ブックタイトル教育情報No.10
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教育情報No.10
ている。何事も続けていると、どうしても壁にぶつかるときがくる。それに負けずに立ち向かっていくことで、自己を成長させていく術を身につけてきた。これは、何もスポーツ選手に限ったことではない。誰でも人生において、辛いことや苦しいことがあるはずだ。そういうことにどう立ち向かって乗り越えていくか。これが生きる力だと私は考えている。 選手が不調なときには、課題を明確にするように伝えている。何がよくないのか漠然としたままで繰り返していても、状況は変わらない。まずは原点に戻り、角度を変えて取り組んでみる。これは、なかなか勇気のいることだ。変化をつけると、最初はうまくいかず、どうしても失敗してしまう。しかし、これをおそれてはいけない。この失敗の中から不調を乗り切る鍵を発見できるのだ。 私は指導者として、新たなことにチャレンジして失敗している選手については、大いに励まし、その努力を認めるように心がけている。 現役時代、私も不調に悩まされたことがある。勝たなくてはいけない、強くなくてはいけないという、見えない何かに追い詰められているような感覚にとらわれていたとき、今は亡き母からの手紙にあった「初心」という言葉が私を救ってくれた。 ―そうだ。柔道が好きだから、今まで続けてきたんじゃないか! 柔道が好き。これが、私の「初心」だった。母が残してくれたこの「初心」という言葉は、今も私の座右の銘である。 私は5歳の頃から、父が指導者である道場に通っていた。今にして思えば、父はわが子を柔道家として育てたいというよりも、柔道を通して親子のコミュニケーションを築く時間を取りたかったのかもしれない。 こうした中で、自然と礼儀の大切さを学び、その経験が友達の家へ行ったときの挨拶へつながるなど、人間力の礎となる部分を鍛えられていったように思う。 選手たちにも、柔道だけ強くなればよいのではなく、人間力を高める必要があることを述べている。誰しも、自分ひとりの力はたかが知れている。 周囲の人々のサポートがあってこそ、競技に打ち込むことができるのだ。それを念頭に置き、周囲への感謝の心を忘れないようにしたいと、私自身も常々心がけている。 現在、7歳の長女と6歳の長男が遊び感覚で柔道を始めている。楽しみながら体を鍛えてくれればくらいに思っているつもりだが、近くで見ているとついつい熱が入り、声が大きくなってしまうのが困りものだ。親子のコミュニケーションと感謝の気持ちシドニーオリンピック(2000年、ロイター/アフロ)全日本柔道男子監督東海大学体育学部武道学科准教授1978年宮崎県生まれ東海大学体育学部武道学科卒業後、同大大学院体育学科研究科修士課程修了柔道は5歳のときから始める。内股、大内刈、背負い投げを得意とする攻撃柔道で数々の結果を残した。2000年シドニーオリンピック100㎏級金メダル、1999、2001、2003世界選手権100㎏級優勝2001 ~ 2003年全日本選手権優勝2008年引退2012年から柔道全日本男子監督2016年、2020年東京オリンピックまでの続投決定著者プロフィール● 井上 康生 (いのうえ こうせい)03