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概要

情報科プラス No.006

テレビや新聞で、見ない日はないというほど注目されている人工知能。人工知能の研究・開発が盛り上がっている背景には、「ディープラーニング」という手法の存在があります。ディープラーニングとは何か、これまでの人工知能とどう違うのか、株式会社ロックオンのマーケティングメトリックス研究所で所長を務める松本健太郎氏に伺いました。人工知能研究の基本ディープラーニング、機械学習、ニューラルネットワーク難解な用語をわかりやすく解説連載企画[ 授業のネタ帖] 実は人工知能が産声を上げたのは1956年のことで、現在に至るまで3度のブームがありました。 最初のブームは60年代、人工知能研究の黎明期です。迷路やチェスなどルールとゴールが決まっている問題をコンピュータに解かせることが研究の中心でした。しかし、現実の問題や課題にはルールがなく、ゴールの定義も曖昧です。ゲームは解けても現実の問題には太刀打ちできない――そんな失望感から冬の時代を迎えます。 80年代の2度目のブームは、エキスパートシステムの時代です。 エキスパートシステムでは、「Aの場合はBをする」といった知識のパターンを人工知能のプログラムに記述することで、コンピュータにある種の判断を行わせます。医師など専門家の知識を記述し、医療診断を行うなどの取り組みが研究されました。 しかし、書き込むべき知識の量は膨大で、メンテナンスも大変という課題が解決できず、ブームは次第に下火に向かいます。 90年代後半になると、ウェブの時代が到来し、膨大なデータを取得できるようになりました。これが、コンピュータに無数のデータを読み込ませて、データの規則性やルールから〝モデル〟を見つけさせる「機械学習」にマッチし、検索エンジンに利用されるなど徐々に広まりを見せます。 機械学習によって得られたモデルにデータを入力すると、解が導き出されますが、人間にはなぜコンピュータがその解を出したのかを理解できません。「膨大なデータ」を武器に、人間がこれまで気づかなかった解を導き出すところに、機械学習のスゴさがあるのです。 2006年には機械学習の新しい手法として「ディープラーニング(以下、DL)」が登場し、現在のブームを迎えます。これまでの機械学習は、データのどこに注目してモデルを作るかを人間が指示していましたが、DLではデータの特徴を見つけ出すこともコンピュータにやらせてしまうところに新規性があります。DLは自動運転、医療診断、農作物の判定、異常検知など、さまざまな分野で大きな力を発揮すると期待されています。人工知能はいま、3度目のブーム! DL の、「コンピュータが大量のデータの中から注目すべき特徴を見つけて、データの規則性を学ぶ」という部分を、詳しく見ていきましょう。 従来の機械学習では、コンピュータがデータの規則性を学習するうえで、データのどこに注目すべきか(特徴)を人間が定義していました。たとえば、りんごの画像を判定する人工知能を作る場合、「色は赤や緑、円形で、ヘタがある」のように、画像のどこに注目すればいいかを人間が指定したうえで、学習を行う必要があったのです。しかしこの場合、特徴をどう設定すれば高い精度が得られるかは、勘や経験を頼りに、何度も試行錯誤するしかなく、従来の機械学習のネックとなっていました。 DL は、従来の機械学習をもう一歩押し進め、データの規則性を見い出すための特徴の定義もコンピュータ自身に行わせます。DL にデータを学習させると、「色は赤や緑、円形で、ヘタがある」といったりんごの特徴を、コンピュータ自身が「発見」します。 おもしろいことに、人間が特徴を事細かに設定するより、DLに任せたほうが、高い精度の分類結果が得られる場合もありました。また、DLは非常に細かなところまで特徴を設定するため、データの認識精度が一気に高まったのです。ディープラーニングは何がすごいのか? DLには、人間の脳神経(ニューロン)を模した「ニューラルネットワーク(上図①)」という数式モデルが使われています。ディープラーニングの「ディープ」という文字通り、ニューラルネットワークの中間層を多層化することにより(上図②)、複雑な判断ができるようになったのです。猫の画像を例にもう少し具体的に説明すると、1層では直線や弧など部分的な特徴しか抽出できませんが、第2層ではそれをもとにヒゲや目といった特徴を定義し、第3層ではさらに口や額まわりといった特徴を定義して……、という処理を繰り返します。この繰り返しによって最初は単純な特徴しか抽出できなかったものが、顔全体のような画像データが持つ特徴を獲得できるようになるのです。 その一方で、DLが自律的に特徴を抽出するためには、モデルを生成するための膨大な学習データが必要になります。実は、DLのアイディアは’43年に発表された「形式ニューロン」にはじまり、かなり昔から着想されていました。いま、DLの研究が本格的になってきたのは、情報のディジタル化によって大量のデータが収集可能になったことや、コンピュータの処理能力の劇的な向上という基礎的な技術の進歩があったからです。ディープラーニングは何がディープなの?解説・監修 松本健太郎人工知能の歴史従来の機械学習ディープラーニング株式会社ロックオンコーポレート戦略本部 経営企画部兼 マーケティングメトリックス研究所 所長お話を伺ったのはコンピュータに読ませる・ヘタがある・色は赤・形は丸い注目ポイント(特徴)は人間が設定コンピュータに読ませる・ヘタがある・色は赤・形は丸い特徴はコンピュータが考えてくれるコンピュータに読ませる・ヘタがある・色は赤・形は丸い注目ポイント(特徴)は人間が設定コンピュータに読ませる・ヘタがある・色は赤・形は丸い特徴はコンピュータが考えてくれる①ニューラルネットワーク入 力出 力重み重み入 力出 力②ディープラーニング入 力出 力重み重み入 力出 力DL で人工知能が猫を認識する2012年、グーグルが「DLで人工知能が猫を認識できるようになった」と発表し、大きな話題となりました。これは、DLを用いた人工知能が、人間が指示をしなくても、膨大な画像データの中から「猫」の画像に見られる特徴を学習し、その特徴を持つ画像を「猫」の画像だと判定できるようになったからです。* ナイーブベイズ法:確率に関する定理「ベイズの定理」を使ってデータを分類する方法のこと。1960年頃~第1 のブーム│人工知能黎明期● コンピュータによる「探索」が可能になった。● 迷路を解く、チェスを指すといった単純な問題を扱うのが得意。● さまざまな要因が絡み合う現実の問題は解決がむずかしい。1980年頃~第2 のブーム│エキスパートシステム● 人工知能に、専門家の知識を取り込むことで精度の高い推論を行う。● 専門家が持つ膨大な知識をヒアリングして、オペレーターが1つ1つコンピュータに入力する必要があった。1995年頃~第3 のブーム│機械学習● 人間が普段行う「学習」→「判断」のサイクルを、コンピュータ自身に行わせることで、大量のデータを学ぶことが可能になった。● 機械学習の手法はナイーブベイズ法*やクラスタリングなどいくつかの種類がある。ディープラーニングもそのひとつ。効果的なマーケティング活動を実現するための、人工知能プログラムの開発・研究を行う。政治、経済、文化などさまざまなデータを扱ったデータジャーナリズムや野球の統計分析が得意。松本 健太郎 氏Kentaro Matsumoto7 ICT-EDUCATION WITH TEACHER 情報科+ 6