同研究を活かし、人工知能を搭載したセキュリティカメラを開発している。インドにおける人工知能を活用した交通安全事業は、2018 年4 月に実用化を目指す。学習済みの人工知能を提供するAIプラットフォーム「exaBase」。CT画像から心臓の冠動脈を抽出する医療向けAI や、バスケットボールの動画から選手を識別して試合の分析に活かすスポーツ向けAIなど、多彩な領域に人工知能の活用を提案する。3 ICT-EDUCATION WITH TEACHER 情報科+ 2